第五章 第五話
5.救出、そして告白
それから3日後、琴音と風雅の2人は西都の叔父である敷島氏の手によって発見され、氏の連絡で駆けつけた地元警察と救助隊の手によって洋館から救出された。
予定を過ぎても下山してこず、嵐のこともあって心配した敷島氏が様子を見にやってきての事件発覚であった。
相当衰弱していた2人はすぐさま地元の救急病院に運び込まれ、意識の回復が待たれていた。
2人が目を覚ますと、医師付き添いのもとで事情聴取が行われた。
なにせ洋館の中に6人もの男女の死体である。このセンセーショナルすぎる事件はすでにマスコミの嗅ぎつけるところとなり、今か今かと解決が待たれているところだった。
「一体何があったのか、詳しく説明してもらえるかね?」
山形県警の態度の偉そうな強面の刑事(国友政弘、52歳既婚。子ども1人)が、口調だけは努めて優しそうに問いかける。
「・・・」
惨劇の様子を思い出したのか、年かさの髪の長い美少女、つまり琴音がぶるっと身を震わせる。
その横では不安げな面もちで琴音を見る非常によく似た少女、風雅。
「洋館に着いた次の日に・・・」
琴音という少女が声を震わせながら切れ切れに語り出した。
“メンバー”のこと。
“合宿”のこと。
洋館に着いた日のこと。
彩香が死んだ時のこと。
智博が殺されていた時のこと。
冬馬が殺されていた時のこと。
その後、突然西都が襲いかかってきたこと。
姫香がその犠牲となったこと。
語られた内容は非常に不可解で刺激的なことだった。
特に、襲われた3人が命からがら部屋に立てこもった時の事を話そうとした時には、姫香が緩慢に死へ向かっているのを為すすべもなく見ていただけだったことを思い出したのか、琴音という少女は気を失いかけてしまった。
慌てて支える風雅なる少女がキッと国友刑事を睨み付けたときには、柄にもなく狼狽えてしまった。
それでも、幾度か休憩を挟んでの長い事情聴取の後には事件の全貌が大体明らかになっていた。
「ふん、決まりだな」
古めかしい、使い込まれた手帳をぱたんと閉じて国友刑事が1人ごちる。
「本当にそうでしょうか。なんだかあまりにも現実離れしていてにわかに信じられないのですが」
斜め後方に付き従っていたもう1人の刑事、二階堂良夫(32歳、独身恋人アリ)が声をかける。
「馬鹿野郎。アメリカさんでは小学1年生が同級生を射殺する時代だぞ。イッちまったアホな大学生がこんな事件やらかしたって不思議じゃねえだろうが。じゃあ何か、あの可愛らしい女の子2人がホトケさん6人を殺したってのか?」
“可愛らしい”をやや強調しながら国友が二階堂を怒鳴りつける。
「いや、そうは言ってないじゃないですか」
しどろもどろになってしまう二階堂。
確かにあの2人がこんな事をするとは思えない。
だが、外見にだまされてはいないのだろうか。
「大体だな、現場から発見された痕跡も証言と一致してる。凶器の指紋もばっちりだ。これで決まりじゃなかったらどうするってんだ。ドラマの見過ぎか小説の読み過ぎだぜ、二階堂」
「・・・そうですね、確かにその通りだ」
その通りだ。
そんな推理小説みたいな話がそこいらにゴロゴロと転がっているわけがないではないか。常識で考えろ二階堂、そんなことを考えて自分の頭を軽く小突く。
「わかったか。そんじゃ、署にかえって報告だ」
そう言って歩き出す国友。慌てて後を追う二階堂。
病院の玄関を出てパトカーへ乗り込む刑事たちを見送る2つの人影。
「良くできました」
小声で言って、にっこりと微笑む風雅。
「・・・・・・」
表情というものが消えてしまったように無言のままこくりと頷く琴音。
「くすくす。これからどうしようか、ねぇ琴姉?」
琴音は変わらず無表情のまま風雅を見つめている。
「もとには戻してあげないよ、琴姉。壊れちゃったら困るからね。きっとホントのことを思い出しちゃったら壊れちゃうでしょう?」
顔を近づけると、琴音の黒い瞳をのぞき込む風雅。
瞳には風雅自身が写っている。
「・・・」
琴音は相変わらず無言のまま。
「ふふ、ずっと一緒だよ。しっかりと見張っていてあげるから。壊れないように」
きゅっと琴音の身体にしがみつくと、琴音の唇に自分の唇を重ねる風雅。柔らかな唇同士が触れ合い、かすれた吐息が洩れる。
唇を離すと、もう一度瞳をのぞき込む風雅。
「ずぅ~っと一緒ね、私の可愛い琴音」
にぃっと唇の端をつり上げ、邪悪な笑みを浮かべる風雅。
( なんだろう・・・頭の中がぼぅっとして・・・。
( 風雅姉さん?どうして笑っているの?何か良いことがあったの?
( 何があったんだろう・・・私は何をしているんだろう・・・。
( 風雅姉さん、そんなに顔を近づけてどうしたの?怖い目で見ないで・・・。
( だめ・・・何も考えられない・・・。そう、この瞳・・・。
( いつか見た怖い目・・・。
靄がかかったような頭の中で、一対の瞳が琴音を見つめている。
いつでも琴音を変えてしまう一対の黒い瞳が。
心の奥底で、誰かが泣いているような気がした。
全く無表情のままの琴音の瞳から、一筋の涙がこぼれた。




