消滅
プロローグ
自分は結構運がいい方だと思っていたが、案外そうでもないらしい。
「もう一度言ってくれる?」
鈴菜の前にはいるのは、プラチナブロンドの自称天使。外見性別女。外見年齢20歳前後。
「先ほど説明した通り、鈴菜さん貴方には消えていただきます」
自室に突然現れて抹殺宣言。悪魔も裸足で逃げだすに違いない。
いくら申し訳なさそうな顔をされても困る。
「断固拒否」
「は出来ませんよ」
チッ。心で舌打ち。
天使いわく、自分は1ヶ月前に25歳にして早くも事故死の予定だったらしい。 天界のミスが発覚し、このまま放っておくと他者の運命まで変えてしまう危険な存在なので消えて貰うことになったとか。
「なるほど、夢ね」
「夢ではありません」
「とりあえず起きたいので貴方こそ消えて頂けます?」
「だから夢ではありません」
優しくない天使様だ。甘い外見に騙された気分。現実の酷しさで眼鏡の奥の瞳が潤んだ。
もちろん怒りで。
「そっちのミスなのに随分勝手な話じゃないの」
「……決定事項です」
天使様一瞬動揺。が、仕方ないのだと見つめられる。
「突然消されて皆に心配かけて。警察沙汰になってやれ駆け落ちだなどと要らぬ噂をかけられたりしろと?冗談じゃない」
「いいえ。鈴菜さんが消えた時点でこの世界の歪みは修正されます」
「歪み……」
「起きたことを消すということは我々には容易です。基本禁じられていますが、時と場合によっては行使されます。しかし事故という起きなかったことを…その後を再現することは不可能。よって必然的に鈴菜さんの存在事態が元から無かった世界へと修正されます。簡単に言うと、有から無は作り出せるが無から作り出されるのは無だけと言うことです」
つまりは私がこの天使に消された瞬間、親からも友人からも全ての知り合いから忘れ去られるということだろうか。
この部屋も私のものではなくなり、私という存在がいた形跡が一切無くなる。
「な、んで」
渇いて張り付く喉から言葉にならない悲鳴が出た。
天使は辛そうに一度目を閉じると、右手をそっと上げ白く発光しだした指をこちらへと伸ばしてきた。ごめんなさい、と呟き伸ばされた手が前髪に触れる。
逃げだしたいのに体が動かない。
「や、め」
とん、と指先が額に触れた。
――ああ、まだやりたいことが沢山あったのに。
自分の体が淡く光出す。 消滅しようとしていることを本能的に悟った。
――消えたくない。
親の顔、友人達の顔、過去の恋人を思い浮かべる。
――死にたくない。
だが、どうせ死ぬ運命だったのならだれも悲しませないことは良かったのかもしれない。
一粒流れた涙が落下していく。
想いの詰まった涙が床に落ちた瞬間、“私”という存在はこの世界から消えて無くなった。