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SacredPlace

茨の道を 旅人が行く


白馬に乗って



花園の道を 貴族が行く


血の滴るナイフを持って



死の旅路を 王が行く


多くの天使たちに守られて

馬車が止まった。


十字をきって、アリアは馬車から降りる。



髪は高く結い上げられ、かんざしなどの飾りを付けられている。

着物は軽い素材で、幾重にも着こまれているのに、動くたびにひらひらと揺れる。


腰には愛刀の、魔剣“フィアン”が吊るされている。


このフィアンは、『滅びの剣』の名で知られる魔剣で、刀身は水晶でできている。

鞘から抜き放たれると、その刀身に青い焔が現れ、水晶だが物を斬ることができるようになる。

鞘も、実は焔が形作っている物で、「抜く」というより「消える」といった形で抜刀する。


色々と曰くつきの剣だが、その話はまた後ほどとさせていただく。



アリアがいるのは、大聖堂の前。

“最後の大戦”という意味の“Armageddon”という地。

かつて、神とサタンとの戦場だったと云われる聖域である。


そこは、魔法界が指定している戦場で、大きな戦争の時にしか使えない。

審判者の同意も必要である。


使用方法も決められている。以下の通りである。

まず、敵国同士の王のみが対面し、両王の魔力と、審判の天秤の力で異空間を造り出す。

造られた異空間こそが戦場となる。

面積や地形などは、両王が決めることができる。

また、使用時間も決める。アルマゲドンの天気で決められる事が多い。


全ては、両王の会談によって決まるのだ。








まずは、両王が合流することから始まる。


「ごきげんよう。闇世界の支配者」

「よォ。月姫」


その場の雰囲気は、昨夜のアレは一切感じさせない程凍てついている。


「開戦はもう、避けられませんか」

「無理だな」

「そうですか。では、戦場の作成とまいりましょう。王」

「そうだな。月姫」



異空間が造られる前は、霧状の何かが満ちているだけの空間。

そこに、アリアとグイルは立っている。


「規模はそんなにデカくなくていい。コロッセウム程度でいいだろ」

「いえ。半獣や巨人族、仕掛けなどのことも考えて、もう少し大きくした方が良いでしょう」

「なら、聖安国城の敷地の広さでは?数ある王城の中でも狭い方だろ」

「ふむ。いいですね。では広さは決まりですね」


地面が生まれた。

霧状の何かの寮は、少しだけ減った。


「戦う時間はいつにする?」

「私は、アルマゲドンの天気で決めた方が、何かと良いと思います」

「天気か。うん。じゃあ曇り時でどうだ」

「曇天の空の下、修羅が戦場を駆る…と。素敵です。では、曇天時で」

「雨が降った瞬間、即、その日の戦はおしまいということで」


霧状の何かが、少量空に昇って消えた。


「で、次は土地柄みたいなのか。お花畑みたいなそーゆーことか」

「うん。それはもう、各入口だけ私たちの好きにして、主場は荒野でいいのでは?」

「オイオイ。最高じゃねえか。あっ、でも森も一応造っておこう。エルフを考慮して」

「あと、でっかい溝とかも。岩とかも」

「草原なんかも造っとくか?」

「いいですね」


その通りになった。

両端の空間が、各入口となる。装飾は可。

主に城や要塞が造られてきた。


「よし。じゃあ俺は、城を造るか」


コレは想像一つでOK。

岩が尖ったような、禍々しい城が生えてきた。

城への入り口には深い谷があり、下からは炎が上がっている。



「私は、塔と壁。そして、たまに水柱の上がる湖」


白い塔と、城壁が生えてきた。

周りには水辺が在り、草花が美しく茂っている。


「あと、お花」


湖が光輝いた。


「水に浮かぶ、優しい色の極楽の花。蓮華れんげの花」


神秘的な水辺に、大輪のはすの花が咲いた。

奥にもちらほら咲いている。

芳しい香りがたちこめた。


その空間は、戦場でありながら、神々しく美しいものだった。




アルマゲドンに、新しく戦場が生まれた。


禍々しい、炎の上がる黒い城と、極楽浄土のように美しい楽園。

その間に、荒野と森と草原の戦場。




その大地には 真っ赤な華が咲くだろう


その大地には響くだろう 無念の悲鳴 生を望む悲鳴が


そして 死が その大地に満ちる


これまで通りに








「グイル」

「何?」


花畑の中で、アリアは呼びかけた。


「私たちは同じだ。

 たとえ善悪の名の下に、刃を交えようとも、殺そうとも、結局は同じ。

 殺しは殺し。奪っていることに変わりはない」

「・・・・・・」


「忘れてくれるな。私たちは同じだ」


強い意志を持った、両の青い目。

グイルは否定しようとしたが、そのまなこに見据えられ、できなかった。






やがてアリアは、花畑の中心で蒼穹を見上げ、高らかに、美しく歌った。


今は無き、国の訛り。

滝つぼの国、独特の訛ったエルフ語の子守唄。




「何度か、死者を前に歌っていたな」


グイルが言った。


「安らかに眠れるように。これから死んで逝く者に、子守唄」


アリアは笑って返す。



――――― 金色こんじきの月が空に昇った 夜が降りる……  ♪


ふたりは、恋人同士のように肩を寄せ合っている。

アリアの歌は、今はグイルしか聴いていない。

本命に届くのは、その者が死ぬ時だ。


――――― ……眠れよ 可愛い子 三日月の揺りかごで 夢の国へ  ♪

歌、発動しました。


はてさて、戦場に散るは光か闇か。

戦乱の世が今、始まりまする。

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