第三章 第四話
4.捜索
佳月の提案によって、佳月・西都・冬馬・智博の4人は彩香の部屋を調べてみることにした。
もし犯人の手がかりになるようなものでもあればということもあったし、“メンバー”の誰かの犯行ではないということがわかるようなものでもあれば・・・というささやかな希望もあった。
例によって残りの3人は広間に居残りである。
「しかし、いまいち気がのらねえな・・・。今も彩香の死体があるかと思うとよ」
彩香の部屋に向かって2階の廊下を歩いていると、ぽつりと西都が洩らす。誰もがそう思っているのは確かだった。
「『全部お芝居でしたー』なんて起きあがってくれるといいんだが、そうもいかんさ。とっとと犯人を見つけてやるのが一番の供養ってもんだ」
「佳月の言うとおりだ。それがもし・・・」
言葉を切る冬馬。
みなまで言うなというように佳月が首を振る。
彩香の部屋の前にたどり着くと、一度深呼吸してから、先頭の佳月が扉のノブに手をかける。
キィ・・・と微かなきしみをたててドアが開く。
部屋の中は、時刻と、外の嵐を反映してかずいぶんと暗いように感じられた。綾辻●人氏の『迷路●の殺人』よろしくニコチン毒の塗られた針の山でも仕掛けられていないか、ドアのすぐ横のスイッチを一度確かめてからオンにすると、部屋が蛍光灯の明かりで一気に明るくなる。
しかし、そうすることでベッドの上に横たわっている彩香の死体が嫌でも4人の目に入る。
「・・・さっさとやっちまおうぜ」
西都が死体から目をそらしながら他の3人を促す。
同時に4人が気づいた。
それは気づくというようなレベルではなく、ただそこにある物として目に入ったと言うことに過ぎなかったが。
それは鏡だった。
先だってこの部屋を出るときには確かにそこにあった縦2m、横60cmほどの壁に付けられていた姿見が粉々に砕け散っていたのだ。壁にネジで固定されていた部分だけが空しく残っている。
「どういうことだ、こんなもん?」
いぶかしげに佳月が割れた鏡を見る。さすがにミステリマニアとしては、拾い上げるような馬鹿なまねはしなかった。いや、マニアなら拾うべきか?
「・・・“見立て”ってやつじゃねえのか」
「はぁ?」
西都の言葉に怪訝そうに返答する佳月。
「ほら、冬馬の小説のプロローグにあっただろ、鏡がよ」
「ああ、そう言えばあったな。じゃあ何か? プロローグに出てきた美少女が本当に鏡の中から出てきて彩香を殺したってのか」
「別にそうだって言ってるわけじゃねえよ。見立てだっていってるだろ」
からかうような佳月の言葉にムカついた様子の西都。だいぶいらだっている様子だ。
「一体どういうことなんでしょうな」
「抜け道があって、出てくるためには鏡を割らざるを得なかった・・・なんてことは、ねぇ・・・よなぁ、やっぱり」
そう言いつつも、西都は鏡のあった場所を押したり叩いたりしている。
当然ながら何も起こることはなかった。大げさに肩をすくめてみせる西都。
「やっぱ、小説みてえにはいかねーや」
結局粉々の鏡以外には手がかりとなるような物は発見できなかった。諦めて帰ろうとしたその時、智博が他の3人を呼び止めた。
「ちょ、ちょっと!見て下さいよ」
「なんだよ、どうしたって言うん・・・だ!?」
彩香の胸につき立ったままのナイフのすぐ真下に、先刻はなかったはずの1枚の紙片がひっそりと置かれていた。
そして、その紙片にはこう書かれている。
“お前たちの助かるすべは、最早無い”
ただそれだけが赤インクで紙片に記されていた。
「“最早無い”か・・・。確かカーだったな」
佳月の言葉に、ある推理作家の有名な一節が4人の頭に浮かぶ。
「ああ。しかし誰だか知らんが、犯人はカーには興味があるらしいな。おかげで奴さんの目的ははっきりしたな」
そう言うと西都が1本タバコを取り出し、火をつけずにくわえる。。
「・・・皆殺しか」
「ええっ!そんな・・・」
さーっと青ざめる智博。
「ふん。そう簡単に殺されてたまるか。『そして誰もいなくなった』とはいかせない。先に首根っこひっつかまえてやるぜ」
「・・・とにかく、証拠物件だ。持ち帰るとしよう」
今までずっと押し黙っていた冬馬がポケットからハンカチを取り出すと、慎重にその紙片をつまみ上げる。
「んじゃ、戻るとしますか」
そして4人は部屋を後にした。




