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太陽の勇者、満月の騎士、そして天秤の守護者  作者: 星を数える
第2章 出会い
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24. 新たなパーティー〖第一部、完〗

 その晩も、昨夜と同じように一室を借り切っての晩餐が開かれた。

 鎧姿のまま出席したクラレンスは少し緊張した面持ちで、ラリサとシャルの間に座っていた。


 やがてクラレンスが鎧を外すと、4人の男の目が期待と好奇心に輝いた。クラレンスの緊張に気づいたラリサが、だいじょうぶよと言わんばかりに微笑み、そっとガントレットに手を添えた。その手のぬくもりに、クラレンスは心を落ち着け、覚悟を決めた。


 鎧が内在化されてクラレンスの姿が現れると、じっと見つめていた4人の表情が微妙に揺れた。

「ん? あの時の、あの肉……」

 カイエンが目を丸くして、クラレンスに気づいた。


「うん、あのときの私。あの肉もありがとう。うちの家系は成長がちょっと遅くて、年のわりに子どもっぽく見えるの」


 クラレンスは少し照れくさそうに笑ったが、アレンはまったく気にする様子もなく、むしろ嬉しそうに受け止めた。

「なるほど。それであのとき、食事に誘う気になったんだ。やはり、縁というものだな」


「それでか、この前、湯場で俺たちの顔見て、慌てて鎧着て出てったの。そんなこと、気にするなって」

 カイエンはにこにこと笑い、クラレンスを励ました。

「毎日まじめに鍛錬しているじゃないか。そのうちきっと立派な男になるさ」


 クラレンスの表情が微妙に曇った。それに気づいたラリサが代わりに口を開いた。

「あの、実はクラレンス、女の子なの」


 聞き間違いかと思ったのか、四人の男は一瞬きょとんとした顔になった。


 クラレンスはぎこちなく付け加えた。

「ラリサの言う通り。鎧を狙って面倒ごとになるのが嫌で、男のふりをしていたの。でも、結局こんなことになっちゃったけど」


 湯場で自分たちが裸のままクラレンスの前をうろついていたことを思い出した2人は、言葉を失った。

 セイドがアレンを見て、からかうように言った。

「ふーむ、となると……裸勝負は無理そうだな?」


「は、裸……勝負?」

 クラレンスがきょとんとして聞き返すと、アレンはあわてて咳払いをした。

「なんでもない」


「はは、アレンにもああいう顔をするときがあるんだな」

 セイドは面白がるように笑った。


 表情を整えたアレンは話題を変え、クラレンスに問いかけた。

「鎧を着たままで生活するのは、不便じゃないのか?」


「慣れたから、まあなんとか。こんなこともあったし……今の姿を見せたら、悪いやつらが甘く見て、絡んでくるかもしれないでしょ」


 最初は脱ぎたくても脱げなかった。今では安全のためでもある。本音を言えば、自分の姿でいられるほうが楽だが、それで危険が増すのは避けたいところだった。


 アレンは真剣な眼差しで、はっきりと断言した。

「もう、そんな心配はいらない。俺がついている。俺の友を狙う者は、すなわち俺の敵だ。

 クラレンス、君には自由に過ごしてほしい」


 その低くて力強い声には、確かな重みがあった。クラレンスはしばし考え込んだ後、ゆっくりとうなずいた。いつまでも正体を隠しているわけにもいかないし、そうするつもりもない。今こそ、自分をさらけ出す時なのかもしれない。


「ありがとう。そうするよ」

 決意を固めたそのとき、カイエンがクラレンスに声をかけた。

「俺たちは馬で移動しているから、一緒に行くなら馬がもう一頭要るな。馬に乗るの、平気か?」


「うん、家にも馬はいる。シャルは聖騎士だし、当然乗れるよね。ラリサは……」

「私も大丈夫。お父様とよく乗ってたから」


 ラリサの答えを聞いて、アレンが満足そうにうなずいた。

「それなら問題ない。数日中に人をやって、馬を持ってこさせる。馬が揃ったら、本格的に冒険を始めよう」


「でも、馬って高いでしょ……」

 クラレンスが遠慮がちに言うと、アレンはあっさりと返した。

「俺たちに合わせてもらうのだから、気にしなくていい」


 クラレンスとしても馬に乗る方が楽だった。家でも時々乗っていたし、好きでもあった。


 そのとき、鎧がひそかにクラレンスに注意を促した。

 ― 馬に乗るのは構わんが、常に気を抜くなよ。尻に力を入れるのを忘れるな。さもなくば、すぐ馬の腰を痛めることになる。


(それしか軽くする方法ないの? 不便すぎるんだけど)

 ― まったくないわけじゃないがな。


(なに? どうすればいいの?)

 ― 他者に一時的に重さを移す方法がある。たとえば「天秤の守護者」とか。


(なにそれ、ラリサに重さを押しつけろって? ぜんっぜん根本的な解決になってないんだけど!)

 クラレンスが抗議するも、鎧はしらばっくれた。


 ― なら、尻に力を入れることだ。健康にもいいぞ。

(そんな詭弁があるかっ!)


 ― 本当だぞ。健康に役立つ。

(……歴代の先祖も、馬に乗るときは皆そうしてたの?)


 ― まあ、基本的にはな。

 クラレンスは呆れて、それ以上突っ込む気にもなれなかった。口の悪い鎧に小言を食らうだけでもうんざりなのに、馬に乗るたびに尻に力を入れて、体重のかけ方に気をつけろとは。


(まさか、〈黄金の騎士〉にこんなペナルティがあるなんて……誰も思ってないよね?)

 少しばかり理不尽な気すらしてきた。


 そんな中、ハミツがクラレンスたちに向かって言った。

「一つ、あらかじめ了承をお願いしたいことがある。我々には護衛の事情もあって、宿や食事をある程度選ばざるを得ない。だから、安全都市での宿と食事はこちらで手配する。それについては心配せず、任せてもらえると助かる」


 アレンたち4人の周囲に、それなりの付き人が常に付き従っていることは、クラレンスたちもすでに察していた。反対する理由はないので、素直にそうすることにした。


(今後も、こんな高級宿に気兼ねなく泊まれるなんて……しかも滞在費の心配なし。最高〜!)

 ラリサは、ぴしっと糊のきいた自分の神官服の裾をそっと撫でながら、内心ほくそ笑んでいた。


 清潔で美しい部屋、ふかふかの寝具に美味しい食事―それだけでなく、この宿では洗濯も掃除も、あらゆる雑務を全て使用人が代わってくれる上に、服まできっちりアイロンがけして届けてくれる。

 ラリサにとっては、人生初の贅沢だった。


 そんな彼女の後ろで、天秤が渋い顔をして突然彼女の後頭部を叩いた。

 = 節制と禁欲を実践すべき聖職者が、誰よりも早く快適な生活に毒されてどうする! ったくもう〜!


 ラリサは、後頭部にじんわり残るしびれと、耳元で微かに聞こえたため息に首をかしげながら、意味深な表情を浮かべた。


 その様子を見ていたハミツは、不思議そうに首を傾げた。

(最初に会った時は、肝が据わっていて計算の速いお嬢さんって印象だったのだが……今の雰囲気は違うな。深い内省、あるいは苦悩でもしているような)


 そう思ったところで、ハミツはふと眉をひそめた。

(……なんだ? 妙に癇に障る誰かを思い出してしまった……)


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