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81話 雪解けの朝


 雪の女王リゼが消滅し、第一の楔が破壊されたことで、白銀の峰を覆っていた猛吹雪が止んだ。

 雲の切れ間から朝日が差し込み、氷の城をまばゆく照らし出している。


 氷のドームの中で、ザインは一人、妹が残した結晶を握りしめていた。


「……行くのか」


 背後からカノアの声がかかる。

 ザインは振り返らずに、結晶を懐にしまった。


「ああ。……ここに用はない」


 声は低いが、以前のような氷のような冷徹さは感じられない。

 どこか憑き物が落ちたような、静かな響きだった。


「ヴィオラの元へ戻るのか?」


「……今はまだ、な」


 ザインは立ち上がり、カノアたちの方を向いた。

 その瞳には、明確な意志の光が宿っている。


「リゼの声帯は、まだヴィオラ様の喉にある。……それを取り戻すまでは、私はあの魔女に従うふりをする」


「スパイごっこか。……危ない橋を渡るな」


「フン。お前たちに心配されるほど落ちぶれてはいない」


 ザインは鼻を鳴らし、歩き出した。

 すれ違いざま、彼は立ち止まり、カノアに視線を合わせた。


「……借り一つだ。この借りは、必ず返す」


 それだけ言い残し、ザインは崩れかけた氷壁の向こうへと消えていった。

 孤独な背中。

 だが、その肩にはもう、重すぎる絶望は乗っていなかった。

 妹と共に歩む、新しい道が見えているのだ。


「……行っちゃいましたね」


 ルミナが寂しげに呟く。


「いい男ね。……不器用だけど」


 ヒルダが苦笑する。


「ああ。……次は、王都で会うことになるだろうな」


 カノアは愛剣を鞘に納めた。

 第一の楔は破壊した。

 王都を覆う結界の供給源の一つを断ったことで、ヴィオラの焦りはさらに加速するはずだ。


「さて、次はどうする? カノア」


 ヒルダが問う。

 カノアは懐から地図を取り出し、広げた。

 王都を中心にして、東西南北に印がついている。

 北の雪山はクリアした。

 残るは三つ。


「次は南だ。……『灼熱の火山』」


 カノアが指差した先。

 大陸の南端に、赤く塗られた危険地帯がある。

 活火山が連なり、溶岩が流れる死の大地。


「なんで南なの? 西や東の方が近くない?」


 ルミナが首を傾げる。

 確かに、距離的には他の場所の方が近い。

 だが、カノアには理由があった。


「俺の剣だ」


 カノアは腰の剣を抜いて見せた。

 黒鉄の刀身。

 一見すると何ともないように見えるが、『心眼エイドス』で見れば、その内部には無数の亀裂が走っているのが分かる。

 グレンとの戦い、そして今回の雪の女王との戦い。

 激戦の連続で、剣は限界を迎えていた。


「もうボロボロだ。……次の戦いで折れるかもしれない」


「それは……マズいわね」


 ヒルダが顔を曇らせる。

 剣士にとって、武器の喪失は死を意味する。


「南の火山には、ドワーフの隠れ里があるって噂だ。……そこで、新しい剣を打ってもらう」


 カノアは決意を込めて言った。

 ただの剣ではない。

 進化した『心眼』の反応速度についてこられる、世界で一本だけの最強の剣を。


「ドワーフ……。伝説の鍛冶師ね。会ってくれるかしら?」


「会わせるさ。……俺たちの旅には、最高の装備が必要だからな」


 カノアは地図を畳んだ。

 目的地は決まった。

 極寒の地から、灼熱の地へ。


「行こう。……ヴィオラが次の手を打ってくる前に」


 三人は山を下り始めた。

 雪解けの水が、足元を流れていく。

 それは、凍りついていた時間が動き出した証。

 彼らの旅は、まだ終わらない。

 より過酷で、より熱い戦いが待つ南の大地へと、彼らは一歩を踏み出した。


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