オン
嘆きの森で死者想う
哀しい貴方に白百合を
今から四千年程前。
魔法界の東の果ての大陸にて。
青年の、ところどころハネた天パーの茶髪は、切られたせいで時代的にはかなり短く、現代でいえば普通の長さになっていた。
両の眼は、髪と同じく茶色。
身長は高い方だ。
彼は、乱れる呼吸を整えて、白い光の中に立つ者を見据えた。
「彼の鬼を封じろ。聖安」
彼は自分の守護霊、聖安という女性に命じた。
聖安は、細く長い指を、光の中心へ向ける。
「印」
即座に魔法陣が出現し、力を封じられた魔物を更に封じ込めた。
「その魔物を如何いたします?誓眞」
誓眞は、己の守護霊の蒼っぽい目を見返した。
「来る未来のいつか、コイツには心から愛し、忠誠を誓う主人ができるだろう。
それまでは俺が護り、祀っとく」
「それは、先を視た上での判断ですか?」
「ああ」
「では、その方はいつ現れるのですか?」
「俺が死んだ後」
「え?」
誓眞は、限りなく続く荒野を見渡した。
「その時まで、お前は眠っているといいよ。夢幻」
後に『聖安国』と名の付く荒れた列島の真ん中で、鬼の封じられた札を、誓眞は固く握った。
✝
二千年後(現代からは二千年程前)。
聖安国第22代王、アリア・セシリアin紅羽請神社。
「な~んでこんな事に?」
実に面倒くさそうに、アリアは向かいに座る王佐のロンドに尋ねる。
「陛下が誓眞王に呼ばれたからです」
「ハァ…」
✝
今朝。
『目覚めよ。我が後継者よ』
真っ白い空間に、声が響いていた。
「?」
アリアは起きた。
「んむ~?」
誰もいないことを確認し、コロンとスグに眠り直す。
『目覚めよ。1人の乙女の目覚めし時、モンが開かれる』
また声がしたが、アリアは無反応だ。
どうやら本当に眠ってしまったらしい。
『目覚めよ…エルフの血を流す乙女』
無反応。
『・・・・・』
「すぴ~…」
『目覚めよっつってんだろーがァァァァ!いい加減起きろォォォ!!
何で二度寝してんだ?雰囲気で悟れ!空気を読めェェェェェェェェェェェ!!!」
プチン
何か音がして、アリアが目を見開いて起きた。
「そこかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
声を発生させていたバカに、アリアは華麗な蹴りを寝たままキメた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
「立ちなさいコノヤロ―。何なんですか貴方。誰なんですか貴様」
冷徹にアリアが言うと、男は茶色い瞳に涙を溜めて、蹴った女を見た。
「や…やるな現王。
聖安国初代王たる俺を蹴るとは…。しかも太ももを…」
「は?初代?」
アリアは記憶を辿る。
(聖安国は確か、魔物溢るる大陸だったのを、後に王となった若い陰陽師がお祓いして開いたんだったか。
……だったか?
まぁいいや。で、陰陽師の名は紅羽請誓眞)
「誓眞王?」
「そうそう。わかるじゃないか」
誓眞は満足そうに頷く。
何に満足しているかは不明だが。
「ふむ。それは失礼しました。
それで?初王が現王の夢枕に立たれるというのは、何か私に御用がおありで?」
「そ~うそう!」
誓眞はかしこまって座る。
「現王、アリアよ」
「はい」
「目覚めて直ぐに我が社へ赴け」
「…今すぐですか?」
「いや、起きたらでいい。起きたらすぐに社へ来い」
「御意」
「待ってるぞ」
✝
「新年や戴冠式じゃないのに何で」
「理由は必ずありますよ。…着いたようですね。降りましょう」
アリアとロンドは牛車を降りる。
そして、長い階段を一歩ずつ登・・・・・
「面倒ですね」
「ハイ?」
アリアの一言に、一歩登りかけていたロンドは振り向く。
「飛んで行きましょう」
言うや否や、アリアは羽織を脱いで、純白の巨大な翼を解放した。
普段は、魔力でしまっているのである。
「陛下…それは…」
「GO~」
ロンドは発言できず、アリアに抱きつかれて空に昇った。
「到着♡」
降り立った所は聖堂前。
「ロンド先生は待ってて」
「はい…」
何故か疲れた様子のロンドを残し、アリアは建物に入っていった。