QUEEN
私の愛する神さま
たとえ闇が降りようとも
私は貴方から離れません
離れようにも
離れる術は無いのですから
魔法界のどこかの国にて。
「オイ聞いたか?アルマゲドンを使っての戦争が始まるらしいって」
「知ってるよ。大戦だろ。昨日、エデンに王が招集されたらしい」
「アルマゲドン使用の大戦といやぁ、審判者の同意が必要だろ?同意したのかい。月姫様は」
「したらしいよ。平和主義者かと思ってたがね」
「何だお前知らないのか?月姫様は条件付きで同意しなすったんだよ」
「「条件??」」
✝
「条件、とは?」
人の王の問いに、審判者月姫は答えた。
「これは大戦です。何が何でもアルマゲドンを使用します。
それから、兵隊以外を無理やり兵にしないこと。彼らから、彼らの戦いを奪うことはありません」
女王が言い終わると、東の刀矢(あまり魔力を持たない怪力の戦闘民族)の王が立ちあがり言った。
「仰せのままに。我らが審判者、アリア・セシリア王」
彼は刀矢族特有のルビーの瞳を、アリアのサファイヤより澄んだ青の瞳に向けた。
✝
「へぇ~。良い事言うじゃねえか」
「流石は平和ボケした、死者を崇拝する国の王だ。ははっ」
そう言った男は、隣の友人に殴られた。
「いてっ!」
「バカヤローお前。彼の女王はな、マジ凄いんだぞ。
嫉妬深い王が聖安国を攻めた際、アリア女王はたったお一人で全軍を壊滅させた話を知らねえか?」
「知ってるよ。有名なおとぎ話だ」
「いやいや。実話だよ」
「まさか。たった二十の小娘だぞ」
「嘘じゃねえ。オラのいとこが見た」
「おっ」「ほう」
「いとこは海の部隊にいたんだが、全てを理解したのは全てが終わった後。医療院のベッドの上だったそうだ。
いとこの話はこうだ」
「聞かせてくれ!」「話せや」
「それは…月明かり美しい夜だったそうだ。
オラのいとこは、高い見張り台にいたんだ。
聖安国の月はそらぁ見事だ。いとこは月を見ていたそうだ。
と、いとこは、月の中に竜を見た。細長い銅に、巨大な翼の珍しい竜だ。
いとこは竜の上にそらぁ綺麗な女を見た。月姫様だったんだな。
長くて綺麗な黒髪をよ、風になびかせ、月を背後につけて白竜の上に立っていた。
月女神のようだったとか言ってたな。
オラのいとこは見惚れちまって、声も出なかった。
いや、オラのいとこだけじゃねぇ。女神を見た全員だ。
だが、正気に戻れた奴がいたらしい。鐘が鳴らされた。
いとこは慌てて弓矢を構えたが、月を見た時にはもう女神は消えていたそうだ。
だがよ、かわりに……」
男はやがて言葉を切ると、惚けたように固まってしまった。
「オイ?」
「続きは?」
「かわりに…かわりによ、目の前によ、あの御方が立っておられたんだそうだ。
そして船を沈没させ、乗っていた全員を無傷で送り返しなすったんだ」
「あの御方?」「?」
男は、まるでそこにいとこの見た女神がいるような顔で、昇り始めた銀色の月を見上げていた。
✝
聖安国の和風の城に、女がいた。
長く美しい黒髪は光を弾き、肌の色は白く、耳はエルフのように尖っている。
その両目は空と海を合わせるより青く透明で、瞳孔までその色なので、瞳孔の存在はわからない。
彼女、アリアは、昇り始めた朝日を眺めていた。
爽やかな朝の風が、アリアの髪にじゃれついては通り過ぎて行く。
赤い珠のような精霊が寄ってきて、アリアの顔の近くで漂いはじめた。
「おはよう」と言っているらしい。
小鳥のさえずりが庭に響いている。
聖安の一日が始まる。
最初っからセリフのオンパレードでしたね。あはっ。
次回、『召集』。
キレ―な兄ちゃんが二人、可愛い兄ちゃんがひとり、イケメンヅラした悪魔が一匹出てきます。
お楽しみに♡