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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第三章 『始まり、もしくは終わり』
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第三章 第二話

2.気違いお茶会


 一階の広間は重苦しい、沈鬱な雰囲気に満ちていた。

 何しろ、楽しい思い出の1ページになるはずの“合宿”が、一転して現実の殺人事件だ。これで楽しめる奴がいたらただの変態である。

 いや、犯人にはその資格があるのかもしれないが。


 佳月が階段を下りていくと、下から西都が上ってこようとしていたところだった。


「どうだ?」

「ダメだな。この天気のせいでここまで来れないらしい。いつになるか・・・」

「そうか・・・」


 落胆した表情の佳月。

 先に話を聞かされていたらしい風雅たち3人も動揺の表情で押し黙ってしまっている。後から降りてきた冬馬と智博も同様の反応だ。


「いよいよもって、『嵐の山荘』ってわけだ」


 佳月がマルボロに火をつける。


「にしちゃあ電話が通じるあたり犯人は何を考えているのかね」

「よく落ち着いていられますな、佳月さん」


 智博の顔は明らかに青ざめていた。

 この状況では無理もないだろう、風雅と姫香は何かに怯えたような表情を見せている。


「慌てたところで仕方あるまい?」

「そ、それはそうですが」

「ねぇ、彩香さんは・・・?」


 何とも言えない表情で風雅が冬馬たちを見上げる。

 あきらめと希望が半々に入り交じったような複雑な表情で。


「・・・」


 4人の男を代表するように、冬馬が黙って首を横に振る。それを見ると風雅は、『やっぱり・・・』とでもいいたげな表情を作って目を伏せる。隣にいた姫香が琴音の代わりとでもいうように風雅の細い身体を抱き寄せる。


「一体、誰がこんな・・・」


 そう言いかけて、自分の台詞にはっとしたように息をのむ西都。


「そういうことだ、西都。俺は、ここで全員のアリバイを確認することを提案するね」

「佳月さん、それって、つまり、この中に・・・」


 まるで、その先の台詞を言うのが恐ろしいというように、言葉を途切れさせてしまう姫香。だが同時に、気絶している琴音を除いた誰もが、『犯人がいるということですか?』という言葉の続きを思い浮かべていた。

 姫香が佳月を見る。平然とした顔でゆっくりと首を縦に振る佳月。

 そのとたんに、広間の空気がぴんと張りつめたような気がした。


「し、しかし、僕らの中に、その、犯人がいるなんて・・・」

「じゃあ何か、智博。外部犯だってのか」

「おいおい佳月、考えて見ろよ。大体だな、俺たちの中に彩香ちゃんを殺さなきゃならないような奴がいるか?! それに、お前は天候のことを考えて外部犯はないと言ってるんだろうが、天気なんか関係ないだろう」

「確かに蒼の言うことにも一理ある。そうだろう、佳月」


 静かに冬馬が言う。


「確かにな。計画的犯罪なら天候ごときにかまっていられないからな」

「佳月!」


 冬馬が言葉を荒げる。佳月は肩をすくめただけで何も言わない。


「それでみんなが安心できるなら、アリバイ調べも意味があるんじゃないですか。わたしは良いと思います」


 険悪な雰囲気を断ち切ろうとするように、姫香が風雅を抱き締めたまま、きっぱりとした調子で言う。


「姫香ちゃんの言う通りだ。それとも何か、話せない奴でもいるのか?」


 誰もが押し黙ってしまう。重く、奇妙な沈黙。


「・・・いいだろう。やろうじゃないか」


 冬馬がはっきりと言い切る。


「午前1時頃から5時までの4時間もやればいいだろう。言い出した佳月、お前さんからお願いしようじゃないか」

「ふん、そうくると思ったさ。姫香ちゃん、風雅、悪いんだがみんなに紅茶でも配ってくれないか」

「え?あ、はい」


 姫香が風雅に目で尋ねると、こくりと頷く。

 2人はソファーから立ち上がるとキッチンへと向かう。


「どういうつもりだ」

「気違いお茶会の始まりってわけさ・・・。おいおい、そんな目で睨むなよ冬馬。俺だって気を紛らわせたいだけなんだからな」


 にやりと笑ってタバコの箱から1本取り出す佳月。

 その手は微かに震えていた。


 やがて湯気の立つカップが全員に配られる。お茶を入れている間に意識を取り戻した琴音が事情を聞いて小さく震えている。


「じゃあ俺から始めさせてもらうが、俺にはアリバイなんぞ無い」

「はぁ? どういうことだよ」


 そう言った西都の言葉には、明らかないらだちが感じられる。


「俺はその時間帯はずっと自分の部屋にいたが、それを証明してくれる奴は誰もいないってことさ。お前もそうだろう?冬馬も智博も似たようなもんじゃないのか?」


 名指しされて思わず顔を見合わせる2人。その様子は、佳月の言葉の通りであることを裏付けていた。


「だろう。風雅たちはどうだ?」

「え・・・。ボクらは2時過ぎぐらいまでここにいたよ。ねぇ?」


 風雅が両隣の琴音と姫香を交互に見る。2人はそろって首を縦に振る。


「3人で冬馬さんの小説を読みながらお話ししてたんだもん」


 『そうそう』とでもいうように頷く2人。


「その時に何か物音を聞いたりしなかったか?」

「う~ん・・・。聞かない・・・と思うけど」


 自信なさげに首を横に振る風雅。


「そうか。じゃあ、その後はどうしたんだ?」

「寝ちゃったよ。でも、ボクは琴姉と部屋が一緒だから・・・」


 そう言って顔を見合わせる2人。


「そうか、そういえばそこだけ2人部屋だったな。すると、風雅と琴音ちゃんはとりあえず除外してもいいんじゃないのか?」


 西都がぽんと手を叩く。一瞬、2人が明るい表情を見せるが、だからといって心楽しい状況ではないのですぐに元通りの暗い顔に戻ってしまう。


「そうだな。それにあの殺し方だ、姫香ちゃんも除外してしまって良いのかもしれん」

「確かに。2人がかりでやればどうかわからないが・・・」


 佳月の後に冬馬が続ける。それを聞いた風雅が『どういうこと?』という風に小さく首を傾げて冬馬を見つめる。


「彩香ちゃんは、その、絞殺されていたんだ。女同士1体1じゃあ声1つあげさせずに殺してしまうのは、できなくはないのかもしれないが難しいんじゃないかと思ってね」


 うんうんと冬馬の言葉に同調して頷く佳月。


「つまり、犯人は内部犯だとすれば残った男4人の誰かって事になるな」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ佳月さん。僕じゃありませんぞ」


 にやりと笑う佳月に対し、智博が慌てたように弁明する。


「俺でもないさ。じゃあお前らか?」


 そう言って冬馬と西都を見る。


「馬鹿言うんじゃねえよ。そんなわけねえだろ」


 西都が冗談じゃないといった様子でジロリと佳月を睨む。同様に、冬馬も無言のままジロリと一瞥をくれる。


「じゃあ外部犯か。そんなわけないと思うがなぁ」


 さも不思議だと言わんばかりの表情で両手を大きく広げる佳月を睨んだまま、西都が押し殺した声で言う。


「そう言うお前だって容疑者だって事を忘れてるんじゃないだろうな」

「俺は俺が犯人じゃないことをよく知ってるぜ」

「犯人は必ずそう言うだろうさ」


 険悪なムードが一気に広間に漂い始める。もう少しで爆発しそうな、限界に引き絞られた糸がほつれ始めたような、そんな雰囲気。


「もうやめようよ!!」


 その沈黙をうち破ったのは風雅の一声だった。


「もうやめようよ。だいたい、ボクらの中に彩香さんを殺そうなんて、そんな人はいないはずだよぅ。ねぇ、そうでしょ?」

「風雅・・・」

「そうでしょ。そうじゃなかったら、ボク・・・」


 大きな瞳に涙が浮かんでいる。長い睫毛がふるふると震え、一筋の涙が上気した頬を伝い落ちると、誰もがなにやら言いようのない罪悪感を感じていた。

 雨の中にうち捨てられていた子猫を見捨てて走り去ってしまったような、そんな感覚。先ほどまでとは別な種類の気まずい沈黙が広間に漂う。


「わかったよ、風雅。俺が悪かったよ。・・・とにかく、外部犯だろうが内部犯だろうが、みんなが一緒にいる方が危険は少なくなる。なるべく1人にはならない方がいい」

「佳月の言うとおりだ。そうしようや」


 佳月と西都は、お互いに顔を見合わせると苦笑してそう口々に言った。暗黙のうちに和解が成立したらしい。

 例えそれがかりそめのものであったとしても。


「そう決まったところで“気違いお茶会”はお開きとするか」


 佳月の声が、広間に空しく、そして明るく響いた。

 しかし、誰もが感じていたのだ。『まだ終わっていない』と。


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