18話 歯車の街の反逆者たち
ギア・ガルドの地下街は、地上以上に混沌としていた。
頭上を走る蒸気パイプからは常に白い煙が噴き出し、視界を白く濁らせている。迷路のように入り組んだ通路には、違法な改造パーツを売る露店や、怪しげな酒場がひしめき合っていた。
「……すごい熱気だな」
カノアは手で鼻を覆う仕草をした。
物理的な熱気もそうだが、それ以上にここに住む人々の「熱」が濃い。社会からはみ出した者たちが放つ、独特のバイタリティだ。
「レジスタンスを探すって言っても、当てはあるのかしら?」
ヒルダが小声で尋ねる。彼女は目立たないよう、再びボロ布を被って巨体を丸めている。
先ほどの騒ぎで、彼女は「解体屋を返り討ちにしたヤバイ鎧」として噂になっている。身を隠すに越したことはない。
「まあね。こういう場所には『顔役』がいるもんさ」
カノアは迷うことなく、一軒の古びたバーの扉を開けた。
看板には『錆びた歯車亭』とある。
店内は紫煙とアルコールの匂いが充満していた。カウンターには、片目が義眼の老人が一人、グラスを磨いている。
「いらっしゃい。……見ない顔だな」
老人がギロリとカノアたちを睨む。
その視線は鋭く、ただのバーテンダーではないことを雄弁に物語っていた。
「ああ、旅人さ。……ちょっと『深い話』ができる相手を探しててね」
カノアはカウンターに金貨を一枚置いた。
だが、老人はそれに見向きもしない。
「うちは酒を出す店だ。情報は売ってねぇよ」
「そう言わずにさ。……俺たち、上でちっとばかし派手にやらかしちまってね。解体屋連中を蹴散らしたせいで、居場所がないんだ」
カノアがニヤリと笑う。
老人の義眼が、ウィーンと音を立てて焦点を合わせた。
カノアの目隠し、ルミナの仮面、そして後ろに控える巨体のヒルダ。
「……お前らか。解体屋三十人を病院送りにしたっていう、イカれた三人組は」
「人聞き悪いな。正当防衛だよ」
「フン、解体屋を半殺しにするような奴は、この街じゃ英雄扱いだ。……こっちに来な」
老人は顎で店の奥をしゃくった。
カウンターの裏、酒樽が並ぶ倉庫の奥に、隠し扉があったのだ。
◇
通された先は、広大な地下空洞だった。
そこには、武装した男たちが数十人、忙しなく動き回っていた。
彼らは皆、何らかの機械義肢を装着しており、その目はギラギラと輝いている。
ここが、レジスタンスのアジトだ。
「ようこそ、ドブネズミの巣へ」
部屋の中央、古びたソファに座っていた男が声をかけてきた。
年齢は三十代半ば。整えられた髭と、片腕が巨大な機械腕になっているのが特徴的な男だ。
彼から漂う魔力の色は、深い群青色。冷静さと、底知れない激情を秘めた色だ。
「俺はガルフ。ここの頭をやってる」
「カノアだ。こっちは連れのルミナとヒルダ」
カノアが短く名乗る。
ガルフは興味深そうにヒルダを見た。
「ほう……。そのデカブツが噂の鎧か。よくできたゴーレムだな」
「……失礼ね。これでも淑女よ」
ヒルダが不機嫌そうに答える。
ガルフはフッと笑い、タバコに火をつけた。
「で? 解体屋殺し(クラッシャー)の御一行様が何の用だ。匿ってほしいってなら、相応の対価を貰うぞ」
「対価ならある。……『共通の敵』だ」
カノアの言葉に、ガルフの目が細められた。
「俺たちの目的は、魔女ヴィオラをぶっ飛ばすことだ。……そっちの目的も、似たようなもんじゃないのか?」
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
周囲の男たちが一斉に武器に手をかける。ヴィオラの名は、この国では禁句に近い。だが、ガルフだけは表情を変えずに煙を吐き出した。
「……面白いことを言うガキだ。目は見えねぇが、この街の『裏』を嗅ぎつけたか」
ガルフは立ち上がり、機械腕を掲げた。
「俺たちは、ヴィオラが裏で操る現政権に全てを奪われた者たちの集まりだ。この腕も、奴らの非人道的な実験で失った」
「なら、利害は一致してるじゃん。手を組まないか?」
「ああ。だが……信用できるかは別だ」
ガガガッ!
ガルフの機械腕が変形し、巨大な回転ノコギリが現れた。
唸りを上げる凶器を、カノアの鼻先に突きつける。
「ヴィオラの名を出せば俺たちが食いつくと踏んだか? スパイかもしれない奴を、ホイホイと招き入れるほど甘かぁねぇんだよ」
「まあ、ごもっともで」
カノアは一歩も引かず、むしろ楽しげに笑みを深めた。
「口だけなら誰でも言える。……その覚悟と実力、少し試させてもらうぜ?」
いきなりの戦闘態勢。
ルミナが息を呑むが、カノアは愛剣の柄に手をかけた。
「いいぜ。……テスト合格したら、王女様の情報もセットで貰うけどいいかな?」
「ハッ、勝てたらな!」




