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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第4章 『終わり、もしくは始まり』
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第四章 第二話

2.推理会で朝食を


「ま、まあ、何だな。夕べはみんな、ちゃんと読んでくれたんだろう?」


 塩入りコーヒーからややあって立ち直った冬馬が一同に新たな話題を提供しようというのか、“合宿”の本題ともいえる、小説を題材にした推理ゲームに触れた。


「当然・・・でしょっ!」


 ようやく捕まえた風雅をぐいぐいと引っ張ってくると、どかっと勢いよくソファーに座り込む。しばらくじたばたともがいていた風雅だが、思いっきり抱きしめて離してくれない彩香にとうとう観念したのか、やがてシュンとおとなしくなってしまった。


「せっかくだから、目覚ましがわりのウォーミングアップにそれぞれの推理・・・と言うよりは一次感想を発表してもらうっていうのはどうだい」

「十分目は覚めたわよ、ねぇ風雅」


 冬馬の言葉を一蹴すると、恨めしそうな声で囁きながら風雅の肩にあごを乗せる。


「彩香さんがいじめるよ~、助けて~」

「人聞きの悪いこと言わないでよ、風雅」


 そう耳元で囁くと、ふっと息を吹きかけて耳たぶに軽く歯をたてる。


「うにゃあっ!」


 風雅がびくっと身体を震わせて小さな可愛らしい悲鳴を上げる。

 まるでうぶな少女のようなリアクション。彩香が面白がってなにやらいたずらを仕掛けているらしく、風雅が真っ赤に顔を染める。


「うふふー、可愛い声出すじゃないの風雅」

「う~、もうしないよう彩香さぁん」


 抱きしめる彩香の手から何とかして抜け出そうともがくのだが、結局抜け出せずに半泣きの状態の風雅。それに気をよくしたのか、余計悪ノリに走ろうとする彩香。

 それを見ていた琴音がさすがにまずいと思ったのか、彩香を見て両手を合わせて拝むまねをする。


「おいおい、そのぐらいにしとけよ彩香。嫌われるぜ」


 タバコの灰を灰皿に落としながら、ニヤニヤと笑って2人を見ていた西都が口を挟む。

「わかってるわよ、あたしが可愛い風雅をいじめるわけないでしょ。許したげるからしばらく抱かれてなさい、風雅」

「はぁい」


 にっこりと微笑む彩香に怯えたように頷く風雅。

 可愛い子にはついいたずらをしたくなる人間心理とでも言えばいいのか、彩香は風雅をだっこしたまま首筋をなでたり唇を近づけたりして反応を楽しんでいる。


「さて、一件落着したところで始めたいんだが?」

「そのまえに何か食べる物が欲しいな。どうせならついでに朝食会といこうや」

「あ、ボク佳月さんにさんせ~だな」


 抱きすくめられたままの風雅が腕も自由に動かせないので口だけ挟む。


「現金ねぇ、風雅。ま、いいでしょう。琴音、ちょっと手伝ってくれる?」


 姫香が呆れたという風に肩をすくめると、琴音と連れだって朝食の準備をしにキッチンへと向かう。料理好きの人間というのは何ともありがたいものだ。


「順番は決めておこうぜ。誰からにするよ?」


 新しいタバコに火をつける西都。朝から一体何本吸う気だろうか。


「当然作者の冬馬さんは抜きだよねぇ。じゃあ、言い出しっぺの西都さんがいいと思いま~す」


 元気よく風雅が発言する。『さんせー』と彩香も同じノリで発言する。


「おいおい、そいつはなしだぜ」

「諦めろよ、西都。その2人に逆らえる奴はいないぜ」


 佳月が面白そうな顔でその様子を眺めて言う。冬馬も智博もニヤニヤしながら見守るばかりで口を挟もうともしない。


「参ったな、とんだ藪蛇だぜ。大体、まだまとまってるわけじゃねぇ・・・んだ」


 ばつの悪そうな顔で言いよどむ西都だったが、期待の光を湛えた風雅の瞳に直面してしまい、気まずそうな表情を浮かべる。それでも風雅は、全く表情を変えることもなくただにこにこと期待の眼差しを西都に注いでいる。


 やはり根負けしたのは西都だった。


「わぁーかったよ。そんな目で見られちゃ仕方ない」

「へへ~♪」

「んじゃ、朝飯でも食いながら軽いカンジで話させてもらうぜ。いいだろ?」


 西都が一同を見回す。もちろん否という者はいない。


「もうちょっと待って下さいねー。のけ者はイヤですよ、せっかく朝ご飯作ってあげてるんですからね」


 キッチンから姫香の声が聞こえてくる。何かを炒めているような音と、パンの焼ける香ばしい香りがキッチンから漂ってくる。


「もう少しでできますから。風雅、ちょっと来て」


 琴音からお呼びがかかると、彩香が手を離してくれたのでぴょこんと彩香の膝の上から降りると台所へ小走りに駆けていく。


「だそうだ。もう少し待つとしようか」


 佳月も胸ポケットからマルボロを取り出すと、一本くわえて火をつける。すぅっと深く煙を吸い込むと、静かに吐き出す。吐き出された煙がゆらゆらと天井へ向かって立ち上っていく。

 西都は考えをまとめるように目を閉じたままだし、冬馬は持ってきたらしい小説に目を通している。智博はただ漠然と天井を見上げているし、彩香は手持ちぶさたできょろきょろと辺りを見回している。


「はぁ~い、お待たせしました~」


 幾ばくかの時間が経過した後で、エプロン姿の風雅がトーストの入ったバスケットを両手に抱えて戻ってくる。続いて琴音と姫香がスープやバター、付け合わせの盛りつけられた皿を運んでくる。


「お、きたきた。そんじゃ、早速始めるか、西都?」

「へいへい、わかりましたよ」


 スープのカップに手を伸ばすと一口すすり、口をしめらせる西都。


「そんじゃ、わかってる事実からとりあえずまとめていくぜ。まず手がかりとして与えられているのは割れた鏡と残された紙切れ、ついでに言えば絞殺の後の刺殺という二重の手段と開け放たれた窓ってのもあるな。あとは小説の叙述だな。なんせ『黒魔術師』作だ、何か仕掛けてあるかもしれないからな。さて考えるに、犯人から彩香は除外できる。自殺はあり得ないから、まぁ当然だな。残りの7人には等しくチャンスはあったといえるだろう」


 もう一度スープを口に運び、盛りつけられた中からソーセージを1本素手でつかみ取ると、口に放り込んで咀嚼して飲み下す。


「はっきりいって誰が犯人かなんてのは特定できないと思う。個人的理由からいけば俺自身は除外したいところだな。誰だって自分が犯人なんてのはイヤだろう。と言うわけでだ、俺は予断を含んで考えることにした」


 きっぱりと言い切る西都に対して、『オイオイ』とツッコミを入れる佳月。


「とりあえず推理を披露しろってんだ、そんぐらいは大目に見ろよ。それに、こういう見当違いの推理をするキャラクターはミステリには必ず1人はいるもんだろ」

「そういうことにして置いてあげるね」


 そう言ってサクッとバターをたっぷりと塗ったトーストをかみ切る風雅。そして『続けて』とジェスチャーで示す。


「では姫のお許しを得て。実名小説と言うからには、現実世界の設定も取り入れられてるに違いない。そこで、智博と佳月は除外する。なんせ夜も明けていない時刻に2人が訪ねていったところで彩香がそう簡単に部屋に入れるとも思えん。その点、冬馬は一応リーダーということでまだ黒い。風雅にしろ琴音ちゃんにしろ姫香ちゃんにしろ、そういう点からいえば真っ黒だ。と言うわけで4人に絞ってみたんだが、ここからさらに絞り込んでいく。小説の中では冬馬の台詞だったが、俺もそう思う。『2人掛かりならわからない』ってな」

「じゃあなに、琴姉と姫香さんの2人掛かりだって言うの」

「そうとはかぎらないさ風雅。大体、自分だけ除外ってのは虫がいいんじゃないか。琴音ちゃん、姫香ちゃん、風雅の3人のうち2人でいいんだ。もっと言えば3人掛かりでもいい」

「死体から聞かせてもらうけど、動機は?」


 おどけた調子で訪ねる彩香。


「う~ん、風雅を挟んだお姉さま方の確執・・・なんてのはダメだよな、やっぱ」

『却下!』


 風雅と女性3人の声が見事にハモる。


「やっぱりダメか」


 ぽりぽりと頬を掻く西都。


「あったり前じゃないの、大体風雅を取り合うなんてのが間違ってるのよ。そんなことするぐらいなら3人で美味しくいただいちゃうわ」


 けらけらと笑いながら彩香がリンゴジャムをトーストに塗って口に運ぶ。その脇では風雅が真っ赤な顔をしてうつむいてしまっている。


「彩香さん、そんな言い方したら風雅君が」


 そうたしなめる姫香の顔も少々赤い。大体、『いただく』とは何事か。


「あーら、ごめん・・・な・・・さ」


 見る見るうちに彩香の顔が苦悶の表情に歪んでいくと、喉をかきむしるようにして身体をくの字に折り曲げる。


「彩香さん!?」


 風雅が驚きの声を上げる。同様に他の全員が驚愕に目を見開く。



 第1の殺人が今まさに起こっていた。

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