月夜の君
昇る朝日に夢を抱き
沈む月に儚さを抱く
流れる雲に空を想い
消えゆく闇に蛍を思う
「ワタクシだけで充分じゃ。ワタクシだけで…」
ブツブツと愚痴り続ける夢幻を末尾に、一行は御札だらけの扉の前に来た。
「え?何を封じてるの?」的雰囲気を隠すことなく放出している。恐い。
「「・・・・・」」
「さ、入って、式神選んで」
扉は開けられた。
入るしかないので、アリアはフィアンを握り、夢幻はひそかに指を刃に変え、入った。
誓眞と聖安は、戸口で待機。
「足元、お気をつけなんし」
「うん。ありがとう」
入ると、薄暗い真っ直ぐな廊下が続いていた。
提灯が点いたが、先がよく見えない。
ふたりは、長い廊下を歩いて行った。
三分後。
やっと半分まで来た時、ふたりの足が止まった。
「うっ…うう…ぅ…」
意味もなく血の気が引く。
「こ…これは…」
「な…泣き声…?」
「ううぅ…う…」
「ちょ…コレ進んでいいのか?ダメなのか?」
「進むしかないようでありんす」
夢幻が指す先には扉。ロック済み。
「誓眞様あんにゃろォォォ!!」
「主。ワタクシが先導いたしんす。恐縮じゃが、後ろから」
「うん」
コツコツ コツ
足音と、泣き声だけが異様に響く。
「そういえば、主」
「うん?」
「“ありあ”とは、どういった字を書くのでありんすか?」
「漢字で?」
「しかり」
「いや、私は外国で生まれ育ったから、漢字は無いよ」
「そうでありんしたか。では、意味は?」
「意味?意味は、月夜」
「月夜?」
「そ。アリアとは、滝つぼの国のエルフの方言で月明かりの夜。月夜って意味なの」
「月夜…」
ふむ、となって、夢幻はパッとアリアに向き直った。
不気味な雰囲気に不釣り合いの、明るい表情だ。
「わかりんした」
「ん?」
「ワタクシは主を、月夜様と呼ぶのでありんす!」
そう言い放つと、夢幻はさっさと歩きだした。
足の運びが、さっきよりスゴク軽い。
そんな夢幻を見て、アリアはちょっと微笑んだ。
「月夜様。扉が見えてきんした」
アリアを「月夜様」と呼び始めて、夢幻のテンションは何故か高い。
泣き声にも臆さぬ様子で、アリアの前に立って進んでいく。実に頼もしい。
そして、扉の前に着いた。
さっきの入り口より綺麗で、御札の類は一切無い。
しかし、泣き声はこの部屋、扉の中から聞こえてくる。
「では」
クリアに聞こえてしまう泣き声に、内心ビビりながら、夢幻は扉を開けた。
―――――ギィィィィ
「うっ…くっ…ぐすっ」
ついに現れた泣き声のぬし。
その正体は―――――――!?
なんてね。