第三章 第三話
3.短き午睡
激しい雨が閉じられた窓を横殴りに叩く。
勢いはますます激しくなっているようで、雨音が一段と大きく響いてくる。
先刻開かれた“気違いお茶会”の後、1人減って7人になってしまった一行は、広間に各自毛布やタオルケットを持ち込んで集まることになった。風雅を含めた女性陣と男性陣との2組に分かれてそれぞれの部屋に荷物を取りに行く。
全員が広間に揃うと、最初のうちこそ雑談を交わしたりしていたが、みんながみんなあまり寝ていない上に殺人などという普通でない事態に神経が参ってしまったのか、1人、また1人と眠りに落ちていってしまった。
意識を失ってからどれくらいの時間が経ったのだろうか、風雅は何か物音を聞いたような気がしてふと目を覚ました。
「何か聞こえたような・・・。雨の音?」
ふと柱時計に目をやると、針は午後5時30分を指していた。
それから身を起こすと、きょろきょろと自分の周囲を見渡す。電気は点けっぱなしにしていたので暗くてよく見えないなどと言うことはない。ソファーには琴音と姫香の2人が互いにもたれかかるように寝ていて、すうすうと穏やかな寝息を立てていたし、カーペットの上には風雅の他に冬馬・西都・佳月・智博の男4人が寝ている・・・はずだった。
「佳月さんがいない!?どこに・・・まさかさっきの物音・・・」
風雅の脳裏を不吉な何かがよぎる。そんな矢先に当の佳月が姿を現す。
「よぅ風雅。起きたのか?」
きょろきょろと辺りを見回している風雅をみて、佳月が小声で話しかける。まだ眠っているメンバーに一応気を遣っているらしい。
「どこ行ってたの?」
「ん、トイレだよトイレ。何かあったのか?」
怪訝そうな顔で風雅を見る。
「え、ううん、別に。起きたらいなかったから・・・」
何となく気まずくて、風雅は語尾を濁してしまう。そんな風雅の様子を見てにやりと笑みを浮かべる佳月。
「心配してくれたのかい、小さな探偵さん?」
「・・・もぅ」
唇をとがらせてみせると、今度は普通の笑み。
「しかし、こいつらいつまで寝てやがる。現場検証しないでどうするんだよ」
『え?』と言いたげな表情で風雅が佳月をまじまじと見つめると、さも当然と言わんばかりに鼻を鳴らす。
「こいつは紛れもなく現実の事件なんだ。現場を調べないでどうするんだよ。手がかりもなしに真相を看破する探偵なんざいないぜ」
「・・・ねぇ、佳月さん。ほんとに、ボクらの中に・・・」
風雅がぽつりと洩らす。
ほんの少し躊躇したようだが、佳月は風雅の横に腰を下ろすと真面目な顔でこう言った。
「多分な・・・。こんな嵐の中を何者かが建物の周りをうろついてるとは思えないし、そんな都合のいいことがそうそう起こるとも思えない。が、可能性がないとは言えない」
そこでいったん言葉を切ると、今度は一転しておどけた調子で、
「ま、こうしてみんな集まってりゃ内部犯だろうが外部犯だろうがそうそう手出しなんぞできんはずだがな」
そう言ってニヤっと笑うと、風雅の肩をぽんぽんと叩く。そうして、ひょいと立ち上がると、キッチンへ向かって歩き出す。
「佳月さん?」
「コーヒーでも入れてやるよ、と言ってもインスタントだけどな」
「うん」
はにかんだように笑う風雅。少しだけ元気を取り戻したようだ。
しばらくしてコーヒーカップを2つもって戻ってくる。
「安心しろ、毒なんか入ってないからよ」
「わかってるよぅ」
風雅は左のコーヒーカップを受け取ると口を付けて熱い液体をすする。火傷しそうなほど熱いブラックのコーヒーがのどを滑り落ちていく。
「う・・・」
風雅のそばで西都がもぞもぞと体を動かす。
「おはよ、西都さん」
とびきりの笑顔で西都を見る風雅。
「おー・・・。なんかいい匂いがするな・・・。身体が痛え。ばきばきいってやがる」
眠たげな目をこすると、大きく伸びをしながら身体をほぐすようにあちこちを動かす。
「いいもん飲んでるなぁ、風雅」
「はいはい。今持ってきてあげるよ」
ひょいと立ち上がるとキッチンへ向けて歩いていく。
「おい、西都」
「・・・なんだよ佳月」
先刻のことがまだ尾を引いているのか、むすっとした表情で佳月を見る。
「冬馬と智博を叩き起こして現場検証に行こうぜ」
「はぁ?」
「だからよ、彩香の部屋をもう一度調べに行くんだよ。何か手がかりがあるかもしれないだろう?」
「・・・確かにな。じっとしてるのも性にあわん」
得心がいったというように頷く。
「だったら善は急げだ。すぐにでも行こうぜ」
「ちょっと待て」
「何だよ。『どこが善だ』なんてツッコミはなしだぜ?」
急に真面目な表情になる西都に怪訝そうな表情を見せる佳月。
「コーヒー飲んでからな」




