第四章 第六話
6.破局
「もうイヤっ!」
険悪な雰囲気に耐えられなくなったように、急に琴音が叫ぶ。
「もうイヤよ、こんなの。誰が犯人かも分からないなんて。人殺しとなんて一緒にいたくないわ!」
「こ、琴姉、落ち着いてよ」
突然の琴音の行動に驚く風雅。どうして良いかわからないようで、すがるような目で姫香を見ている。姫香がわかったというように頷くと、
「琴音。落ち着きなさい。風雅君が不安がってるじゃないの!」
そういう自分もかなり不安げな様子だ。
無理もない。
「姫香も何でそんなに落ち着いていられるの!?誰かが2人も殺した犯人なのよ!次は私や姫香かもしれないのに」
「だからこそ落ち着くのよ。慌てたら犯人の思うつぼだわ」
姫香が琴音の両肩を掴むようにして顔をのぞき込む。しかし、琴音はその腕を自分の腕ではねのけてしまう。
「イヤよ!私はこんなところにはいたくないの。部屋にでも立てこもっていた方が百倍もマシよ!」
そう言うと、やおら立ち上がって自分のバッグをひっつかみ、さっさと階段に向かって歩き出していってしまう。
「風雅、おいで!」
「え?!」
突然のお呼びに目を白黒させる風雅。どうしたらいいかわからないというように周りを見る。
すると姫香が『早く行きなさい』というように琴音の後ろ姿を指さす。それに同意するように冬馬と西都が頷く。
「行けよ、風雅。1人にはできんだろう」
そう西都が言うと、風雅は僅かに逡巡してからこくりと頷き、自分のバッグとタオルケットをひっつかんで琴音の後を追う。階段を一足飛びに駆け上がると、踊り場から『ごめんね』というように口だけ動かしてから部屋の方へと消えていった。
「俺も引っ込ましてもらうぜ」
「佳月?」
佳月が立ち上がるのを見て冬馬が呼び止める。
「琴音ちゃんの言うとおりだ。部屋にでも引っ込んでた方がまだマシってもんだ。食料は少し分けてもらっていくぜ」
そう言うとキッチンに消えていく佳月。
その後、一言も発することなく荷物を持って1階の奥へと消えていってしまった。
「わたしも」
たまりかねたというように姫香も立ち上がる。もはや諦めてしまったのか、冬馬も西都も声をかけることはしなかった。
無言のまま、姫香もキッチンから僅かながらも食料を持ち出して自分のバッグに詰めると、毛布を持って2階へと上がっていく。
姫香は、振り返ろうか振り返るまいかと僅かに迷ったようだが、結局は振り返ることなく部屋へと歩いていった。扉の閉まる音が微かに聞こえてくる。
「・・・」
広間に残された2人は、姫香の消えていく後ろ姿を見やりながら何も言うこともできずに、ただただ黙り込んでしまうばかりだった。
お互いに一言も発することもなく、漫然と時間だけが進んでいく。
「・・・どうなっちまってんだ」
ふいに西都がぽつりと呟く。
「・・・俺にもわからんさ」
やや間があって冬馬がそれに答える。
さらにしばらくの沈黙。
2人はどちらからということもなく、お互いに目を合わせて少しの間見つめあうと、何かを決心したように頷き合う。それから、先ほどの佳月と姫香のようにキッチンからいくらかの食料を持ってくるとバッグに詰め、背中は見せないと言うことなのだろうか、並んで自分の部屋へと歩き出す。
2人は自分の部屋の前に立ち、お互いに顔を見合わせあってから同時に扉を開けて部屋の中へと入った。かちゃりと鍵をかける音が静かな廊下に響き渡る。
後には静寂。
この中で誰が生き残ることになるのだろうか。今は誰も知ることができなかった。
ただ1人、犯人を除いては。




