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Misty ~霧の牢獄~  作者: 葉月風都
第二章 『現実もしくは虚構』
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第二章 第四話

4.旅路


 夏も盛りの8月半ば。“メンバー”一行は目的地である山形県O市へ向かっていた。渋滞の首都高速をようやく抜けると、東北自動車道へと入りひたすら北上を続ける。


 冬馬が友人から拝借してきたという大きなワゴン車に八人全員が乗り込んでいて、車内は和気あいあいとした雰囲気が漂い、まるで遠足にでも出かけるようだった。

 車内のメンバー配置は、車体の前半分に風雅を抜いた冬馬・蒼・佳月・智博の男四人、後半部に風雅と彩香・琴音・姫香の女性陣となっている。


「あっ!」


 後部座席でトランプゲームに興じていた四人のうち、姫香が小さく声を上げる。


「わ~い、ババ引いた、ババ~♪」


 どうやらババ抜きをしているようだ。

 引かせたらしい風雅が得意げな顔できゃっきゃと笑っている。対照的に、姫香は憮然とした表情のまま、無言で自分の手札をシャッフルしている。次の手番である彩香になんとしてもババを引かせようという魂胆らしい。


「くっ、なんとしても引くわけには行かないわ・・・」


 無言のまま差し出された姫香の五枚ある手札を穴があきそうなほどに見つめる彩香。どれにしようかと迷うように、彩香の右手がゆっくりと左右に動いている。

 漂う緊迫感。

 意を決したように向かって右から二番目のカードに手を伸ばすと、えいっと小さなかけ声をかけて勢いよく引き抜くなり絶句する。


「やった!」


 喜色満面で、風雅の手を取って喜ぶ姫香。


「うそよーっ、こんなのって!!」


 ポイとカードを投げてしまう彩香。


「彩香さん、それはなしだよ~」

「うるさいわね、たかがトランプじゃない」


 風雅をきっと睨みつける彩香。かなり本気のようだ。


「その“たかが”トランプに一番ムキになってるやつが何言ってるんだよ。そんなんやめちまえよ。代わりにいい物貸してやるからよ」


 西都があきれかえった様子で後部座席をのぞき込むと、手に持った紙の束をひらひらと振ってみせる。


「なになに、“いい物”って」


 すかさず風雅が食いついた。彩香もつられるように風雅の隣に顔を並べる。琴音と姫香は何食わぬ顔をしていたが、興味津々な様子は目の輝きを見ればわかる。


「ほらよ。聞いて驚け、冬馬の“未完の大作”とやらの第一章だ」

「ホントに?!わ~い、見せて見せて~☆」


 ひったくるようにして西都の手から原稿用紙の束を奪い取ると、すかさずページを繰り始める風雅。『ちょっと、あたしにも見せなさいよ』なんて事を言いながら、彩香も手元をのぞき込む。その頭越しに琴音と姫香がこっそりと盗み見ている。


「おいおい、そりゃあフライングじゃないか、蒼」

「いいじゃないか冬馬。ハンデだよ、ハ・ン・デ」


 苦笑する運転中の冬馬に向かって西都がタバコの煙を吹きかける。


「大体、まだあるんだろうが」

「ああ、一応人数分コピーしてきたからな」

「そうなの?じゃあもう一部ちょうだい」


 彩香が言うと、西都がごそごそと冬馬のバッグをかき回すと、コピー用紙の束を取り出して彩香に手渡す。こうして時ならぬ『読書会』が始まってしまったのだった。

 黙々と原稿を読みふける後ろの四人に触発されてか、智博もコピーを受け取って読み始める。佳月と西都は、何かこだわりでもあるのだろう、コピーを手に取ろうとはしなかった。

 名探偵は俺だとでもいいたいのだろうか。


 しばらくして、一番先に読み終えたらしい風雅が顔を上げる。


「・・・なんだかフシギなカンジだね。小説には思えないや」


 狐につままれたような顔の風雅。きょとんとした表情が可愛らしい。


「実名だからな。そういう風に感じるんじゃないのか」


 冬馬は面白がっている様子でそう言った。こんな反応を最初から予測していたようだった。予想が的中したのが実は嬉しいのだろう。


「まぁ、まだ“第一の殺人”までは載ってないからな。余計に戸惑うんだろ」

「ふぅん・・・。ねぇ、誰が最初の犠牲者なの?」

「秘密秘密。楽しみは後にとっておくもんだろ」

「ケチ~。冬馬さんの意地悪~」


 風雅が唇をとがらせてむくれてみせる。


「続きは別荘についてからのお楽しみって事か、冬馬?」

「そういうことだな」


 それから幾ばくかの時間が過ぎ、一行の乗ったワゴンは目的地へと続く細い未舗装の山道を走っていた。時刻はすでに夕方と呼ばれる領域に入っていたが、夏の日は長く、太陽はまだ地平線の上にあって幾分柔らかくなった日差しを大地へ投げかけている。


「凄いねぇ~、まさに『山奥』ってカンジだね」


 風雅が窓を開けて新鮮な空気に顔をさらして、目を細める。


「空気が違いますよね。なんて言うか、清涼感があるって言うか」

「これで揺れなければ最高なんだけどね」


 琴音に続けて彩香が言い、顔をしかめる。

 山道に入ってからがたがたと揺れっぱなしなのが気に入らないのだろう。確かに気持ちの良いものではない。


「何言ってんだ。これが自然ってもんだぜ。わかるかい、東京生まれの皆さん」


 後ろを振り向くと、冗談交じりに答える西都。そう言う西都も、この揺れには辟易しているらしく、その顔にはやや疲れたような笑みが浮かんでいる。 


「ただ、天気予報が心配ですな。ひどい雨にならなければいいんですが」

「智博さんは心配性だね。大丈夫だよ、きっと」

「慎重と言って欲しいものですな、風雅君」

「あんまり降るようだと土砂崩れで帰れなくなるかもしれんからなぁ。まぁ、今から心配 してみたところでどうなるもんでもないだろう?」


 冬馬が、心配を和らげようと意識してなのか、のんびりとした口調で言う。


「そ、そーだよね。いくら帰れないって言ったって一生帰れないって事じゃないんだし」

「風雅の言う通りだな。昼飯の心配は昼飯時になってからすればいいさ」


 一行は軽く笑う。


 ただ風雅は、一緒になって笑ってはいたけれども、なにやら心に引っかかるものがあって、でもそれが何なのかわからなくて、結局忘れてしまったのだった。


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