【0章第一話】君は優秀だから。
お久しぶりです。あいなしです。
『アフターイメージ・オブ・メモリー【記憶の残像】』完結から約5か月間ほどお休みしておりましたが
最近頭の中でやっとインプットが湧いてきたので、マイペースに投稿していけたらと思います。
よろしくお願いいたします。
1826年、ルマンと呼ばれる王都では正体不明の疫病が蔓延し
感染したものは全身に黒い楔状の模様が増えていき、大量の魔力と生命力を削られ、数日もないうちに死に至る。
10年経過した今も、誰一人として疫病の原因を突き止められないまま
人々は毎日怯えながら生活をしていた。
そんな中、疫病の原因を突き止め、治療薬を開発するべく日々研究し続けている
たった一人の若者がいた。
「...はぁ、今日もダメか。」
液体が入っているバイアルを眺めながら小さくため息をつき、机に突っ伏して手の甲に顎を乗せる。
私はロスター・ハンドラ、21歳。
11歳の頃に両親を疫病で亡くした影響から魔法薬学を学び始め、15歳で魔法薬剤師国家試験に合格し、最年少ながら国王から実力を認められ
18歳の頃には、宮廷薬剤師として王宮に務めることになった。
3年経った今でも、治療薬は完成していない。
正直いつ完成するかも分からないし、完成しないまま年月だけが過ぎ、自らが疫病にかかって死んでしまう可能性だってゼロじゃない。
『何しても無駄だ』
『治療薬なんて作れるはずがない』
そんな言葉を、魔法学園の同級生や街の住民たちから幾度となく言われてきた。
それでも私は、諦めない。
...絶対に諦めてたまるものか。
両親を亡くしたとき、私だけではなく
みんな、この病のせいで家族や大切な人を失って苦しんでいるんだ。と、痛いほど痛感した。
もし、治療薬が完成したら
この国の住民達は苦しみから開放され、安心して生活ができるようになり、私のように家族を突然疫病で失うこともなくなる。
そのためなら最悪、命だってくれてやる。
「今日の調合で5200通り目...」
この3年間、ありとあらゆる手段を使って様々なものを仕入れて研究や実験をしているが
治療薬完成のために治験バイトとして雇った患者達の容態も一向に良くならないまま、死人だけが増え続けてしまっている。
壁にかかっている時計に目をやると、時刻は23時を過ぎていた。
一旦休憩しようと思い、机に突っ伏したまま首を斜めに傾けて目を瞑ろうとした。
コンコン
ドアが2回ノックされる。
「すまないね、少し入るよ。」
そう言って静かな足音を立てながらこの研究部屋に入ってきたのは、ルマンの現国王陛下であるフィナンド様だ。
私は慌てて机に突っ伏していた顔を上げ、椅子から立ち上がる。
「フィナンド様、もう夜も遅いです。本日はそろそろ休まれたほうが...」
「そういう君こそ、こんな時間まで起きて働くのは体に障るんじゃないのかな?」
「うっ...」
フィナンド様に圧のある笑顔でそう言われ、思わず引っ込んでしまう。
「さて、要件なんだけど。」
「分かってます。今、開発した治療薬の研究資料とサンプルを渡しますので、少々お待ちください。」
「いつも理解が早くて助かるよ。」
週に1度、新しい治療薬のサンプルを被験者に投与する前にフィナンド様に毎回研究資料とサンプルを渡してチェックをしてもらい、許可が降りればその薬は投与可能なモノになる。
そういう掟の元、この仕事が成り立っている。
「こちらが今週の分です。」
10枚ほどの資料と、薬のサンプルが入っている2本の小さな瓶を手渡す。
「ありがとう。じゃあ、失礼するね。僕はこのまま寝るから。君も1時間以内には寝るんだよ?過労で倒れられたら困っちゃうからさ。」
優しいのか干渉的なのか...
フィナンド様はいつも、何を考えているのか分からない。
いくら宮廷直属の薬師とはいえ、所詮私など、国王に雇われている1人の国民であることに変わりはないのに。
「君は優秀だから。特別待遇だよ。」
何の感情も入っていない、作られた笑顔がこちらに向けられる。
この王宮では毎年、3人ほどの優秀な合格者が新しく宮廷薬剤師として雇われているらしい。
最年少で魔法薬剤師国家試験に合格、なんていうのはちょっと出来のいい人材という肩書にしかならない。
私の代わりなんて、いくらでもいるだろう。
他に雇っている者に対しても、こんな風に接しているのか...?
そういえばここに雇われてからというもの、他の薬師たちと一度も面識がない。
なぜなら、階級が高い者は全員に一人ずつ個室が用意され、そこで仕事や休息をするようにフィナンド様から指示されているからだ。
個室とは言うものの、一人部屋にしては申し分ないほど広く、風呂やベッドまであるし
フィナンド様に仕えているメイド達から毎日部屋の掃除や食事の用意をしていただける。
そんないたれりつくせりの職場だが、妙に引っかかることがある。
それは、宮廷薬剤師として雇われた者は必ず他の薬師と会わないよう、各部屋が離れた位置に用意されていることだ。
なんでそんなに手間のかかることをしているのか、私には到底理解ができない。
おかげ様で、同僚はひとりもいない。毎日顔を合わせて会話できるのは1人のメイドだけだ。
でも正直、私にとってはそこまで苦ではない。
時間は無限にあるわけじゃない。
こうしてる間にも疫病は国全体に広がり続け、毎日のように死人が出ている。
こんな世界で楽しみを求める余裕なんて、10年前からとっくに無くなっているのだから。
...早く、一刻も早く
治療薬を、完成させないと。




