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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第一章 『虚構もしくは現実』
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第一章 第四話

4.旅路


 七月下旬。


 いよいよ“合宿”出発の日を迎えた一行は、四人ずつに別れて二台の車に分乗し、目的地である山形県O市へと向かっていた。

 先導するサーフには、運転手の冬馬と西都、琴音、風雅の四人が。後ろに続くレガシィには、運転手の智博、そして佳月、彩香、姫香の四人が乗っている。


 二台の車はやや渋滞気味の首都高速を抜け、川口JCから東北自動車道へと入り、一路山形ICへと北上を続けていた。


「ええっ!? 彩香さんが最初に死んじゃうのぉっ!?」


 サーフの後部座席で原稿用紙の束に目を通していた風雅が、素っ頓狂な声を上げる。


「驚いただろ?」


 しっかりとハンドルを握り、前を見たままで冬馬が満足げな笑みを浮かべる。


「うん。すっごく意外。まさか彩香さんだなんて・・・。今頃あっちでもびっくりしてるんじゃないかなぁ。それとも怒ってるかな?」


 くすくすと小さく笑いながら後ろの車を見てみると、案の定レガシィの後部座席から身を乗り出すようにして、彩香が何事かわめいている。きっと文句でも言っているのだろう。風雅はにっこりと微笑んで手を振ると、前へ向き直って、再度原稿用紙の束に目を落とす。


「確かに彩香ちゃんだってのは意外だったな」


 助手席のウィンドウを少し開け、タバコの煙を吐き出しながら西都が言う。


「なんでですか?」

「ん?だって、彩香ちゃんは“いかにも”動かしやすそうなキャラだろ」

「言えてる~」


 西都の台詞に風雅が相づちを打つ。


「それは彩香さんにひどいですよ~」


 そうは言いながらも、琴音も口元を押さえている。

 この様子を見ると、彩香はよほど単純な性格をしているのだろうか?


「まぁ、まだ第一幕だからな」


 冬馬がニヤリと意味ありげに笑う。


「お、何か企んでる笑い方だな、そりゃ」


 西都のツッコミにも、冬馬は意味ありげに笑うだけ。


「そういえば、今日行くところって貸し別荘みたいなところだそうですね」


 僅かの沈黙の後、ふと思いついたように琴音が西都に尋ねる。


「ああ。親父の知り合いの持ち家でね。ただ同然で貸してくれるっていうからさ。『鍵の管理だけはしっかりな』ってクギを差されたけどな」

「じゃあさ、ボクらの貸し切りだね☆」

「そういうことだな。つまり、夜通し騒いでても誰にも文句は言われないって事だ」

「やったね」


 風雅がパチパチと手を叩く。その後、読み終わったらしい原稿用紙の束を琴音に手渡す。

 琴音も早速とばかりに原稿用紙に印刷された文字を目で追っていく。


 一方その頃、レガシィでは原稿用紙のコピーを真っ先に読んでいた彩香が憤慨していた。


「何であたしが第一の犠牲者なの!信じらんない!!」

「まぁまぁ彩香ちゃん。落ち着いて」

「そうですよ、彩香さん。ただの小説なんですからムキにならなくても」


 佳月と姫香がかわるがわるになだめる。


「でもぉっ!」


 いまだ噴飯やるかたないと言った感じの彩香。


「それにほら、『第一の』ってことは、まだ誰かが犠牲者になるって事ですから。お仲間がいることですし、ここは落ち着いて行きましょうよ」

「・・・なんか、すごく釈然としないフォローよね、姫香ちゃん」


 姫香のどことなくピントのずれたフォローに彩香がツッコむ。姫香は柳に風とばかりにふわふわと笑っているだけだ。


「ま、文句は向こうに着いてからいくらでも冬馬に言ってくれよ」

「そうする。ぜぇったいに文句言ってやるんだから!」


 そう言って、再びコピーの束に目を落とす。

 時折、『ふうん』とか『へぇー』とか、独り言を漏らしながら一枚ずつコピー用紙をめくっていく。


「なぁ、智博」

「な、何ですか?」


 佳月が運転席の智博に声をかけると、智博はハンドルをがっちりと握って、やや前屈みの姿勢のまま、声だけで返事をする。まるで免許取り立ての初心者のようだ。実際に初心者みたいなものらしいが。


「お前、運転手向きじゃないな・・・そんなことはどうでもいい。目的地には何時ごろ着くんだ?」

「さぁ、そんなことは知りませんよ」

「無責任だな、おい」


 少し呆れたように佳月が言うと、智博はむっとした様子で、


「初めて行くんですから、そんなこと知るわけないでしょう!」

「怒るなよ・・・」

「あ、西都さんが『到着するのは夕方過ぎになるだろう』って言ってましたよ」


 姫香が彩香からコピー用紙の束を受け取りつつ言う。

「そうか、じゃあ着いたら夕飯だな」


 ナイスフォローと心の中で思いながらと佳月が言う。


「あたしの料理の腕前を見せてあげるわ!!」


 後部座席から、またしても身を乗り出すようにして彩香が言う。


「げ。じゃあ胃薬の用意をしとかないとな」

「あ、ひっどぉーい。見てなさいよ!」


 真顔でからかう佳月の首を絞めるまねをしながら、彩香が声も高らかに宣言する。


「はいはい。首を洗って待ってるよ」


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