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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第三章 『始まり、もしくは終わり』
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第三章 第一話

第3章 『始まり、もしくは終わり』


1.殺人劇第一幕


 未だに夕べからの雨が降り続いている。

 時間が経つほどに激しさを増してきている雨が建物全体を濡らしているせいか、部屋の中は夏の早朝だというのに湿った空気が充満していた。どんよりと空を覆う雨雲のせいで、電気を点けていても暗く感じてしまう。


 ぎいぎいと蝶番のきしむ嫌な音が間断なく聞こえてくる。それもそのはず、部屋の窓は大きく開け放たれていて、カーテンがばたばたと風に煽られて大きくはためいている。

 激しい雨がその窓から室内に入り込み、調度類をずぶ濡れにしてしまっていた。にもかかわらず、ベッドの上に横たわった人影は窓を閉めようなどとは考えもつかないと言うように静かに天井を見上げている。


「こんな・・・」


 カッという音とともに稲妻が室内をひときわ明るく照らす。微動だにしないベッドの上の人影と、入り口のドアのそばでそれを見つめる7つの人影。


「う、ウソでしょ・・・、彩香さんが、彩香さんがこんな!」


 風雅の口から震えた声が押し出される。

 その言葉通り、ベッドの上に濡れた身体を横たえているのは、この部屋に割り当たっていた天野彩香であった。

 確認しなくてもそれとわかるような禍々しい気配。

 ・・・死の気配。


「彩香さん!」

「待て風雅!さわるんじゃない!」


 ベッドへ駆け寄ろうとする風雅を冬馬が一喝して押しとどめる。


「冬馬さん・・・?」

「蒼、すぐに地元の警察に連絡してくれ」

「OK」


 冬馬の指示に従って、西都が電話をかけに一階へと駆け下りていく慌ただしい足音が聞こえてくる。


「智博、おまえ確か医学部だったよな。すまんが、ちょっと診てくれるか」

「ええっ?」

「頼む」


 驚きの表情で後込みしていた智博だったが、多少の逡巡の後、意を決したようにベッドへと近寄ってい

く。


「済みませんが、窓だけは閉めてもらえますかな。作業も何もあったものじゃないので」


 智博の言うとおりに佳月が壁づたいに窓へと近づき、風にあおられてがたがたと動く窓を苦労して閉める。


「う・・・」


 近づいてのぞき込んだ智博がうめき声を洩らす。


「どうした?」

「気の弱い方はご遠慮下さい。死んでいます、明らかに」


 一同に衝撃が走る。その瞬間、琴音がくらっとよろめいて倒れかけたので、姫香と風雅が慌てて支えてやる。


「風雅、琴音ちゃんと姫香ちゃんと一緒に下へ行ってろ」


 冬馬の言葉に風雅は無言で頷くと、気を失ってしまった琴音の身体を姫香と2人で両側から支えつつ部屋を出ていく。

 部屋には冬馬・智博・佳月の3人が取り残された。彩香の死体とともに。


「で、どういうことなんだよ、智博」

「どうもこうもないですな。見ればわかりますよ、ご両人」


 智博が少し後ろに下がり、2人に来るように手招きする。冬馬と佳月はゆっくりとベッドの脇へと足を運ぶ。

 そしてベッドの上に横たわる彩香を見て絶句する。


 智博の言葉通り、彩香は明らかに死んでいた。

 首には黒いひもが巻き付き、きつく食い込んでいる。しかも、その豊満な胸の左乳房の下のあたりからナイフらしき物の柄が突き出ていた。


「どちらが直接の死因かは確定できませんが、表情と出血量から察するに首を絞められたのが死因のようですな。刺殺であればこのような苦悶の表情にはならないものです」


 関節を調べながらも、そう2人に向かって言う。


「死斑はそうでもない・・・。死後硬直は始まっていますが、指の関節が割と楽に広げられますから、関節までは及んでいないようですな。つまり、死後4時間から5時間といったところでしょう。逆算した死亡時刻は、幅を持たせて午前2時から5時の間として おきましょうか」


 少し震えた声で智博が告げる。


「そうか」

「ただ、所詮は素人の言うことですからな。それにこの雨では・・・」

「しかし、俺たちにはそれしかデータがないわけだ」


 表面上は平然とした様子で佳月が一人ごちる。そして、決定的な台詞。


「しかも、この殺人は内部犯である可能性が高い・・・と」

「何?!」


 冬馬が鋭い目つきで佳月を見る。見るというよりは睨むといった方が適切だろうか。

 佳月はその目を、臆することなく真っ正面から見返す。


「お前だってそう考えているはずだ。何せ“俺たち”なんだからな。つまりだ、俺たちがすぐにでもしなければならないことはそれぞれのアリバイの確認と、“犯人探し”だ」

「何を馬鹿な・・・」


 冬馬が力無く死体から目をそらしながら言う。明らかに迷いを見せたその態度に、佳月が怒りを含んだ視線を向ける。智博はどうしたらいいのかわからずにただおろおろするばかりだ。


「俺たちは何の集まりだ? 大体、このまま逃げ出したところで警察のきつい取り調べが待っているだけだ。それに、もしかしたら“人殺し”かもしれない奴と平気な顔して付き合えるのか、お前らは!?」


 佳月が険を含んだ目で2人を見ると、智博はおどおどと目をそらし、冬馬は何かを考えるような様子で黙り込む。


「・・・まぁいいさ。とにかく下に降りようや。いつまでもここにいたって仕方ないし、彩香も女だ。いつまでもじろじろと死に顔を見られたくはないだろうからな」


 佳月はそう言うと、1人でさっさと部屋を出ていってしまう。

 冬馬と智博はお互いに顔を見合わせると、示し合わせたように部屋を後にした。


 雨はまだ降り続き、ますます勢いを強めていた。


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