第1話 裏切りの兆し ― 行軍ルートはなぜ漏れたか
闇の中で爆ぜる焚き火の音が、やけに鼓膜を叩く。
桃太郎は、爆ぜた火の粉を目で追いながら、
静かに、しかしナイフのように鋭い声を落とした。
「……なぜ、俺たちのルートが漏れた」
全員が沈黙した。
薪が焼ける爆ぜる音だけが、犯人を指し示すかのように響く。
口火を切ったのは犬だった。
彼は愛刀を抜かず、ただ炎の明かりを頼りに目釘の緩みを点検している。
その視線は主へ向けられていない。
「大将。昼の茶屋だ。客はいなかったが、主人は奥にいた。
あの距離なら、俺たちの会話はすべて筒抜けだ」
「……だが、あの主人は人間だぞ。俺たちが鬼の略奪から救ったはずの」
言いかけて、桃太郎は言葉を失った。
「協力者」――。
救ったからといって、味方になるとは限らない。
鬼の恐怖に屈したか、あるいは、英雄よりも「鬼の金」を選んだか。
背筋に冷たい雫が伝う。 (俺たちは、誰のために戦っていた……?)
桃太郎は腰の瓢箪を煽ったが、喉を鳴らす音すら憚られる静寂に、水はただ苦く感じられた。
彼は、残り少ないきびだんごを四等分に切り分けた。
かつては家来を増やすための「報酬」だったそれは、
今や彼らを繋ぎ止めるための「全財産」に成り下がっていた。
キジが音もなく立ち上がり、夜空を仰いだ。
「大将。感傷に浸る時間はなさそうだ。
包囲される前に『出口戦略』を固める。
俺が一っ飛びして、敵の配置を洗ってくる」
キジが闇へ溶けるのと同時に、猿が泥の上に枝で図面を描き始めた。
「人間がスパイなら、偽の情報を食わせてやりましょう。
……大将、一つ、悪い顔をしてくださいよ」
猿の目が、月の光を反射して狡猾に細められた。
桃太郎は傍らの重い宝箱を見つめた。
鬼ヶ島から命懸けで持ち帰った「平和の証」であるはずのそれは、
今や自分たちを死へ追いやる呪物だった。
「……俺の死を偽装する。そして『宝は血吸川の底に沈んだ』と流布させろ」
桃太郎は冷徹に、自分という英雄の「処刑」を命じた。
だが、彼らはまだ知らなかった。
鬼たちが追ってくる真の理由は、
金でも銀でも、復讐ですらなかったことを。とを。




