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神、神となす

あの苦い日から数日。僕は、自分の何が悪ったのか、反省をしていた。

僕は、これまで、この容姿を当たり前だと思っていた。

僕のこの容姿は、神だ。神は、美しくできている。


そういう容姿に恵まれるかどうかで、人間って、しょっぱい思いをするのかも。

だから、彼女の言葉の意味を、ひとりで解き明かそうと思った。

でも…何となくしか、分からない。容姿が良くないと、なにが困ったことがある…?


結局、分からないまま。

だけど、僕のこの燻る気持ちは、彼女をこのままにしてはいけないといっていた。

それは…僕のせいだから。僕が、彼女に嫌な想いをさせてしまった。

そのことは、分かっていた。


だから、僕は、彼女のその魂のにおいを辿った。

もう、変態だろうがしるものか。

彼女の魂は、それはもう、「良い香り」がしたから。

僕の神通力を使えば、辿れてしまう。


「はぁ…」


いた。

彼女は、自分の暮らしている賃貸だろう。そのベランダでため息を吐いていた。

このため息の理由は、きっと僕なんだろうけれど…それすら嬉しく思えてしまう僕は、だから

彼女に「無理」って言われてしまうのだろう。


ふわり


『やぁ。燈くん』

「…!?」


あぁ、驚いた顔も可愛いな。


『僕、アラバ。この間は…ごめんね』

「アラ…この間の…なに、今の…ふわって、飛んでた?」

『そうさ。僕、君に言わなきゃ』


ここで、僕が神だなんて言ったら、彼女はもう日常には戻れない。

でも、言わなきゃ。彼女には、真摯に言わなきゃ、通じない気がした。


『あのね。僕、君を傷つけたくはなかったんだよ』

「いや…それより…」

『いいの。僕は、神なんだ。君の、神さま』


「…はぁ」


やっぱり、彼女は怪訝そうな顔で、僕を見た。

でも、今度は、何故か胸のつっかえが少し、薄れた気がしていた。


「見た目は…随分違うね。飛んだり、姿を変えたり…漫画の見すぎかな。私、本当にあなたが神のような気がしてきましたよ…」

『だって、本当だもん。言ったでしょ。僕は神だ、って』

「じゃあ…なんでその神が私に話しかけたの…じゃない。話しかけたんですか?」

『今の!敬語、とって。素のままの、君の言葉が欲しい』

「お、おぉう…なんか…えーっと」


僕の押せ押せに、たじたじの彼女。

でも、こんなやり取りさえ、僕には嬉しいもので。

数日前まで、こんな気持ちになるなんて思わなかった。


『僕、ずっと、僕だけの女神さまを…探していたんだ。それが…君だよ』

「待った。それはない」

『えぇ…』


今度は、僕が面食らってしまった。


「私の容姿をご覧になったでしょ?いかにもイケていない、いっそぶちゃいくな私を」

『見たとも。それが?』

「それが…?結構大きい問題なんだけれど」

『君は、気が付いていないんだ。君の魂が、どれだけ、美しいか』

「そ、れは…魂を磨くような生き方なんて…」

『今してなくても!君は…美しいんだ。とっても。とっても』


彼女は押し黙って考え込んでしまった。

どうにも、「美醜」というものは、彼女にとって根深い問題のようだ。


だったら…。


『君は、自分を醜いと思ってる?』

「思って、る…」

『その心も?』

「い、いいえ…心は、綺麗でありたいと、思って…る」

『僕は、君の心。魂を見てるんだ。神だから』


「…それで?何が変わるのよ。現実は、変わらない」


『変わるさ…!』


僕は、堪らず彼女の手を取った。

一生懸命、彼女に、僕の心が届けばいいと思った。


彼女の心には、どうやら呪縛が掛けられているらしい。

だったら、もう…ね。


『君は、この世界に未練はある?』

「え、えぇ…?特にないけど強いていうなら…『よし。伝わった!”恋人ほしかった”』だね!

願ったり叶ったりだ!』


僕は、ありったけの神通力を込めて、彼女の身体を抱え上げた。

風がぶわりと待って、僕たちの身体を包み込み、その身をばらけさせてしまうほど、渦を巻いた。


『じゃあ、君——これからは僕の”燈”だ…!神の世へ、ようこそ!』

「えっ?えっ…!?」


光と波とが混ざって、ここ一部分だけ、宇宙そのものが切り取られたようになった。

宇宙の切れ端は、僕たちを包み込み、半透明になり、収束していった。


あとに残ったのは…。彼女の履いていたスリッパが片方だけだったそうな――。




神隠し。あぁ、やってしまったね。神。

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