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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第五章 『始まりの終わり、もしくは終わりの始まり』
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第五章 第二話

2.殺人劇第4幕


 照明のついた部屋の中、人影が1つ、せわしなく動き回っていた。


「くそっ、冗談じゃねぇ・・・。こんなところにいられるかよ。いくら雨が降ってるったて気を付けりゃあ4駆だ、動けねえわけじゃないだろう」


そんなことを考えながら人影、佳月はとりあえず持って行かなくてはならない荷物を自分の鞄に詰め込んでいた。

 車のキーはさっき冬馬の死体を移動しようとしたときにこっそりとポケットから抜き取ってある。幸い誰にも気づかれなかったようだし。


「しかし、一体誰がこんな事を・・・」


 密室殺人。

 小説やドラマの中だけの出来事だったはずのことが、今現実として起きている。冗談にしてもたちが悪すぎるというものだ。心の中で悪態をつく佳月。


「しかも冬馬の野郎、一体どういうつもりであんなメッセージを・・・」


 半ば本気で腹を立てていた。


『のちしなのに』


 明らかに佳月を指し示したあのダイイングメッセージ。

 あまりにも簡単な暗号法だったので盲点にはなっていたが、ちょっと考えれば気付くだろう。しかもキーボードまで揃っているのだ、遅かれ早かれ“メンバー”の人間なら間違いなく。

 “の→K、ち→A、し→D、な→U、の→K、に→I”、キーボードをローマ字入力にして打てば俺の名前になってしまうじゃないか。俺は何もやっていないのに。そういえばワープロソフトはカナ入力になっていたかもしれない。


「ぐずぐずしてたら、いつの間にか犯人に祭り上げられてよってたかってどうにかされちまうかもしれん。三十六計逃げるにしかずだ」


鞄を手にすると、音を立てないように細心の注意を払いながら、静かにドアを開ける。

 ちょっとだけ顔を出して辺りを見回してみるが、誰の姿も見えない。そろりそろりと廊下へ踏み出すと、音を出すといけないので扉も閉めずに玄関へ向かって歩き出す。どくどくと心臓が脈打って、鼓動が誰かに聞こえてしまうんじゃないかなどと考えてしまう。


 ようやく広間までやってくると、智博の死体にはなるべく目を向けないようにして明かりがついたままの広間をやや早足で通り過ぎる。

 扉をくぐり抜けると、ようやくほっと一息つくことができた。


「そうだ、一応・・・」


 気が動転していたのだろう、電話は通じないのだということを失念していたのか、佳月は受話器を取り上げると気象情報を聞くためにダイヤルをプッシュした。


“トゥルルルルルル、トゥルルルルルル・・・”


 受話器からはっきりと呼び出し音が聞こえる。

 少しして繋がった音がすると、受話器から気象情報が聞こえてくる。


「やばいな、降りれるか?」


 そんなことを考えているうちにはっと気付いた。


「待てよ、電話は通じないんじゃなかったのか?『電話線が切られて・・・』確かそう言っていたはずじゃ。まさか・・・」


めまぐるしく思考を加速していたせいで、佳月はそれに気が付くことができなかった。

 こっそりと佳月の背後に忍び寄った人影が、手に持ったガラス製の大きな灰皿を振りかぶり、そして思い切り振り下ろした。


 “がつっ”、振り下ろされた灰皿が佳月の後頭部にめり込む。


「ぐぅっ!?」


 突然の衝撃と激痛に佳月がくぐもったうめき声を上げると、がっくりとその場に膝をつく。まだ意識を失ってはいないらしく、倒れ込みながらも凶行の主の顔を見るべく何とかして背後を振り向く。


「(ば、ばかな・・・。何でお前が・・・)」


 だんだんと遠くなっていく意識の中で『なぜ』だけがぐるぐると渦を巻いている。

 逆光になっていてよくは見えなかったが、明らかに怯えと動揺の表情を浮かべてそいつは立っていた。しかし、佳月が腕を持ち上げようとすると、悲壮な表情を浮かべてそいつは再び灰皿を振り上げる。


「(なぜだ?)」


 佳月はただそれだけを考えながら、勢いよく自らに迫ってくる灰皿をぼんやりと見つめていた。ぐしゃっと、鈍い骨の砕ける音とともに佳月の意識は急速に闇の中へと落ち込んでいき、そして途絶えた。

そいつは荒い息をしながら、呆然と動かなくなった佳月の死体を見下ろしていた。それから、はっと我に返ったように懐からアイスピックを取り出すと、佳月の心臓めがけて勢いよく突き立てる。アイスピックはほとんど抵抗もなしに佳月の身体に吸い込まれていった。


「・・・」


 そいつは無言のまま佳月の死体を見下ろすと、折り畳みナイフをポケットから取り出して電話線を断ち切る。


(後をこっそりとつけてきて正解だった。逃がしてしまっていたら大変なところだった。しかも何を血迷ったか電話をかけようとするとは・・・。さすがの佳月もあのメッセージを見ては動転せざるを得なかったと言うことか)


 仕事を終えてようやく安堵したというようにほっと一息ついてタバコに火をつけると、佳月を殺したそいつはナイフをしまってゆっくりと広間へと歩き出した。

 後には頭をかち割られ、アイスピックを心臓に突き立てられて横たわる佳月と、ゆらゆらと漂うタバコの煙だけが残された。


 煙が拡散して消えてしまうと、残っているのは佳月の死体だけになった

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