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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第4章 『終わり、もしくは始まり』
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第四章 第五話

5.殺人劇第2幕


 何か異臭を感じて目を覚ましたとき、いつの間にか広間は真っ暗になっていた。

 雨が激しく降る音が聞こえてくる。


「何で、真っ暗なんだろう・・・」


 なにやらぼーっとする頭で考えるが、思考は拡散するばかりで全然まとまらない。2,3度頭をぶるぶると振ってみるが、結果は一緒だった。

 頭にもやがかかったような、そんな感じが離れない。なんだか甘い香りを嗅いだような気がする。


 ゆっくりとあたりを見回してみるが、いくつもの人影が見えるだけで特に変わった様子は何もない。

 1人、2人、3人・・・おぼろげな意識の中でぼんやりと数を数えていく。

 4人、5人・・・ああ、ちゃんとボクを入れて6人いるな・・・。


「待ってよ、6人なわけないじゃない!」


 そう思ったとたん、思考が急にクリアになったような気がして風雅は身を起こす。

 おかしい、何でみんな寝ちゃってるんだろう。起こしてくれないなんて。

 とにかくこう暗くちゃ何にも見えない。照明のスイッチを点けようとソファーから立ち上がると、お互いに支え合う格好になっていた琴音が小さく呻いて目を覚ます。


「う・・・頭が・・・」

「琴姉、起きてよ。何か変だよ」


 軽く揺すってみるが、さっきまでの風雅同様に意識がはっきりとしないようだ。仕方なしに、とりあえず目を覚ましたからということでスイッチを点けに玄関側のドアへと近づくと、やはりスイッチがオフになっていた。

『なぜ?』、そんな疑問を感じたものの、とにかくスイッチをオンにすると、ぱっと照明がついて広間が明るくなる。


「これでよし。琴姉・・・」


 そう言って振り向いた刹那、風雅は信じられない光景を目にしたのだった。


「・・・・・・っ!!」


 声にならない悲鳴を上げる風雅。

 それは、2階の廊下の手すりからぶら下げられた智博の死体だった。首をロープにつられ、床から1mぐらいの高さでだらりと垂れ下がっている。両手は真横に広げられ、なにやら棒のような物が袖を通して突き出ていた。まるで案山子が吊られているようだ。

 その胸には、ちょうど心臓の真上の位置に何かが刺さっている。その柄の様子から察するに、キッチンにあったアイスピックだろうと推察することができた。そこからゆっくりと血が流れ落ち、床に小さな血だまりを作っている。おそらく即死だろう、表情には苦しみというよりは驚きが現れていた。『なぜ?』、そんな死の間際の問いが聞こえてくるようだ。

 震える足を押さえ込んで何とかソファーのところまで歩いていくと、みんなを揺り起こそうとする風雅。うまく身体に力が入らない。それでも、起きかけていた琴音と、冬馬、西都の2人は起こすことができた。残りの2人はまだ半覚醒状態で頭を振っている。


「こ、こりゃあ・・・」

「智博・・・」


 西都と冬馬が口々に呟く。

 ついさっきまで『全員で生き残る』と言っていたはずなのに、気が付いてみれば新たな犠牲者が出ていたのだ。それも、不覚にも全員が眠り込んでしまっていたせいで。


「馬鹿な。何で寝ちまったんだ、俺は!」


 憤りをあらわにする西都。自分自身が許せない、そんな様子で右の拳を左の手のひらに叩きつける。


「待てよ、西都。お前のせいじゃない」

「そんな台詞は聞きたくない」

「違う、見ろ」


 冬馬が指さした先には、なにやらスプレー缶のような物が転がっている。あまり大きくはない白い缶だ。ラベルが貼ってあって、小さな文字でいろいろと書かれている。


「それが何だっていうんだよ」


 いらだった様子の西都。


「催眠ガスだ。それも危険な」

「な・・・!?」


 ひょいと拾い上げるとラベルを読むように促す。その文章を読んでいくと、かなり強力な物だから使用量を間違えずに使えと書いてある。 


「だからこんなに頭がぼーっとしてんのか・・・」


 愕然とした表情で西都が言う。


「ああ、広間の広さが幸いしたようだな。これで狭い普通の部屋だったらまずかったかもしれん」

「一体誰が・・・。こんなもん、おいそれと手に入るもんじゃないだろう?」

「智博さんなら医学部だし、どこかから・・・」

「オイオイ、風雅。その智博が死んでるんだぜ。何で自分が死ぬためにこんなもん手に入れたんだ?」


西都が風雅にスプレー缶を突き出す。


「それは、その・・・。返り討ちにあった・・・とか?」


 おずおずと風雅が西都を見る。


「まぁ、ありえん話ではないかもしれんが。とかく大学なんぞルーズなところだ。ちょいと失敬とはいかないかもしれないが、忍び込んで持ってくるぐらいのことは智博じゃなくてもできるだろうな」


西都が力なく笑う。

 ということは、誰にでもチャンスはあったということか。


「しかし、何で智博なんだ?検死の真似事をされるのが、そんなにイヤだったっていうのかよ?」


西都が当然の疑問を発する。


「・・・冬馬、どうなってるんだ」


 ようやくはっきりとした意識を取り戻したらしい佳月が冬馬に尋ねる。


「見ての通りだよ」

「そうじゃない。お前の『小説』の事だよ。彩香の次は、智博なのか」


 話を聞いていた全員がどきっとして冬馬を見る。

 冬馬の顔は可哀想なくらいに蒼白になっていた。それが、佳月の言葉が的を射ていたことを明白に物語っている。


「そうなんだな」


 佳月が問いつめると、観念したように頷く冬馬。


「・・・まさか、お前が」

「違うっ!!」


 佳月が口を開きかけると、冬馬が凄い勢いで否定する。


「俺じゃない。大体、そんなことをしたら俺が疑われるに決まってるだろう。そんな馬鹿な真似をするわけがない」

「そうだよ、冬馬さんがそんなこと・・・」

「第一、俺がスプレーなんか使えるわけがないだろう。俺は西都、佳月、お前らの間にいたんだぞ。気づかないわけがあるか?」


 確かにその通りだと佳月がひるむ。西都もそう言えば・・・とそのことに思い当たったようだ。

 一人離れて座っていたのは・・・智博だった。


「馬鹿な、本当に返り討ちだって言うのか?!」


 西都が信じられないといった様子で言う。


「ということは、返り討ちにした奴は智博がガスを使うのを知っていたって事になるな。でなけりゃ無理な話だ」


 冷静な口調の佳月。本来のペースを取り戻してきているようだ。


「じゃあ、一体誰が・・・」


 西都が全員を見回す。誰もが『自分じゃない』と目で訴えていた。

 誰かが嘘をついているのだ。犯人だけは。




『次は・・・』

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