幼少編 2
ミルクだけではなく流動食も食べ始め、ハイハイも出来始めてから(早かったらしく驚かれた)ある計画を実行した。
メイドさんがスプーンで掬って差し出してくるご飯を断固拒否!
自分で食べます!の意識表示だ。正直、中身25歳、「あーん」状態は恥ずかしかった。
あの手この手で食べさそうとする魔の手から「んー」「やー」と逃れ、スプーンを奪い取り自分で食べる。
「坊っちゃまお願いします」
とまだ若いメイドさんに目をうるうるされて挫けそうになったがそこは心を鬼にしてやっぱり拒否。
何度か繰り返すとメイドさんも諦めそばに控えるだけになった。
勝った!
おしめ交換は涙を飲んで諦めたが。
自由に動ける実感を噛みしめハイハイしまくったので早めに腕も鍛えられた。
じゃあ足も、と支えありで立ち上がったら見事に立てた。
自分で感動する前に周囲が大興奮。両親に今すぐ伝えましょうと頭を撫でられ少し照れたのは記憶に新しい。
歩き出したらバランスが難しくすぐ転けたが。
要練習ってことだろう。
とにかく暇すぎて、誰かいる間は寝たり歩く練習をしたり。
誰もいない間はテンション高く好きなことをしたり天使の悪口をぶつぶつ呟いたりしていた。
夜寝てる間も誰かしら控えているのが昼寝の時間に少しだけ一人になることがある。
シーツを足で蹴りながらリズムを取り、1人カラオケに勤しんでいたらメイドさんに見られた。
しまった。夢中になりすぎた。
目が点ってこういうことをいうんだな、て顔をして扉を開いたまま固まっている。
すぐに適当な言葉でぶーぶー言ってご機嫌さを出し誤魔化してみたが未だに疑った目を向けてくることがある。
平穏に暮らすためには自重も大切に。
そんな感じで、天使への怒りと諦めを感じながら自分なりにうまく過ごして来たつもりだったが、普通の子供とは一線を越えているとという噂は屋敷中に広まっていっている。
泣かなすぎ。
反抗が少なすぎ。
言葉に反応しすぎ。
とまぁ、少しずつ普通とは違うと認識され若干引かれてしまった。中には目があっただけで固まるメイドさんも。
話しかけるのだけはあんなに我慢したのに泣ける話だ。
そりゃあ泣かないで寝てるか考え事をしている赤ん坊なんて気持ち悪いだけだろう。
お腹空いた時やおしめを変えて欲しい時だけ目を合わしていたのも明らか失敗だった。
自分で考えてもそんな幼児気持ち悪い。
その頃から、屋敷の者に「坊っちゃん」から「ギルフォード様」と呼ばれるようになった。
正直様付けは未だに慣れないが、これからギルフォードとして生きていくなら仕方がない。
いくら持ち上げられようが高飛車にならないよう気を付けよう、と受け入れる。
そんなギルフォードを見てにこにこ誇らしげに微笑むメイド。
アルフォンス家の嫡男ギルフォードの神童としての噂は本人の想像以上に広く素早く屋敷外にも拡がっていった。
もちろん本人は知るよしもない。
***
赤ん坊が使用するには広すぎる部屋の中、高級ベッドの上で鈴菜ことギルフォードは寝ていた。
「旦那様と奥方様共に早く帰って来て欲しいですね、ギルフォード様」
メイドさんがしんみり呟く。
実は半年ほど両親の姿を見ていない。ギルフォードの面倒は全てメイドさん達がしてくれている。
両親は半年前にキスの嵐という熱烈なお別れをしてどこかに旅立った。
よく解らないが、貴族には大切な仕事が沢山あるのだろう。
「出来るだけ早く帰ってきますわね」
「まだ赤ん坊のギルから離すとは見ておれ、しかと鬱憤晴らしてこようぞ」
母親は寂し気に、父親は不敵に笑って出て行った。
メイドさんに頭を撫でられながら、父親の不敵すぎる笑顔を思い出す。中々に壮絶な笑顔だった。父親にはあまり逆らわないでおこう……。
この世界に産まれてきてから1年と4ヶ月弱たった。
まだまだ手が離せない赤ん坊時期なので部屋の隅にはメイドさん達が控えている。 下手なことは出来ないので、いつもの寝たふりをして思考にふけるしかない。ふけっている間に本当に寝てしまうことも多いのだが。
父親の笑顔の次に考えているのは、先日発覚した魔術についてだ。
地球人なら魔法を使ってみたいと思うのは仕方がないだろう。
額に稲妻形の傷痕がある某魔法使いみたいに大人が杖を振るう姿は一度も見たことがない。
ということは……
どういうことだ?
ゲームみたいに呪文一つでいけるのだろうか。
(もっと小説とか読んでおくべきだったなぁ)
友人が読み耽っていたライトノベルを思い浮かべる。 異世界に行くと知っていたなら頭を柔らかくするためにも読んでおいたのに。
とりあえず好奇心に負けて、手を横に付きだし、風よ~とか念じてみた。
結果、ドカンッと大音量が響き部屋の壁が大破した。
「ギルフォード様!」
手を付き出し埃が舞う中、絶句していたらすぐに抱き上げられ反対の壁まで避難。
「襲撃!?」
「誰か、衛兵を呼んで!」
「くそ、ジルフォード様が留守の時に!」
突然の大破に攻撃されたのだと勘違いしたメイドや駆けつけてきた執事、何故かコック長までもが殺気立つ。
包丁持って警戒していたコック長が後から駆けつけてきた門番にやれ、なにをしていた。
不審者はいなかったのかと怒鳴り付けている。
――いや、多分犯人私です。
別室に移動されながら、しばらく魔法は禁止にしなくてはと固く誓ったギルフォードだった。




