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神、うそぶく

僕は、駄目な奴だ…なんて落ち込んでいる暇はない。

そんな事している暇があったら、このように、さっさと手足を動かして、

彼女を追いかけている。そう、今、彼女を追って、一生懸命走っている。


無駄に今日は人通りが多いから、彼女が何処に行ったのかは、肉眼じゃあわからない。

でも、僕は神だ。


神通力を使って、彼女の魂の「光」の道を辿って、なんとか追いつこうとしている。

もうそれ、ストーカーじゃない、っていうツッコミは受け付けない。


恋の前には、細かい事なんて、どうでもいいのだ。


『あ、いた…!』


遠くに公園が見える。彼女は、そこのベンチに腰掛けて休憩中のようだ。

噴水を綺麗だなぁという目で見てる…そういう君の方が、綺麗だよ!


僕は、心の中で彼女にそう怒鳴りながら、彼女に近づいていった。

今度こそ、僕を視認してもらわなきゃ。なんて言えばいいのかは…判らないけれど。


『はぁ…はぁ…もしもし?お嬢さん、君、君だよ。逃げないでくれるかい?』

「は、はぁ…?」


どうしよう、心折れそう。

如何にも怪訝な顔でみてくるんだもん!

どう見ても、不審者を見る目のそれだ。

僕は、どうしたら良いのかわからないまま続けてしまった。


『え、っと…その…僕、君と話しがしたいんだ』

「ひえっ…」

『あ、そのっ…!違う違う。ほら…ハンカチ、おとしたから』


もちろん、嘘だ。

彼女のカバンからハンカチを魔法で転移させて、手の内に握り込む。

神は嘘つかない?それこそ、嘘さ。

この世界の神話や真理は、嘘ばっかりだもの!


「…あ。本当だ、ありがとうございます。とんだ失礼を…ごめんなさい」

『へへ…いいんだ。良かった。誤解が晴れて』


やっと、彼女の顔から「猜疑心」が少し抜けた。

彼女の心を覗いて見ると、彼女は「自分を恥ずかしい」と感じているようだった。

そんな清い所も素敵…なんて思いながら、僕は続ける。


『僕、「アラバ」。なんだか、君になら、名前を教えても良いかなって…変かな』

「え、あ、そうですか。変…とは思います。でも、ありがとう」


あ、また猜疑心が頭をもたげてきた。

どれどれ…?これは、ナンパの可能性には気が付いているな。

でも…その狙いが…「詐欺!?」いや、心外なんだけれど!?

更に、彼女のこころの声を聞いてみる。

”どうしよ…絶対詐欺だよ…私に話しかける理由がない”


だって。

…彼女、ごめん。言って良い?

可愛い…!自分の事、気が付いてない!

自分の魂がどんなに美しいか気が付いてないよ!

だからかな?肉体の事しか、彼女は見えていないんだ!


でも、そうするとどうしようか…。

僕は、この「城壁」をどう看破しようかと、色々、考えてみた。


慎重に行くべきか…それとも、いっそお笑いを取るか。

僕は、もう、恥を捨てた。


『そのキャラクター好きな人が、身近にいないんだ!同士として、友達になって!』

「…」


沈黙が痛い。彼女は、ぐるぐる考えている。

このハンカチに書いてあるのは、キャラクターモチーフの紋だ。

鳥を擬人化したゲームの…たしか、鵙のやつ。


それだ…!


この攻め口でいく…!


「えっと…そ、そういう事かぁ…。じゃ、じゃあ、ちょっとなら」

『本当!?』

「え、えぇ。まぁ。実は私も同じ境遇でして…」

『やったぁ!ありがとう!』


うまくいった…!

どうやら、でも、彼女、オタクって感じしないんだけど、不思議。

その辺も、まぁ聞いてみようかな。

ここまでこぎつければ、結構、よくない…?


どうしよう、僕…今、すごく幸せ…。



こうして、やっとこ、彼女との会話までこぎつけた神であった。

良かったね、神…。

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