第一章 第六話
6.広間にて
「あれぇ、冬馬さんたちは?」
広間に入ってきた可愛いエプロン姿の彩香が、ホールに佳月と西都しか姿が見えないのに気づいて尋ねる。
「あいつらなら風呂に入りに行ったぜ」
「お風呂ぉ?」
西都の返事に、怪訝そうな表情で聞き返す。
「温泉があるって言っただろ。早速入りに行ったんだよ」
「ええー。あたしも誘ってくれればいいのにー」
「残念だけど、混浴だぜ?」
残念そうな表情の彩香に、西都が意地の悪い笑みで追い打ちをかける。
「そうなの?あたしは構わないけど。後から行こうっと」
さらりと切り返されてしまった。
「ところで、夕飯はまだなのか?」
「まだよ。慌てない慌てない」
「“一休み一休み”ってか?」
顔を見合わせて笑う2人。
ちょうどその時、風呂上がりの3人がホールに戻ってきた。
「彩香さぁん、夕ご飯まだぁ?」
風雅が、言いながらぼふっとソファーに倒れ込む。
「一休さんがいるわ」
「???」
3人が笑う。笑われた風雅は、きょとんとした表情のまま、彩香・西都・佳月の3人の顔を見ている。
「もう少しよ、風雅クン」
「ところで、今晩あたり一雨きそうだぜ」
「マジかよ?」
冬馬の言葉に、佳月が窓を開けて空を眺める。果たして先ほどまで快晴だった空には、早くもどんよりと厚い雲が立ちこめていた。
「本当だな。ついて早々雨とは、ツイてるんだかツイてないんだかわからんな」
そう言って肩をすくめる。
「ええー!せっかく夜おフロに入りに行こうと思ってたのにィ。残念だわ」
「何が残念なんですか?」
そこに、夕食を乗せたワゴンを押した姫香と琴音が入ってくる。ワゴンに乗せられた食器群から、食欲を刺激する香りが流れ出てホールを満たす。
「お、できたみたいだな。いい匂いがするな」
「美味しそ~。誰が作ったのぉ?」
冬馬と風雅が口々に言う。
「ほとんど彩香さんよ。私たちはお手伝いをしただけよ」
琴音が言うと、『そうなの?』と言いたげな顔で風雅が彩香を見る。すると『まぁね、ふふん』ってな感じで自慢げに胸を反らす。
「さぁ、この彩香さん特製のディナーと行きましょうか!」
そうして夕食が始まった。
手を忙しく動かし、あれこれとつつく者。
華麗とも言える箸捌きで多大な戦果をあげる者。
取り皿に山のように盛り上げ、『俺の陣地だ』と言わんばかりの者。
様々ながらも、賑やかに和気あいあいと夕食は進んでいった。
「今晩はどうするの?」
風雅が、食後のお茶を飲みながら一同を見回す。
大体の者が食事を終えてくつろいでいる。
智博、西都、彩香の3人がまだ皿をつついてはいたが。
「んー、そうだなあ。とりあえず片づけが終わったら1人ずつにコピーを渡すから、読みつつ推理開始と行こうか。ところで風雅」
「なぁに~冬馬さん」
「お前・・・意外にジジむさいな」
「ほっといてよ」
真顔で言う冬馬に憮然とした表情を見せると、渋い色合いの湯飲みに入っていたお茶の残りを一気に飲み干して、無言のまま右手を冬馬に向けて突き出す。
「な、なんだよ」
少々たじろいだ表情の冬馬。
「コピー。くれるんでしょ」
「あ、ああ。そうだったな」
ごそごそとバッグの中からコピーの束を7部取り出すと、テーブルの上に置き、全員に取るようにうながす。
表紙には『霧の牢獄』とだけ書かれていた。
「さぁ、考えてくれたまえ」
そういうと、ソファーに深々ともたれたまま目を閉じる。
冬馬をのぞいた7人は、一斉にコピーの束に目を通し始めた。