序章
俺の家は長年とある神様を祀っている、らしい。
らしいと言うのは俺が生まれてからまだその神様が現れてないから祀るのはまだ先だと言われていた。
から実際に祀りを見た事もやった事も俺はまだない。
まぁそう言う事もあって結構広い家に住んでる。
家で着物着なくちゃなんねーのは辟易するけどな。
あ、言い忘れてた。
俺の名前は江藤 幸太郎。現役の高校二年生で残念な事に彼女はまだいない。
まぁ家柄を抜かせば何処にでもいる普通の高校生だ。
まぁそんな俺は今家から連絡があり学校を早退けしてる所だ。
なんでも大事な用らしく何が何でも帰って来いと。
んで気持ち急いで帰宅すると家は騒がしく家の廊下をお手伝いさん達が慌しく行き来している。
あれ、親父達は何処だ?
「あぁ、坊っちゃん。奥の部屋に皆様集っていますよ」
「あ、うんわかったありがとう」
お手伝いさんの島田さん(47歳)に礼を言い奥の部屋に向かう。
すれ違う家の者に挨拶を交わしつつ奥の部屋に着いた。
奥の部屋は普段は使われていなく、俺も入るのは今回が始めてだ。
「失礼しまーす……」
そろそろ襖を開ける。
いや、自分の家なんだからこんな畏まる事は無いんだけど、
なんていうか襖の向こう側から厳かな雰囲気がな、流れてな、うん。
まぁともかく部屋に入った。
出入り口付近に座っていた親父に声をかけられる。
「遅いぞ。もう始まっている」
「あ、ゴメン」
「見ろ、ついに私の代で現れてくださった!」
いつもと違う何処か高悦した様子の親父に違和感を覚えつつ親父の視線を追った。
「……え?」
視線の先には長い黒髪の俺とそう変わらない少女が立っていた。
藍色の地に桜と菊の花模様の着物を着て、右手には日本刀をもっていた。
そしてもう片方の左手に人の頭が、つまり生首が掴まれていた。
生首からは血が滴り落ち少女の足元には血だまりが出来ていた。
…なんだこれは。
この少女は誰で、あの生首は誰で、何で皆何とも無いようにしてるのかわからない。
「な、なんだよこれ…」
「素晴らしいでしょう幸太郎。あの方が我が家が長年祀っているスギタサマよ」
「……は?」
お袋も親父と同じ様に高悦した表情をしてる。
よく周りを見れば皆皆同じ様な表情をしている。
生首と日本刀を持った少女とそれを高悦した表情をした大勢が見ている。
この異様な光景に俺の頭は混乱する。
だって、生首だぞ?
生首があるって事は人が一人死んでて、
しかもよく見たら少女が持っている日本刀は血で紅くなっている。
「お、オカシイだろこれ。だってこれだとあれじゃん、なぁアンタらオカシイよ」
呟き混じりに零すと皆が一斉にこちらを見た。
スギタサマと呼ばれた少女も淀んだ光の無い目でこちらを見た。
「だってさ、その生首はどうしたんだよ」
「スギタサマに捧げた供物だ」
「捧げた?それであの日本刀で首を斬り落としたのか?」
「ああ、そうだ。美しさと力強さが溢れる剣さばき…」
俺は勢いだけで話し、いや叫び続ける。
「何が祀るだ!神様じゃなくてただの人殺しじゃねーか!!」
ザワ…ッ
「人殺し?」「スギタサマになんて事を」「恐ろしい恐ろしい」
「どうします?」「だってねぇ、」「仕方ないですね」
「彼が悪いのですから」「スギタサマがお怒りになる前に」
「「「「「この無礼者を殺してしまいましょう」」」」」
「………………え、あ、っ…かはっ」
気づいたら先程まで隅に寄せられていたテーブルが俺の目の前、
いや零距離に存在していた。
後ろには壁、前には俺の腹あたりにくる高さのテーブルとそれを恐ろしい形相で押す人達。
腹を机に後ろを壁に圧迫されて痛いし、苦しい。
「謝れ謝れ謝りなさいスギタサマに謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れぇえ!」
親父はずっと謝れと狂ったように繰り返すだけだ。
謝れと言われても腹はとてつもなく痛いし、胴体半分こしそうだし、無理だ。
「あ、あぐ…う、は……が……」
意識が遠退いていく寸前血濡れた日本刀を振りかざすスギタサマを見た。
目が覚めた。
死んだと、殺されたかと思った。
夢かとホッとするがすぐに違和感に気づく。
「ここ、どこだ?」
木で出来たベットで目をさました。
窓を見ると見たこともない村があった。
人っ子一人いない、廃村というか独特な雰囲気が漂よっている。
その後俺がこの村で何度も殺されるとはこの時の俺は知る由も無い。