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第3話 影の策謀 ― 内部敵対者(インサイダー)


雉は、雲の切れ間に身を隠しながら、

獲物を狙う鷹のような鋭い視線で伝書鳩を追っていた。

羽音は小さく、迷いがない。

――訓練された鳩だ。


鳩が舞い降りたのは、

不気味な角を突き立てた鬼ヶ島でも、血生臭い前線の砦でもなかった。

桃太郎たちが「守るべきもの」だと信じて疑わなかった、

この国の都。その中枢に鎮座する、領主・九条の屋敷である。


「……領主の屋敷だと? まさか」


雉は嘴を噛み締めた。 高い塀、手入れの行き届いた静謐な庭。

戦の匂いはない。 だが、ここには「戦場よりも危うい静けさ」が満ちていた。


雉は屋根瓦に身を伏せ、気配を消して音だけを拾う。

階下には、二つの気配。

一人は、豪奢な装束に身を包み、冷徹な美貌を湛えた九条。

もう一人は、武装していないにもかかわらず、

数多の修羅場を越えた兵よりも重い殺気を放つ男

――九条の影、軍師・カラス


「……桃太郎は、死んだと?」

九条の問いに、軍師はすぐには答えなかった。


「茶屋の主人は、そう申しております。しかし――」

軍師は懐から、一枚の血に汚れた布を取り出した。

それは桃太郎が戦場で身につけていた陣羽織の端切れだった。

「血吸川は、死体も物も、都合よく姿を消す川。

死んだとも、生きているとも断じることはできません。」


九条は卓に置いた指を一回、トントンと叩いた。

その微かな音が、雉の耳には死刑判決の鐘のように響く。

「宝は?」


「川に沈んだか、あるいは……

『死んだふり』をして持ち逃げしたか。

桃太郎が死んでいれば、あれはただの金銀。

しかし生きていれば、あれは我々の首を飛ばす毒となります」


九条の目が、冷たく細められた。

「……厄介だな。あの男は、鬼を斬るだけの脳筋ではない。

見なくていいものを、見てしまう目を持っている」


九条は茶を一口含み、氷のような声で続けた。

「わかっているだろうな。

生きていれば、必ず痕跡を残す。間者を放て。

生きていれば生け捕りにし、死んでおれば遺体をここへ運べ。」


軍師は深く頭を下げた。

その影が、床の上で巨大な化け物のように伸びる。

雉は全身を震わせ、音もなくその場を離れた。

一刻も早く、大将にこの「絶望」を伝えなければならない。


そのころ、桃太郎たちは変装し、ある辺境の村に辿り着いていた。

死を偽装した以上、街道は使えない。

だが、人目を避けた隠密行が、彼らの肉体を限界まで追い詰めていた。


「大将、ふんどしの紐が見えてますぜ。

もっと『哀れな難民』を演じてもらわねぇと」

猿がからかいながら言うが、その声に元気はない。


「……あえてチラ見せなのだ。完璧すぎると逆に怪しまれる」

桃太郎はそう強がってみせたが、その胃袋は激しく悲鳴を上げていた。

「何より問題なのは、食料だ。お前ら、貴重な備蓄のきびだんご、全部食っただろ」


「仕方ないですよぉ、大将」

犬が毛並みをボロボロにしながら愚痴をこぼす。


「あの茶屋の主人、鳩を飛ばした後に俺たちを尾行してきやがった。

あのしつこい追跡を撒くために全速力で走ったんです。

燃費が悪すぎて、だんごが無きゃ今頃餓死してましたよ」


猿はひょいと近くの枯れ木に登り、あたりを見回した。

「……あ、大将。あそこに民家がありますぜ。灯りがついてる」


猿の指さす先、霧の向こうに一軒の家が見える。

しかし、桃太郎の胸に、説明のつかない「嫌な予感」が走った。


領主・九条が動いている。茶屋の主人は繋がっていた。

ならば、この孤独な民家は、飢えた自分たちを誘う『餌』ではないのか?


そのとき、犬の表情が凍りついた。

「『血』の匂いがしないか?わずかに……」


静まり返った村に、風の音だけが不気味に響く。

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