360グラム
掲載日:2026/05/26
「晩ごはんは、360グラムしか食べちゃいけないの」彼女は食卓のボウルから、自分の分の素麺を取り分けながら言う。今日は竹製の赤い箸だ。「ご飯も含めて、ってことよ。」
「それだけじゃ、少ないと思うけどな」
「じゃあ、わたしが残したら、あなたが食べてくれるって言うの?」
「食べてあげないこともないけどね」
「それじゃあ、少し多めに食べようかな」彼女は素麺を二本だけ、ゆっくり選び、追加する。
「それだけ?」
「そう。だって360グラムって決めてるんだから」
僕はコップの麦茶を飲み「頂きます」と言い、素麺をツユに浸す。「美味しかったら、全部きみが食べてもいいんだよ。たぶんそうなる。そしてきみが残した食べ残しを僕が食べる。いつものことだ」
「ふふっ。分かってるじゃない?」
素麺は湯で時間一分弱、歯触りがしっかり残るように固めに茹でた。慎重に。
「頂きます」彼女も食べはじめた。まずはサラダから。
「サラダだけで360グラム超えないか?」
「いいの、だってあなたがわたしの残したのを食べてくれるんでしょ?」彼女はいつものように、嬉しそうな顔をして素麺をすすり始める。




