終章 その3
3.闇の底
薄暗い部屋の中、1人の少女がノートパソコンの画面に見入っている。
画面には何かの文書が開かれている。
「冬馬・・・。それなりには楽しめたわよ」
ロールマウスを動かしながら次々と画面をスクロールさせていく。
一時期世間を騒がせた殺人事件の真相がそこには映し出されていた。
とある大学生グループによる小旅行で起こった残虐な連続殺人。
「ふふ・・・。絶筆になっちゃったね」
楽しげに微笑む少女、風雅。
冬馬が保身のための切り札として書こうとしていた『真実の真実』は、誰の目に触れることもなく、今こうしてここにある。
「風雅・・・?」
突然に耳に飛び込んできた声に飛び上がらんばかりに驚く風雅。
慌てて振り向くと、そこには琴音の姿が。
「び、びっくりさせないでよ、琴姉」
ほっと胸をなで下ろす風雅。
「どうしたの、急に?」
「ううん、風雅が部屋にこもりっきりだから・・・」
心配そうな表情で風雅の方へ歩み寄ってくる琴音。
風雅は素早くマウスを操作すると、ダミーに用意してあった文書に切り替えて、それを読んでいるふりを装う。
「ああ、ちょっと学校の宿題でレポート書かなくちゃなくて」
「ふうん・・・そうなの」
琴音が後ろから画面をのぞき込んでいる。
一応ダミーを開いておいて良かった、そんなことを風雅が考えていると、琴音の腕が後ろから抱きすくめるように回される。
「どうしたの、琴姉・・・」
後ろを振り向こうとしたとき、首に感じた違和感。
「ぐっ!?」
その瞬間、ものすごい力が首に掛かる。
何か細い糸のようなものが首に巻き付いていて、それが一気に引き絞られる。
「・・・!!」
首を絞められているせいで声も出すことができない。
それでも力を振り絞って後ろを振り向くと、琴音が笑顔のままで両腕を交差させて糸を引き絞っている。
「ごめんね、風雅姉さんのいうことは聞かなきゃいけないの」
「(どういう・・・こと?!)」
風雅の頭を驚きが支配する。
「もういいの、風雅姉さんのふりは止めて。風雅姉さんはずっと私と一緒にいるのよ」
そういって天使のような微笑み。
「(そう・・・やっぱりダメだったのね)」
自嘲気味に心の中で笑うと、力がだんだんと抜けていく。
「(冬馬・・・。やっぱり殺しておくべきだったのね、琴音を・・・)」
薄れゆく意識の中で風雅は最後に冬馬に詫びた。
それきり、風雅に意識は闇の中へと落ちていった。
なおも風雅の首を絞め続けていた琴音が、はっと気がついたように力を緩める。
「風雅姉さん?」
死体に語りかけているのかと思ったがそうでもないようだ。
琴音は天井を見上げて耳を澄ます。
「わかった。それでずっと一緒にいてくれるのね・・・」
ふらりと立ち上がると、琴音はどこかへ歩いていった。
風呂場で手首を切って自殺している琴音の死体が発見されたのは翌日だった。
先だっての連続殺人の関係で連絡を受けた山形県警の国友刑事、並びに二階堂刑事は急いで東京へ駆けつけていた。電源の入ったままのノートパソコンから発見された『真実の真実』は捜査陣を戦慄させた。
「見事に騙されたな・・・。『事実は小説よりも奇なり』たぁ、良く言ったもんだ。なぁ、二階堂」
「ええ・・・」
小さく頷き返す二階堂。
「帰って報告だ。行くぞ」
そう言って国友刑事はさっさと歩き出した。
後には二階堂刑事だけが取り残された。
彼はぐるりと部屋を見回し、最後にノートパソコンの画面に目をやると1人呟いた。
「『そして誰もいなくなった』・・・か」
彼は軽く肩をすくめると歩き出した。
ふと振り返る。
そこには画面を食い荒らすように動くスクリーンセーバーが映っているだけだった。
これにてお仕舞い・・・




