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【第二話】真偽

チュンチュンチュン...


軽快にさえずる小鳥の鳴き声と共に、部屋の窓から朝日が差し込んでくる。


「ん...」

考え事をしてたらいつの間にか視界がフェードアウトして、机の上で寝落ちてしまっていた。


さて、今週分の研究資料とサンプルはフィナンド様に渡せたことだし。そろそろ次の薬の開発に取り掛からねば。


「ロスター様、おはようございます。」

後ろから聞きなじみのある落ち着いたトーンの声で挨拶される。

「いつも朝早くからありがとうな。」

「いえ、これが私に与えられている仕事ですので。感謝など要らな...恐れ多いです。」

愛想笑いで少し困ったような顔をしながら謙遜される。


フィナンド様にメイドとして雇われているアスカ・ナルミ。

彼女はどうやら"異世界人"と呼ばれる人間らしい。3年前に色々あって、目が覚めたら王宮の庭付近でうつ伏せになって倒れこんでいたんだとか。

そこで偶然フィナンド様が通りかかり、メイドとして雇う代わりに衣食住を提供してもらうという条件の元で拾われたらしい。


「...なぁ、アスカ。」

「はい。何でしょう?」

「もし治療薬が完成しないまま、私が病にかかり命を落としてしまったら...また新たに薬師が雇われるのだろうか。」


そう聞くと、彼女は一瞬動揺した顔をしてそのまま黙り込んでしまった。

この雰囲気の中で一緒の空間にいるのは気まずい。話題を変えなければ。


「変なこと聞いてしまってすまない。そんなに深く考えなくてもいいことだ。」

「いえ...お力になれず申し訳ございません。」


そうだ。今この疫病の原因を突き止め、治療薬を作れる可能性がある者は片手に収まるほどしかいない。

今私が死んでしまえば、他の薬剤師達に余計な手間をかけさせてしまう。


「ロスター様!私は、きっとロスター様なら薬を完成させて、それから...みんな疫病で苦しまなくなって、いつかこの国で平和に暮らせるようになるって、信じてます。」


「ありがとう。できる限り最善を尽くす。」

...なんて言ったものの、この王宮に勤め始めてから3年間、一度も治療薬は完成していない。


諦めてはいない。が、これだけたくさんの成分を組み合わせて配合しても正解が何一つ見つからないということが、どうも引っかかる。

「...アスカがここに来たのは3年前という認識で合っているか。」

「はい。当時、夜道を歩いていたら不思議な目の色をした黒猫を見かけて...気になって追いかけたら山奥の森まで行ってしまって。

慌てて引き返そうとしたら、進んだ先が崖だったんです。」

「引き返したのに、道がなかったのか...?」

そう聞き返すと、彼女は小さく頷いた。

「それで、崖に落ちてからはよく分からなくて...気づいたら王宮の庭にいました。」

「...なるほど?」


そこに至るまでの原理が理解できない。

得体のしれない黒猫に、引き返した先の崖。

まるで最初から彼女を崖に“誘導”するために黒猫が現れたかのような構図だ。


「それで、偶然通りかかったフィナンド様に条件付きで拾われたと。」

「はい。」

どうやら彼女が本物の異世界人というのは間違いなさそうだ。

しかし、問題はそこじゃない。

「アスカは本当にフィナンド様“専属”のメイドか?」

「えっと...気になりますか?」

「ああ。」

「実は、他の薬師様の家事全般も私が行っているんです。なので、フィナンド様が薬師様1人に対して1人ずつメイドを...と仰られているのであれば、それは違うというか...」


つまりフィナンド様は毎日幾つもの部屋に移動させて仕事するように、彼女に直接指示をしているのか?

もし仮にそうであるのならば、彼女は直属のメイドということになる。

しかし普段の働き方を見ている限り、特別仕事が早いわけでもない。

本来この王宮内で定められているメイドの1日の労働時間は朝の8時から夜の19時までだ。

それに彼女がこの部屋を出る時間は、毎日12時から13時の間のみ。

その1時間で、彼女が同時に何人もの家事を対応できるようには到底見えない。


「...様、ロスター様?」

「っ!すまない、考え事をしていた。」

「いえ、お気になさらないでください。」

引きつった表情で微笑む彼女が、まるで何かのしがらみに囚られているように見えた。

「ごめんなさい、私こういう話をするのはあまり得意じゃなくて...あ、そうだ!今日は天気も良いことですし、何かお飲み物でも用意しましょうか。」

「ありがとう、ならお言葉に甘えて。アスカ、紅茶を淹れてもらってもいいか。」

「はい!少々お待ちください。」


彼女が部屋の入り口付近に置いてあるバーカートを取りにいってる間に、先ほどの話の中で思い浮かんだ憶測を1から整理することにした。


何度考えても、この結論にしか至らない。

私の他に、この宮廷に雇われている薬師は初めから存在しない。あるいは、私以外全員

...そうであると思いたくないが、確かめる価値はありそうだ。


私に部屋を出る許可が出されるのは、毎年冬から春にかけて行われる数回の舞踏会のみ。

今は11月下旬。もうじきに舞踏会への招待状が届いてもおかしくない時期だ。


「ロスター様、紅茶を淹れてまいりました。」

バーカートを押しながら戻ってきたアスカは、淹れたての紅茶が入ったティーカップを、私の目の前にあるテーブルの上にそっと置いた。

「あと、昨日フィナンド様からロスター様宛にこちらの手紙を預かりましたので、お渡ししますね。」

「ああ、助かる。」


毎年肌寒い季節になると何度か送られてくる、金の装飾が施された1通の黒い手紙。


間違いなく、舞踏会への招待状。

いつもなら面倒くさいと思いつつ渋々受け取り出席しているのだが、今回に限ってはタイミングが良い。


この真偽を確かめるには、舞踏会の最中に隙を見計らい、王宮内にある全ての部屋を捜索するしか、方法がないからだ。


───フィナンド様が、何かしらの理由で私をこの王宮から出さないために嘘をついているのかどうかを。

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