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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第五章 『始まりの終わり、もしくは終わりの始まり』
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第五章 第三話

3.贖罪


 つい先刻、館から逃げ出そうとした佳月を首尾良く殺し終えた西都は、ゆっくりと広間の階段を2階へと上っていく。注意はしているのだが、それでもきしきしと微かに階段がきしむ音がする。

 階段を上りきると左手の方へと折れて進んでいく。

 その先には琴音と風雅、そして姫香の割り当てられた部屋があるはずだった。次の犠牲者を求めているのだろうか。


 一体何の目的があって?


 琴音と風雅の部屋の前で静かに立ち止まると、一度辺りをぐるりと見回してから静かにドアノブに手をかける。ぐっと力を入れるとドアノブはぐるりと回って扉がいとも簡単に押し開かれる。なんと不用心なことだろうか。

 部屋の中は暗かった。カーテンも閉められていたし、照明もつけられていない。暗さに目の慣れていない西都がパチパチと目をしばたかす。すると、ベッドの上に白い服を着た人影が寝転がっているのが見て取れる。


「(これでよかったのか?)」


 人影にぼんやりと目を向けて無意識のうちにそんなことを考えてしまう西都。


「良かったのよ」


 西都の考えを見透かしたかのように、暗闇の中から唐突に声がする。

 同時にしゅぼっと音がしてジッポーライターに火がつけられる。オイルの燃える甘い匂いがして、サイドテーブルの上に置かれた燭台のロウソクに火が灯る。

 ゆらゆらと不定型に揺らめくロウソクの光の中に現れたのは琴音だった。

 先刻までの取り乱した怯えた少女の姿はどこにもなかった。

 そこには、まるで感情を失ってしまった機械人形のような冷たい表情で西都を見つめる黒いドレスの女神が1人。


「し、しかし・・・」

「いいからお座りなさい」


 狼狽えた表情の西都にイスに座るように促す。

 西都は琴音の言葉に諾々として従い、椅子に腰を下ろす。


「本当にこれでいいのか・・・?」


 もう一度自問するように呟く西都。

 その後ろから、首に腕を巻き付けるようにして何者かが抱きつく。

 ひっと小さく息をのむ西都。


「そんなに驚くこと無いじゃない」


 風雅が西都の耳元で小さく囁く。

 普段の無邪気な、はしゃいだような少年の声ではなく、低く、甘い囁き声。


「ボクのために殺してくれたんだもの。いいに決まってるでしょう?」


 楽しそうな声で言う風雅を相変わらずの無表情のまま見やる琴音。

 西都からは風雅の表情を伺うことはできなかったが、見ずともはっきりとわかる。きっと、心底楽しそうな無邪気な笑みを浮かべているに違いない・・・。そんな西都の推測は当たっていた。琴音を黒い死の女神とするならば、風雅は遊びで人間を殺すような無邪気な少年神だった。


「ふふふ・・・、やっと殺してくれたね。約束、守ってくれたんだね、蒼」


 親しげな調子でささやきかける風雅。


「こ、これで良かったんだろう。お、俺は・・・」


 西都の声が震えている。何かに怯えているように。


「うふふ・・・。ようやく冬馬を殺せた。他のみんなには悪いけど、せっかくだからお供をつけてあげないと寂しいかもしれないでしょう?」


夢見るような表情の風雅。怯える西都とはまるで対照的な表情だ。


「あの事故以来、ずっとこのときを待っていたんだよ。あの事故のせいでボクはこんな身体になってしまったんだから。入院していたときにこのことに気付いて愕然としちゃったよ。この状態のまま、全く成長しないなんて」


すっと回していた腕をほどくと、ゆっくりと歩いて西都の前へ回る風雅。

 その姿を見て、はっと西都が息をのむ。


 風雅は全裸だった。揺らめくロウソクの明かりに白い裸身が映える。


「ほら見て、蒼。全く成長しないの」


 風雅が小さく笑う。

 ほっそりとしたなよやかな身体のライン。首筋から胸元へ、平らな胸元から下腹部、そして太股へと流れていくなめらかな曲線。一筋のむだ毛すらない白いすべすべとした赤ん坊のような肌。そして、細くくびれた腰の下にはまごうことなき少女の証。

 吸い込まれるように注がれる西都の視線に、くすくすと含み笑いを洩らす。


「誰のせいだったかしら、蒼」


 口調まで少女のそれに戻って西都に問いかける風雅。


「あ、あれは冬馬がいたずらで・・・」


 そう、あれはたわいもない少年のいたずらだったはずだった。あんな事さえ起こらなければ・・・。

 すべてがあの時から狂い始めてしまっていたのだ。


「そう。だから殺したの。当然でしょう?」


 しどろもどろに言う西都を見てにっこりと微笑む風雅。

 背筋がぞっとするような、視線で人が殺せそうな瞳で。

 風雅が西都に近づき、膝の上にひょいと乗ると顔と顔が触れんばかりに近づく。妖艶な笑みを浮かべて瞳をのぞき込む。


「うふふ・・・。目を閉じて。これであなたは許してあげる、蒼」


 言われるままに目を閉じる西都。

 風雅の濡れた唇が西都のそれと重なる。

 風雅の舌が西都の口腔内に押し入ると、そっと口に含んだカプセルを唾液と一緒に送り込む。西都の喉が小さく動き、それを飲み下してしまったことがわかる。驚愕に目を見開く西都。


「な、なにを・・・」


 慌てて身体を話すと、恐怖に満ちた表情で風雅を見る。風雅は西都の膝の上で『次はあなた』とでも言うように酷薄な笑みを浮かべているばかり。

西都が風雅の身体を突き飛ばす。為すすべもなく床の上に倒れてしまう風雅。気にした風もなくゆっくりと身を起こすと、唇の端をつり上げた邪悪な笑みを西都に向ける。


「や、やめろ・・・。そんな目で俺を見るな!」


 視線を遮ろうとするように手を顔の前にかざす。

 その時、突然に西都の身体がびくんと震えると、口からごぼっという音とともに血があふれ出す。かざしていた手で胸を押さえると、驚愕に目を見開いて風雅を見る。


「くすくす・・・それで許してあげる。安心して地獄で冬馬と遊ぶのね。お友達が一緒だもの、寂しくないでしょう?」


くすくすという忍び笑いが、次第に哄笑へと変わっていく。

 楽しくて仕方がないという様子で、西都が胸をかきむしりながらのたうち回って死んでいく様子を眺める風雅。


 やがて西都の身体が断末魔の痙攣を止めると、ゆっくりとベッドへ向かって振り向く風雅。

 顔には相変わらずの酷薄な笑み。


「お待たせ、姫香さん」

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