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雪に抱かれて花と咲く  作者: 寄賀あける
第二草 ジキタリス  隠されぬ愛・不誠実    【眩暈、不整脈、頭痛】

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 悔しい。悔しくてたまらない……西の統括魔女ドウカルネスは、物思いに(ふけ)りながら親指の爪を()んでいた。


 伯母ゾヒルデナスの願いを(かな)えるため、北の魔女ジャグジニアに取り入り、その寵愛を手に入れた。ジャグジニアのドウカルネスに向ける信頼は今も揺るぎない。忌々しいホヴァセンシルの目を盗み、しばしば連絡を取り合っている。


 そもそも、ゾヒルデナスの願いは常軌を逸している。そんなことは判っていた。それでも、ドウカルネスは尊敬する伯母の願いを聞き入れないわけにはいかなかった。


 魔女としてわたしは大したことがない。そのわたしに伯母は、力の移譲をしてまで願ったのだ。


 (とし)を取っていたとは言え、前北の魔女、その力を譲るから、その力を(もっ)て年寄りの願いを叶えて欲しい……そう言われて、無茶だと判っていながら()()引き受けてしまった。


 罪人として追われているスナファルデを北の魔女の居城に隠した。後任の北の魔女ジャグジニアは懐柔したが、夫のホヴァセンシルには手が出せなかった――伯母ゾヒルデナスはそう言った。


 スナファルデはわたしが唯一、心から愛した人。ギルドに引き裂かれ、添うことはできなかったけれど、いつも心の中にいた。そして、それはあの人も同じ……


 だからこそ、ギルドに逆らい、恋を貫こうとしたサリオネルトを、スナファルデは許せなかった。身柄を抑え、『諦める』と言わせるつもりだったものが、(がん)として従わないサリオネルトを見ているうちに、スナファルデはサリオネルトの中に、自分の本心を見てしまった。


 若かったあの日、本音ではサリオネルトのように、なんとしてでもギルドに逆らいたかった。でも、できなかった。自分はこの若者ほど強くなかった。


 許せない、この若者を認めれば、自分の弱さを認めることになる。ゾヒルデナスへ向ける愛までを否定することになる。


 スナファルデがサリオネルトに殺意を持ったのはこの時だった。その殺意はスナファルデを暴走させ、ギルドの裁量を経ず、サリオネルトに消失術を使った。


 これまで生きてきた道を、こんな若造に否定させるものか――スナファルデはサリオネルトの存在そのものを消したかったのだ。


 当時、サリオネルトはまだ学生で、サリオネルトの双子の兄ビルセゼルトと学友ホヴァセンシルは、サリオネルトを救うべく学生を決起させた。そしてスナファルデの企てがギルドに知られる。


 サリオネルトは消失術が成就する前に奪還され、スナファルデは追われることとなる。捕まれば、今度は自分が消されかねない。


 窮地に立たされたスナファルデはゾヒルデナスを頼るしかなかった。


 ゾヒルデナスのもとに逃げ込んだスナファルデは語っている。


 どうしてあの時、愛しい女を自分から取り上げようとするギルドに逆らわなかったのか。命を懸けても惜しくない恋だった。本当はあの若者のように、添えなければ死をも覚悟すると、心のどこかで思っていたのに……結局、ギルドに従い、ギルドを見返えそうと努力を重ねてギルド長に昇り詰めた。権力を手に入れたが、女の心を取り戻すことは叶わなかった。今でも愛していると、告げる勇気が持てなかった。


 だが、まだチャンスはある。生きている限り、わたしとおまえを認めなかったギルドを見返すことができる。ギルド長のわたしに逆らったサリオネルトに、思い知らせることもできる。


 ゾヒルデナス、二人でチャンスを待とう。二人でギルドを潰してしまおう。二人の愛を認めなかったギルドを見返してやろう。その時が来るまでゾヒルデナスよ、愛しい人よ、わたしをこの城に匿ってくれ……


 その言葉はゾヒルデナスを大きく揺さぶった。けれどゾヒルデナスはスナファルデに従うことはできなかった。


 愛しいのはわたしも同じ。けれど、魔女の誇りがあなたを許すなと言う。


 サリオネルトが面白くないのはゾヒルデナスとて、スナファルデと同じだった。ギルドに逆らうなど前代未聞。けれどあの若者はやってのけた。それほどの想いと覚悟があの若者にはあったということ。


 スナファルデ、わたしたちにはそれがなかった。責めるべきはサリオネルトではなく、昔、別れを()んだわたしたち。


 ゾヒルデナスはスナファルデを北の魔女の城の地下牢に閉じ込めた。


 スナファルデがゾヒルデナスを頼ったのは、ゾヒルデナスがすでに北の魔女を引退するとギルドに通達した後だった。北の魔女の城をゾヒルデナスは近々去ることとなる。その時、スナファルデをどうしたらいい? スナファルデを連れて屋移りする? それは無理だ。


 そこでゾヒルデナスは新北の魔女ジャグジニアを懐柔し、スナファルデの監視を託す。


『北の統括魔女ジャグジニアよ。あなたを見込んで頼むのです』


 ゾヒルデナスの言葉は、魔女として自信が持てずにいたジャグジニアの耳に甘く響き、夫ホヴァセンシルにも決して知らせないと、ジャグジニアに誓わせる。


 しかし、ゾヒルデナスはそれだけでは不安だった。だから姪のドウカルネスを呼び寄せ、ジャグジニアへの手助けと、ホヴァセンシルへの警戒、そしてスナファルデの監視を頼む。


「本来ならば罪人を(かくま)うなど考えもしない。けれど、やはり今でもあの人はわたしにとっては特別な人。ギルドに引き渡すなんてできない。それなのに逃がすこともできない」

伯母の、苦しい胸の内を聞かされたドウカルネスは、協力を約束する。


 そして、ゾヒルデナスは持てる力をすべてドウカルネスに移譲し、その結果、命を落とす。判ってそうしたことだった。ゾヒルデナスの死は、いわば自決だった。


 強い力を持った魔女、魔導士の死は波動を起こし、高位魔導士にはすぐに伝わる。だが、ドウカルネスに力を移譲したゾヒルデナスは強力な魔女ではなくなり、波動を起こすこともなかった。


 知らせない限り、ゾヒルデナスの死がギルドに知られることもなく、ドウカルネスが北の魔女ジャグジニアに近づく時間を稼いでくれた。


 ゾヒルデナスに委託されていると聞いたジャグジニアは、ドウカルネスをすぐに受け入れ、北の魔女の城でドウカルネスは権力を手に入れていく。北の城ではジャグジニアしか知らなかったスナファルデの存在をドウカルネスに知らせ、自由に会う事も許した。


 スナファルデはジャグジニアともども、ドウカルネスにも心理攻撃を仕掛けている。ジャグジニアには心の弱さに付け込んだ攻撃、そしてドウカルネスへは情に訴えた。尊敬する、そしてすでに世を去ったゾヒルデナスへの同情をもとに、ドウカルネスを自分の駒にした。


 そして――九日間戦争勃発へと誘導していく。


 スナファルデの企みは成功し、九日間戦争で憎きサリオネルトとその妻を死に追いやり、ギルドは分割された。けれどもホヴァセンシルの排除には失敗し、逆に北の魔女の城の地下牢に再度、スナファルデは囚われの身となった。


 その点について、ドウカルネスに不満はない。それこそ、ゾヒルデナスに依頼されたことでもある。


 九日間戦争の終戦で、南北に分割された一つ、北の魔導士ギルドの長にホヴァセンシルが座り、北の魔女ギルドの長はジャグジニアが勤める事となる。ドウカルネスは北ギルドの管轄となった西の魔女を任じられた。


 ホヴァセンシルは当初、力不足を理由にドウカルネスが西の魔女になる事を認めなかった。他に誰がいる、と言うジャグジニアに、ホヴァセンシルは渋々ドウカルネスを西の魔女とすることを承知したのだった。


 ドウカルネスにも判っていた。いくら伯母ゾヒルデナスに力を移譲されているとはいえ、自分は統括魔女になれるほどの魔女ではない、と。けれど、なんとか役に立ちたい、と、認められたいと、努力した。


 ホヴァセンシルに『(いのち)を奪ってはいけない』と(めい)じられていたにも関わらず、何人かを死なせたのも確かなことだ。でも、そうしなければ任務を遂行できなかったからだ。


 わたしを責めるのはお(かど)(ちが)い、そんな命令を下したホヴァセンシルにこそ非がある。


 今度のことにしてもそう。ジャグジニアは、『なんてことをした』と顔色を変えたけれど、九日間戦争が終わってから、何一つ南ギルドに報復していない。この辺りで少しは北の実力を見せつける必要があるはずだ。


 わたしは北ギルドのためを思って行動した。


 なのにジャグジニアはそれを認めず、ホヴァセンシルに知られたら大変なことになると、ドウカルネスに『自分がしたことを誰にも言うな』と口止めした。疫病を市井にばら撒くなど、やっていいことではない、とドウカルネスを責めた。


「悔しい……どうして認められない?」

ドウカルネスの親指の爪はボロボロになっていた。

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