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雪に抱かれて花と咲く  作者: 寄賀あける
第一草 アネモネ   儚い恋・恋の苦しみ・希望 【皮膚炎、水泡、化膿】

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2/22

 このところ、街人の間で流行している(やまい)がある。


 突然の高熱、翌日には皮膚炎が起こり、表皮が(うろこ)状に変わっていく。それが()がれ落ちるとき、ともに(いのち)が剥がれるかのように衰弱し、死に至る。


 癒術魔導士が躍起になって原因を探すが判らない。治癒術を使ってもその場(しの)ぎに過ぎず、僅かに延命できるだけだった。


 流行は南の魔女の陣地より始まった。いち早く病の存在に気が付いた南の魔導士により、他の陣地への拡大を防ぐことに成功したのは評価できるが、根本的な解決に至っていない。


 南の魔導士ギルドの長ビルセゼルトは自ら現地に足を運び、病人の治癒にあたるほか、癒術博士や魔導薬草学博士に協力を要請し、根本解決を模索した。


 その結果、(やまい)が魔導術に由来するものであることは判った。


「まぁ、予測はついていた。我ら魔導士に感染者がいない。保護術で回避できるという事だ」

アウトレネルがワイングラスを眺めながら言う。魔導士は自らに保護術を掛ける事を日常としている。

「だからと言って、すべての街人に保護術を掛けて回るというのは現実的じゃあない」


「とりあえず、魔導士が常駐している街では、街人に保護術を掛けろと指令を出すしかない。子どもから掛けていけ、なるべく強力なものを、とね」

「子どもからか、おまえらしい」

アウトレネルがクスリと笑う。おまえと呼ばれた男が

「子どもがいなくなれば、未来も消える。子どもを守るのは大人の義務だ」

と面白くなさそうに呟く。


「かと言って、完治させられない今、大人がいなくなるのも困る」

「判っているとも。子どもだけでは生き延びられない。だが現状の人手不足、簡単な保護術では意味をなさず、有効な術を使える者は数名だ。しかもそれとてそう長く持たない」


 うむ、とアウトレネルが(うな)る。


「そうだ、ビリー、どうやって南の陣地の中に病を封じ込めたんだ?」

おまえと呼ばれた男はビリー、南ギルドの長ビルセゼルト。


 場所は南の陣地内グラリアンバゼルートの南、センスアルティム郊外、今回の遠征のためギルドが借り上げたホテルの一室、ギルド長の執務室であり、宿舎を兼ねていた。


「陣地の結界を最高度の物にしている。南の魔女の権限で大地と風に命じ、病を逃すことを禁じた。さらにそこにわたしが、(やまい)不侵入を掛けている」

「なるほど……」


「いっそ、(やまい)の元をわたしが引き受けるか……」

ビルセゼルトの言葉にアウトレネルが顔色を変える。


「馬鹿を言うな。流石のおまえも、すべての患者を引き受けきれない」

「だろうなぁ」

と、これにはビルセゼルトも苦笑する。


「いくら病耐性、毒耐性を備えていても、せいぜい街人十人分がやっとだ。下手をすれば自分に掛けた保護術が無効になる。魔導士患者一号だな」

ビルセゼルトが本気で考えているわけではないと、アウトレネルが安堵する。


「ビリー、おまえは勤勉実直と言われているくせに、時どき、びっくりするほど大胆なことをする。特に施術については予想できない」

アウトレネルがそう言うと、ビルセゼルトは『何のこと?』とでも言いたそうな顔をした。


「まぁ、そんなところもおまえの魅力なのだろうけれど……近くにいる俺たちは、そのたび冷や汗をかく。間違ってもジョゼを泣かせるようなことはするなよ」

ジョゼとはビルセゼルトの妻、南の統括魔女ジョゼシラを指す。


 その頃、魔導界は南北に分割され、それぞれ南ギルド、北ギルドと呼ばれていた。一年ほど前に起きた九日間戦争が原因だ。


 戦争前には始祖の王ゴルヴセゼルトが(いにしえ)に統一したギルドが延々と続き、東西南北の統括魔女を魔導士ギルドが選定し、それぞれの魔女が己の陣地を守っていた。多少の揉め事はあったとしても、魔導士ギルドも魔女ギルドも、平和な時を過ごしていた。


 それが、星見魔導士が『()(げん)王』の出現を予測し、時代が大きく揺れる。


 北の魔女は示顕王を、災厄を(もたら)すものとし、当時の西の魔女の夫サリオネルトを示顕王と断定した。そしてサリオネルトの死罪、西の魔女の胎内にいた子の引き渡しをギルドに求める。


 ギルドは、示顕王は災厄を鎮める者とし、更に、示顕王の出現までは誰が示顕王か不明と判断した。当然、サリオネルトの処刑も子の引き渡しも認めなかった。


 北の魔女は、ギルドの決定を不服とし、宣戦布告する。


 その結果、戦火の中、生まれた子は、一度は南の魔女の居城に保護されたが、その後、行方不明となる。


 そしてサリオネルトとその妻は西の城と運命を共にし落城の中、命を落とした。一説には妻の死は出産によるものとも言われる。


 サリオネルトの死と嬰児(みどりご)の所在不明により、終戦を見ることになるが、北の魔女は独自にギルドを立ち上げ、それに伴い西の陣地の併合を求めた。


 当時のギルドはそれを認め、魔導士ギルド、魔女ギルド、ともに南北二つに分割された。統括魔女は、南と東が南ギルド、北と西が北ギルドの権限の(もと)に置かれ、それぞれの陣地の統治権をそれぞれのギルドが有した。のちに魔導史で『灰色の記憶』と呼ばれる時期である。


「それよりレーネ、サラが()(ごも)ったと聞いたぞ」

ビルセゼルトがアウトレネルに微笑む。が、当のアウトレネルは浮かない顔だ。


「妻はもともと体が弱い。俺が、ギルドに行かず、街住みになったのは妻のためだ」

「よくないのか?」

「癒術魔導士は出産に()えられないだろうといい、サラはどうしても生むという。癒術魔導士も俺も、サラを説得できなかった」


「そうか……ジョゼが生まれるときも、ジョゼの母親に出産は無理だと癒術魔導士が言ったそうだ」

「ソラテシラさまが出産に堪えられない?」

「ダガンネジブもレーネのように迷ったそうだよ。まぁ、ソラテシラの場合は年齢的なものだったそうだが」

「でも、ジョゼは生まれ、今も元気。ソラテシラさまも、とんでもなく元気」

アウトレネルの言葉にビルセゼルトが吹き出す。


「そうだね、ソラテシラはいまだに毎晩ダガンネジブを困らせるそうだ。いい加減お(やく)()(めん)にしてもらいたいと、顔を合わせるとダグはわたしに愚痴(ぐち)る」

「相変わらず仲が良い事で」

今度はアウトレネルも笑いだした。


「冬には生まれる。たぶん息子だ」

そう語るアウトレネルの顔は嬉しそうだった。

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