ハンバーグに砂糖を入れてはいけません!
小説祭り純愛編参加作品一覧
作者:靉靆
作品:白への思い出(http://ncode.syosetu.com/n1608bl/)
作者:立花詩歌
作品:彼と彼女の有限時間(http://ncode.syosetu.com/n1556bl/)
作者:射川弓紀
作品:僕と私の片思い(http://ncode.syosetu.com/n1365bl/)
作者:なめこ(かかし)
作品:ちいさな花火(http://ncode.syosetu.com/n1285bl/)
作者:一葉楓
作品:わたしときみと、芝生のふかふか(http://ncode.syosetu.com/n0273bl/)
作者:失格人間
作品:僕と幼馴染(http://ncode.syosetu.com/n1374bl/)
作者:三河 悟
作品:天国の扉~とある少年の話~(http://ncode.syosetu.com/n1488bl/)
作品:天国の扉~とある少女の話~(http://ncode.syosetu.com/n1490bl/ )
作者:コンフェクト
作品:ぼくとむらかみさん(http://ncode.syosetu.com/n1571bl/)
作者:えいきゅうの変人
作品:魔王を勇者は救えるか(http://ncode.syosetu.com/n1580bl/)
作品:恋の始まりの物語…?(http://ncode.syosetu.com/n1579bl/)
作者:一旦停止
作品:神様って恋するの?(http://ncode.syosetu.com/n1581bl/)
エレベーターの中に入り、目的地のある6階のボタンを押して扉を閉める。
響くようなウィーンという稼働音と共にエレベーターは上の階へ昇って行く。
僕は両手いっぱい荷物を提げながら中で一つ嘆息した。
「ここにも久しぶりにきたな…」
もちろん僕一人しか乗っていないのに返事が返ってくるわけでもなく、その独り言は広がり、そして消える。
そんなことをやっているうちに、甲高いポーンという音が目的階への到着を知らせてくれた。
エレベーターホールから左に曲がり、三つ目で一番端にある「山吹」のネームプレートのかかったドアの前に立つ。
ドアをノックしようと思ったがどうせあいつは出てこないだろうと思い、面倒だが一度荷物を下ろし、唯一の自分の持ち物であるバッグから合鍵を取り出す。
鍵を開けて中に入ると、部屋はいつも以上にひどい状態になっていた。
「くっ、一か月来なかっただけでこれかぁ。
いつもながらひどいなぁ。
おーい、モミジ生きてるぅー?」
返事はない。
けれど、靴はあるので少なくとも部屋でいるはずだ。
僕は、山のようなゴミを足でどけて足の踏み場所を作りながら、奥へ奥へと進んでゆく。
ほこりの積もった廊下を抜けてリビングに入ると、山のように本が積まれていて寝具としては機能しないであろうベッドの隅にうずくまっている毛布にくるまっている小さな人影を見つける。
僕は床に落ちている本やゴミを足でまたぎながらそこへ向かう。
「おーい、モミジ、起きなよ。」
目の前に立ち、人影に語りかける。
「どうせ起きてるんでしょ。
早く起き……」
しゃべっている最中にその小さな影は僕に向かって体当たりをしてきた。
「お帰りなさい、あーちゃん。久しぶり」
「ただいま、モミジ。久しぶり
起きていたのか?」
「ううん、あーちゃんの匂いがしたから今起きたの。」
小動物っぽく首をかしげつつ喋る彼女の言葉に苦笑しつつ、そのまま二人でしばらく抱き合う。
「オーストラリアに行ってたんだっけ?」
「オーストリアに一カ月だよ。」
「まあまあ、あんまり変わらないじゃない。
とにかく色々お疲れ様。
私の部屋でゆっくりして行ってよ。」
「ゆっくりってこの部屋の汚さだと無理でしょ。
僕のいない間に何をしたらこういう状況になるのさ?」
周りを見渡しつつ言った僕の言葉に、可愛らしく小首を傾げて彼女はいう。
「うーん、あーちゃんがいなくなってから一週間はご飯があったけどそのあとはなんにも食べれるものがなくて苦労したよ。」
「いやいや、そんなことを聞いてるんじゃなくてね。
って、結構作り置きして冷凍庫にまで入れといたのにそんなに短期間で喰っちゃったの?」
「だって、お腹がすいたから…。」
常識を逸脱した答えに驚きを隠せない。
この様子だと非常用においておいた缶詰や瓶詰もなくなってると考えたほうがいいだろう。
帰ってそうそう彼女とケンカはしたくない。
右手を額に当てて、顔を上に向けて大きく一つ深呼吸。
うん、僕は大丈夫だ。
冷静だ、冷静。
「まあ、それはもういいとしてもそのあとの食事はどうしてたの?」
気を取り直したように言った僕の言葉に対して満面の笑みを浮かべる彼女。
ひしひしと嫌な予感がする。
「人間、コンビニ弁当だけで半月は暮らせるんだね。」
予想道理のダメっぷりである。
そんなダメな彼女をやっぱり可愛いなぁと思って、思わずギュッと抱きしめる。
「あーちゃん苦しいよ?あーちゃ…」
ああ、可愛いな、やっぱり。
「むーぎゅ、ふぎゅー…」
彼女が何か言っていたようだったが僕の抱きしめる力には負けてしまい、いつの間にか静かになっていた。
数分が経って…。
「どうしていきなりそんなことをするの?
抱きしめるのはいいけどほどほどにしてって何回もいってるよね?」
現在、僕は彼女に怒られています。
いつの間にか彼女が静かになっているなぁ、と思ったら、いつものごとく気絶していて、僕と彼女の対格差的に仕方がないとはいえ流石に毎回やっているとこんな風に怒られるのである。
でも、うちの彼女は背が小さいので子供がお姉さんぶって怒っているように見えてとても和む。
僕のにやにやという笑い顔が隠しきれなかったのか、僕の顔を見て彼女はため息をつく。
「まあいいもん。
その代わり部屋の掃除をいつも以上にやってよねっ。」
「はいはい。
わかりましたっ。」
彼女を抱きあげて、いつもの定位置であるベッドに座らせる。
腕まくりをして、一言。
「さあ、始めようか。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼からこの部屋に来たはずなのに掃除が終わったころにはもう夕方になってしまっていた。
ちなみに、掃除という作業に彼女は全く役に立たないので座って応援していただけである。
掃除している僕以上に必死な様子に見えて癒されたのは秘密だ。
僕は彼女を振り向いて言った。
「やっと終わったよ、モミジ。」
「おつかれ、あーちゃん」
「モミジも掃除ぐらい覚えようよ。
確か実家にいた時も椿君に迷惑かけっぱなしだったでしょ。」
「つーちゃんなら大丈夫。
だって私の弟だもん。」
その根拠のない自信はどこから来るものなんだろうか。
弟の椿君には本当に申し訳ないが、僕を責めないで下さい。
悪いのはすべて君の姉ちゃんです。
「どちらかというと私が心配なのはみーちゃんかな。
いつになったら告白するのかなぁ。」
「心配なのはお前もだよ」というツッコミをモミジに入れた後、自分の妹の深雪について考える。
確かにあいつは料理も恋愛も下手くそだからなぁ。
まあ、気がつかない椿君も椿君なんだけれど。
「まあ、つーちゃんとみーちゃんのことは置いておいて。
お腹がすいたから何かご飯がほしいなぁ。」
唐突に彼女が言う。
「しょうがないなぁ。
ちょっとぐらい手伝ってくれるんだよね。」
「うん。もちろん。」
花が開いたかのような真っ面の笑みを彼女は浮かべる。
仕方ない、もともとそのために買い物をしてきたんだから。
「で、モミジは何が食べたいの?」
「そうだねー。
ハンバーグがいいなぁ。」
「えっ。」
そんな作るのに時間がかかるものをリクエストされると思っていなかった。
そのため、丁度肉のミンチは買ってきていない。
「ちょっと材料がなくて無理そうなんだけど、ほかの料理じゃダメ?」
「ハンバーグダメなの?」
そのウルウルした目はやめてくれ…。
彼女を泣かせているろくでもない人間みたいじゃないか。
よくよく考えると彼女を泣かしていることに変わりはない、ということに気がついたのでしぶしぶではあるが再び出かけることにした僕である。
靴を履きながらふと思い立って玄関から叫ぶ。
「モミジー。
一緒に買い物行かないか?」
しばらく返事がない。
やっぱり外に出るのは苦手か。
残念に思いつつ、気をとり直して出発しようとした。
すると、パタパタという軽い足音とともに来ないだろうと思っていた彼女が走ってくる。
そして、そのままのスピードで僕にムギューと抱きつく。
「珍しいね。
モミジが出かけるのについてこようとするなんて。」
「あーちゃんが誘ってくれたからでしょ。
それに久しぶりに会ったのに離れるのがなんか嫌なんだもん。」
なんだこの可愛い生物。
抱きしめたいのは山々だが、さっき怒られたので頑張って自重をする。
「肉だけしか買うものないし商店街でいいよね、モミジ。」
「うんっ。」
その言葉とともに彼女は大きくうなずいた。
僕と彼女は自然に手を繋いで歩き出した。
そうして、商店街に到着。
夕方だし、買い物客が多いのでただいま彼女の人見知りとコミュ障スキルが大いに発動しています。
自分から行くという勇気を出したけれどもやっぱり人は苦手なのかどうしても僕の後ろに隠れようとする。
しかたないなぁ。
そう思って、彼女の右手を自分の左手でしっかりと握る。
「大丈夫だからね。」
そう言って、手をつないだまま彼女と並んで歩く。
最初のほうはうろたえていた彼女もどんどん慣れてきたようで、周りを見る余裕も出てきたみたい。
きょろきょろとあたりを見回す彼女をじっと見つめる。
彼女と目があったので、にっこりと笑いかける。
顔を真っ赤にしたかと思うとプイッと顔をそむけられる。
可愛いなぁ。
そんなカップルらしい行動(?)をやっている間に目当ての肉屋に到着した。
僕がよく行く常連の店だ。
「いらっしゃい。
やあ、お兄さん久しぶりだねえ。
一緒にいるのは妹さんかい?」
常連である僕の顔をしっかりと覚えてくれている肉屋のおっちゃんにそう話しかけられる。
「妹じゃないよ。
ちっちゃいけどこの子は僕と同い年で19歳。」
「ちっちゃい」の説明の部分で彼女に腕をキュッとつねられたのはおっちゃんには秘密だ。
「ほぉう。
んじゃあ、彼女か。
兄ちゃんかっこいいしねぇ。
可愛い彼女に免じておまけしてやろう。」
おっちゃん鋭い…。
なんだかんだで、牛と豚のミンチをそれぞれ百グラムずつ買うだけだったのに、豚バラ肉など色々な物をおまけしてくれたおっちゃんに頭が上がらない僕である。
「よかったね。
今日はモミジが来てくれたおかげでいっぱいオマケしてもらえたよ。」
「……」
「モミジ…?」
彼女の顔を見ると真っ赤である。
そうか、さては…。
「おっちゃんに彼女って言われて恥ずかしがってる?」
彼女が顔をうつむけたところをみると正解のようだ。
そんな彼女をニヤニヤと見守りながら彼女の家まで歩く。
そんな僕の姿は結構不審な目で見られていたのだけれど、恥ずかしがっている彼女とその彼女に気を取られていた僕は結局気がつかなかった。
なんだかんだあった買い物から帰った僕たち二人は揃ってキッチンに立っている。
「それじゃあ、ハンバーグを作るけど…、モミジは大丈夫?
料理作れる?」
「大丈夫っ。
……いつか私一人でも作れるようになってあーちゃんに作ってあげるもん(小声)……」
彼女の小声の独り言は僕にもしっかりと聞こえたのだが内容がすっごく可愛いので聞かなかったようにふるまうことにしよう。
それにさすがにうちの妹ほどひどい料理を作る人間もいないだろうと高をくくっていたのである。
結論から言うと…確かにうちの妹よりかはましな出来ではあった。
時間はかかったがなんとか完成することができたのだし、味は普通においしい。
その点は大きな差である。
でも、その過程が問題だった。
どんな感じかだったかというと…
『ミンチと卵を入れてかき交ぜ…。
えっ、なんでそこで砂糖を入れようとしたの?
ハンバーグ甘くないでしょ。』とか、
『ソースはデミグラスソースでいい?
んじゃあ、流石に本格的には作れないから市販のソースを使って…。
って、デミグラスソースは茶色いけどカレーじゃないから、カレーじゃないから~。』とか。
そんな彼女のとんちんかんなミス以外は上手く出来ていたように思う。
ちなみに彼女は現在…。
自分の至らなさに少々落ち込んでおります。
そんな彼女を励まそうと、
ドヨーンとしている彼女の頭にポンっと右手を置く。
そうしていつものように優しく撫でてやる。
「まあ、最初でこれだけできたらいいほうだと思うよ。
僕が手伝ったとはいえ、僕もこんなに最初は上手くいかなかったし。
それに二人で初めて作った料理なんだしすごくおいしいと思うよ。」
そういってニコッと笑うと彼女もやっと気を持ち直してくれたようテーブルに付いてくれる。
「始めての共同作業…」
ぽつんと言った彼女の独り言にはちょっと赤面してしまったのだが…。
でも、それはそれでなんかなんかいいなぁ。
僕たち二人のこの後のことを考えてしまう。
ニヤニヤ。
「あーちゃんがいやらしい顔してる…。」
「いや、そんなことないよ。
それじゃあ食べようか。」
「ごまかした。」
「とっ、とにかく食べるよ。
いただきます。」
「いただきます。」
ハンバーグを食べている彼女がいる。
彼女は子供のように無邪気で、嬉しそうだ。
そんな彼女と一緒にいると僕もいつも楽しい気持ちにさせられる。
こんな彼女との日常がいつまでも続くといいな、そう思う僕がここにはいる。
彼女と離れることなく、いつも寄り添っている僕が。
END
今回、靉靆さんの主催の純愛小説祭りに参加させてもらいました。
まあ、他の方々が上手い人ばかりなのでその方たちの間に少し読んでもらえると嬉しいです。
ハンバーグの作り方は一様レシピを見ながら書きましたが、事実と違うようでしたら作ってくださると食べに行きます。(笑)
ハンバーグは二人の愛の結晶…。
それでは最後に、
期限最終日にぎりぎりでの参加表明にも関わらず企画に参加させて頂いた企画者の靉靆さんと、今回企画に一緒に参加して下さっている方々に謝辞を。
それでは、またどこかで。