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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第五章 『始まりの終わり、もしくは終わりの始まり』
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第五章 第一話

第5章 『始まりの終わり、もしくは終わりの始まり』


1.殺人劇第3幕


『ガシャーン!!』


 何か堅い物が砕け散る音が静かな建物の中に響き渡る。

 激しい雨の降る音と吹き荒れる強風の音だけが聞こえていた中に、突然の異質な音が紛れ込んだのだ。


 その音に驚いて佳月、西都の2人が慌てて自分の部屋から飛び出してくる。ほぼ同時に自室を飛び出してきた2人はお互いに顔を見合わせると、無言のまま頷きあい、同じ方向に視線を向ける。

 緒方冬馬の部屋に。

 先ほどの音は明らかにそこから聞こえてきていた。

 一体何があったのか。

 最悪の予想が頭をよぎるが、それを振り払うように軽く頭を振ると2人は扉の前までそろそろと近づいていく。


「冬馬?」


 西都が扉越しに呼びかけるが、返事はない。耳を澄ませてみるが、部屋の中からは物音1つ聞こえない。


「入るぞ」


 西都がドアノブに手をかけて入ろうとしたのだが、ドアノブが回らない。どうやら中から鍵がかかっているようだ。


「困ったな、マスターキーは冬馬が持ってるんだぜ」


 彩香の死以後は、安全の確保のためマスターキーを冬馬が持ったままである。当然、鍵は今も冬馬の部屋の中にあるに違いない。

 どうしようかと廊下で思案に暮れる2人。しばらくそうしていると、ふと人の気配を感じた。廊下の先を見ると、2階の部屋に引きこもっていた3人が肩を寄せ合うようにしてやってきた。先刻の音は2階にもある程度は聞こえていただろうから当然といえば当然だったが、わざわざ降りてくるとは・・・と思わないではなかった。


「・・・何があったの?」


 姫香が小さな声で訪ねる。


「オレたちもわからんよ。音を聞いて外に出てみれば冬馬の部屋には鍵がかかっていて中には入れない。それで思案していたところさ」


大げさに肩をすくめる西都。佳月は無言のまま扉を睨んでいる。


「冬馬さんはどうしたの?」

「それがわかれば苦労しないよ、風雅。ドアが開かないんだぜ」

「じゃあ、ドア開けなきゃ! 冬馬さん、もしかして・・・」


 死んでいるかも・・・そんな不吉な台詞を飲み込む風雅。そんな様子にはっと息をのむと、西都が自分の部屋から備え付けの椅子を抱えてくる。


「仕方ねえ、破るぞ。みんなどいてろよ」


 大きく椅子を振りかぶると、ドアノブのあたりに椅子の背もたれを勢いよく叩きつける。1度では何ともならなかったが、2度3度と繰り返すとめきっという音を立ててドアノブが折れる。椅子の方も無事では済まなかったが、気にもとめずに投げ捨てて扉を押し開ける。

 が、開かない。


「どうした、何で開かない?」


 佳月が西都に問いただす。


「見ろよ」


 微かに開いたドアから中を見てみると、ソファーや椅子、テーブルなどが扉に立てかけられている。まるでバリケードのようだ。一体何から身を守ろうとしたのか。


「ん?」


 西都が怪訝そうな表情を浮かべる。微かに開いたドアから漏れ出てきた甘い匂い。

 どこかで嗅いだような・・・?

 そんな疑問を振り払い、西都と佳月は2人掛かりでぐいぐいと扉を押し込んでいくと、できた隙間から積み上げられている家具を1つづつ押しのけていく。


「ちっ・・・」


 佳月が小さく舌打ちする。家具を押しのけて部屋の中が見えるようになると、ベッドに腰掛けたまま、横のサイドテーブルに突っ伏している冬馬の姿が目に入ってきた。背中から何かが突き出ているように見える。

 積み上げられていた物をすべて取り去ってようやく部屋の中に入ると、ベッドへと駆け寄る5人。


 冬馬は死んでいた。背中から智博につきたっていた物と同じような柄が突き出ている。身体を前倒しにして、電源の入ったままのノートパソコンに覆い被さるようにして冬馬は絶命していた。


「くそっ!一体誰がこんな・・・」


 はっとした表情の西都。そんな西都の表情を見て、


「気づいたか。こいつはいわゆる『密室殺人』ってやつだ」


 佳月が言う。確かに部屋には鍵が掛かり、ご丁寧にバリケードまで作られていた。窓から進入したのでないことは部屋の中が全く濡れていないことからもよくわかる。

 では一体誰が・・・。

 考え込む2人。


「とにかく、冬馬を・・・」


 西都と冬馬の2人で、冬馬を抱えてベッドの上に移動しようとした矢先に、それは全員の目に入った。


『のちしなのに』


 電源の入ったままのノートパソコンにはワープロソフトが立ち上がっていて、冬馬が何かを書こうとしていたことがわかる。しかし、画面にはわけのわからない平仮名6文字が打ち出されているだけだ。

 佳月がマウスを動かして左上のファイルという文字をクリックする。


「どうやら例の『小説』らしいな」


 履歴の欄を見て呟く。


「まてよ、もしかしたらファイルを開こうとしたときにやられたかもしれないぜ」

「ああ、あり得るな。確かめる方法があるぞ。メモしておけよ」


 佳月の言うとおりに、6文字の文字列をメモする風雅。

 それから佳月が右上の×印をクリックすると、ソフトは何事もなく終了した。


「ファイルをすっ飛ばした奴がいるって事か」


 西都の言葉に頷く佳月。


「何かまずいことでも書かれてあったんだろうさ。この分だと・・・」


 ファイル管理ソフトを立ち上げて保存されているフォルダを確認する。


「やっぱりな、バックアップも含めて軒並み消されてる。きっと念入りにデジタルシュレッダーでもかけたんだろうよ」

「じゃあ、この6文字は・・・」

「冬馬のダイイングメッセージってわけだ。新しくファイルを作って打ち込んだってわけか・・・」


 冬馬は死の間際に最後の力を振り絞ってダイイングメッセージを残したというのか。

 それも犯人が姿を消すのを待って。


「もういいわ。たくさんよ!」


 琴音がそれだけ言い残して身を翻す。慌てて後を追う風雅。 置いて行かれてはかなわないと言うように姫香も後を追いかけて部屋を飛び出ていく。

 後には取り残された男2人。


「メッセージは覚えていったんだろうな、あいつら」


 ぼそりと佳月が呟く。

 誰が冬馬を殺したのだろう。

 密室状況の中で犯人はどうやって部屋から抜け出したのか。まさか煙のように消えてしまったわけではあるまい。そして、またしても粉々に砕かれた鏡。一体何の意味があるというのか。


「とにかく、俺は部屋に帰るぜ。せいぜい気を付けてな」


 そう言い残して佳月は自分の部屋へ帰っていった。

 ばたんと扉の閉まる音。

 1人残された西都は、ノートパソコンの液晶画面をじっと見つめていた。スクリーンセーバーが起動して画面を食い荒らしていく。


「冬馬・・・」


 ぼそりと一言死んでしまった幼なじみの名を呼ぶと、パソコンの電源もそのままに部屋を後にする西都。



 後には画面を食い荒らして動くスクリーンセーバーだけ・・・。


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