式神
瑠璃の山に手を伸ばし
宝玉の海に身を投じ
深紅の川を遠巻きに見て
漆黒の宙が手招く
部屋の中には、女がいた。
丸い形の眉の、垂れた眼、艶やかな黒髪の、和風美女だ。
人間ではないことを示すように、その頭からは、長い二本の角が生えている。
さっきまで泣いていたが、アリアと夢幻の姿を捉えて泣きやんでいる。
「キミは…?」
「般若」
女は、そう名乗った。
「般若。何故泣いていたの?」
アリアに問われ、班やはボソボソと答える。
「私の主人が亡くなったのです。それで、悲しくて…」
「そなたの態度から見ると、その“主人”とやらは大そう立派な人間だったようじゃな」
「…はい」
般若はしゅんとうなだれる。
「“死”を知っているのか。ほお」
アリアは静かに微笑み、しゃがんで、座っている般若と視線を合わせた。
「般若。アナタはとても優しい心を持っています。だから、私はアナタが気に入りました」
「はい?」
状況を理解できないようで、般若は眼をくりくりとさせて、首を傾げる。
「私の式神になりませんか?」
アリアはまた、式神に選ばせた。
嫌なら来るな、ということだが、はたしてこの素直そうなコには断る意志はあるのかと心配になる。
が、「それはそれでいいな」と思いなおし、アリアは答えを待った。
「わた…私は式神です。どうぞ、御心のままに」
アリアはその返事に、にっこりと笑って答えた。
まずは一匹。
「月夜様、何匹ここで貰えば良いのでありんすか?」
「ん~。あと二匹くらいはいた方がいいでしょ」
「どのような子が欲しいとかありませんか?私でよければお手伝いしましょう」
般若がすすす…と出てきて先導してくれた。
「武器とかになる奴なんかいるか?般若?」
夢幻に声をかけられ、般若は一瞬ビクッとしたが、「はい」と答えて何枚か見せてくれた。
「弓矢、大剣、呪いの剣…ってコレ、本当に陰陽師の使うモノか?なんじゃ、呪いって」
「少なくともこの三種は、私の以前仕えていた三人の主人が使っていました」
「……。般若よ。ぶっちゃけその主人とやら、退魔の方は…」
「はい。全然ダメで御座いました」
「……」
夢幻と般若は、なんやかんやで仲良くなったようだ。
「むげ~ん。はんにゃ~」
「「?」」
「私、この子たちにする~」
アリアはにゅっと奥から出てきました。
その腕には、白く輝く三つの尾を持つ狐が。
その肩には、漆黒見事な、巨大な一つ目の大鴉が。
「つっ…月夜様ぁぁぁぁぁぁ!?」
「なななな…早っ!ワタクシ共が喋ってるうちに!?」
アリアは「ふふふ」と笑うと、
「可愛いでしょ~♡」
と言って、狐の頭を撫で、鴉に頬ずりした。
「可愛いって、見た目で選んだんですか?」
「それは無いだろ!ねえ!月夜様ぁ!」
「能力もちゃんと見たわ!失礼なことぬかすな!」
アリアは半分ノリでキレて、二匹の紹介をはじめました。
「この子は白狐。化け狐。幣に取り付いて剣にだってなれちゃうんだって」
この時、夢幻が般若に
「ホラ、これがホンモノって奴じゃ。これが実力者って奴じゃ」
と耳打ちし、般若は般若で納得したことは、このふたりだけの秘密である。
「この子は百眼。眼に映したモノを主に見せることができる、隠密が得意な子」
百眼は恐縮しながら、ぺこりと頭を下げた。
「じゃ、もういいや。撤収」
「「「「は~い」」」」
こして、アリアには一気にたくさんの友達ができたのです。
ちなみに、他の式神について結構グダグダ言ってた夢幻でしたが、結局は全員とすぐに打ち解け、深い友情を築き上げておりました。
その後、ふさがっていた夢幻の左目は、アリアの治癒力によって開きました。
が、傷はそのままです。
理由は、「だって、傷あった方が威嚇するにはちょうどいいじゃありんせんか」だそうです。