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太陽の勇者、満月の騎士、そして天秤の守護者  作者: 星を数える
第2章 出会い
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23. 決意

 その後、別室に集まった4人の男の間には、やや重苦しい空気が漂っていた。


「数日間、朝の鍛錬も一緒にして、それなりに打ち解けたと思っていたのだが……俺の何が至らなかったのだろうか」

 アレンは思案顔で部屋の中を行ったり来たりしながら、ぽつりと呟いた。


 その様子を見ていたカイエンの表情も、自然と真剣なものに変わっていく。

(レオンの口からそんな言葉が出るなんて……本気なんだな)


 セイドが口を開いた。

「慎重になっているのだろう。太陽の勇者の性格からして、一度仲間と認めた相手とは、最後まで共に歩もうとするはずだ。即答を避けたってことは、完全なる拒否ではない。もし本当にだめだと思っていたら、その場で断っていただろう」


「それはつまり、俺のどこかが信頼に足るとまでは至っていない、ということではないのか?」

 そう言うアレンに、セイドは意味ありげな笑みを浮かべた。

「実際、あんたは〈危うい男〉だしな。そこまで彼を望む理由は? 伝説の再来だからか?」


 アレンはそっと首を横に振った。

「伝説以上に価値のあるもの、彼が真実の心と名誉を持った人物だからだ。俺は、彼の友情が欲しい」


 その言葉を聞いて、セイドはじっとアレンを見つめ、やがて忠告するように言った。

「太陽の勇者は、神聖なる血族の一人だ。敬意をもって接するべきであり、もし友情を結ぶならば、決して裏切ってはならない」


 アレンは静かに、しかし誓うように答えた。

「肝に銘じよう」


        ***     ***


 一方、クラレンス一行も一つの部屋に集まっていた。 


 クラレンスはまず、ザヴィクに尋ねた。

「ジイは、あの方々と私たちが仲間になることについて、どう思いますか? 率直な意見を聞かせてください」


「私としては、良いと思います。ハミツ様もそうですし、信頼できる方々ではないでしょうか。それに、今回の件を考えても、私たちには仲間がもっと必要なのは確かです」


「ラリサとシャルは、どう思う?」

 ラリサはすぐに答えた。

「私は賛成よ。〈キベレ〉のセイド様が一緒っていうだけでも十分信頼できるし、何より、私たちを助けてくれたじゃない。ザヴィクさんの言う通り、いい人たちだと思う」


 混沌の地を東西に貫く〈大陸回廊〉の中央に位置する〈キベレ〉は、古代の魔法帝国の遺産とされる都市であり、エルフ族とドワーフ族が共同で管理・統治する神秘の都市であった。


 混沌の地の結界を維持する中枢である、その都市に住まう者たちですら、自らを「キベレの民」と称することはほとんどなく、通常は他の出身地を名乗るのが通例である。ゆえに、セイドが「キベレ」を名乗っていることは、彼がきわめて高貴な身分の者であることを意味していた。


 シャルもラリサの意見に頷いた。

「私もラリサと同じ考えよ」


 皆の意見を聞いた後も、クラレンスは黙ったままだった。

 そんな彼女に、ラリサが声をかけた。

「どうしたの? 何か気になることでもあるの?」


「いい人たちなのは、間違いないけど……」

 言葉を濁したクラレンスは、シャルに問いかけた。

「シャル。善悪で判断できない、善悪を超えた人間ってどう思う?」


 シャルは、それが誰を指しているのか、すぐに察した。彼女の目にも、アレンは確かに大きな権力を持ち得る立場にあり、尋常ならぬ志と、それを実現できるだけの力を備えた男に映っていた。


「父から聞いたことがある。そういう人は、人を導く立場にある者の中でも、特に〈偉大な運命〉を背負った者だって。

 他にはない大志と未来へのビジョンがあり、それを成し遂げるだけの資質と才覚を備えた者。そういう人は、単なる善悪を超えて、自らの意志で道を切り拓いていくって」


 考え込むクラレンスに、シャルが静かに付け加えた。

「このパーティーのリーダーはあなたよ。あなたがどう決めようと、私はそれに従うわ」

 ザヴィクとラリサも頷き、同意を示した。



 その夜、クラレンスはベッドの上で、アレンの顔を思い浮かべていた。

 形を成さない未来。彼がこれからどのような選択をし、どんな道を進むのかは、まだ誰にも分からない。


(少なくとも、今の彼は〈良い人〉だ。そして、これからも多分そうでいられる。私がそばで力になれるかもしれない……)


 そう決意を固めたことで、心はずっと軽くなった。決心を終えたクラレンスは、穏やかな気持ちですぐに眠りに落ちた。


 ― おいおい、大事な決断なんだから、もうちょっと悩むフリくらいしろよ。

 鎧が呆れたように、ぶつぶつと文句を言った。


       ***    ***


 翌朝の夜明け。クラレンスが運動のために外に出ると、すでにアレン、カイエン、ハミツの3人が来ていた。軽く挨拶を交わしたが、3人ともどこか緊張した面持ちで、ぎこちなさが漂っていた。


 昨夜、仲間の意見は一致していた。結論が出ている以上、引き延ばす必要もないと考えたクラレンスは、アレンに近づいて口を開いた。

「昨日のお話、考えさせていただきました」


 アレンの表情がわずかに硬くなった。

 クラレンスは軽く頭を下げた。

「仲間として、それから友として、ご一緒したいと思います。よろしくお願いします」


 アレンは満面の笑みを浮かべると、クラレンスを力強く抱きしめた。

「本当に嬉しいです! 今晩は盛大に祝賀の宴を開きましょう!」


 クラレンスは、その抱擁の力強さに思わず驚いた。鎧を着ているにもかかわらず、まるで裸で抱きつかれているかのような生々しい感触が全身に伝わってくる。鍛え上げられた胸や腕の筋肉がはっきりと感じられ、顔がみるみるうちに真っ赤になった。


(よ、鎧を着てるのに、なんでこんなに……生々しい感覚になるの!?)

 ― お前の中で、我の〈内在化〉がある程度進んだということだな。まあ、一段階上の領域に到達したと言ってもいい。あの戦いで極限まで踏みとどまり、皆を守る意志を貫いた結果だ。


 一歩進んだことは喜ばしいが、今この状況はさすがに気まずくて、クラレンスはどうしていいかわからなかった。


「……アレン。その辺で放してあげた方がいいのでは?」

 カイエンの言葉に、アレンは少し照れたようにクラレンスを離した。

「ともかく、今晩は仲間になったことを祝う会を開きましょう」


「宴って、昨晩もやったじゃないですか。そこまでしなくても……」

 クラレンスが遠慮がちに言ったが、アレンは首を横に振った。

「昨晩は回復のお祝い。今夜は仲間としての門出。意味が違います」


 カイエンがにこにこと笑いながら言った。

「そういえば、鎧を脱げるって言っていましたよね? もう仲間になったんですし、そろそろ姿を見せてくれてもいいじゃないですか? ずっと気になっていましたよ」


「あ、はい、それは……」

 400年前の〈太陽の勇者〉は、屈強な体を持つ大柄な戦士だった。

 そのためか、今のこの鎧も大きくて重厚な重鎧の形をしている。ラリサやシャルがそうだったように、彼らも自分のことを筋骨隆々の青年だと想像しているだろう。


 だが、実際の自分は華奢で小柄。しかも今は顔が真っ赤になっている状態で、今素顔を見せるのはさすがに恥ずかしすぎる。ましてや、あの時、肉料理をおごってもらったのが自分だと知られると思うと、顔から火が出そうだった。ラリサやシャルが一緒にいてくれたら、まだ少しは気が楽だったかもしれない。


「今夜、みんなが揃った場で、そうします」

 ― お前は神意を継ぐ者なのだ。自分のことを恥じるなど、あるまじきこと! もっと誇りを持て!


 鎧の励ましに、クラレンスは呆れたように返した。

(いつも〈豆粒〉なんて馬鹿にして、私の自信を削ってきたのは誰だったの? 今さらよくそんなことが言えるわね!)


 幸い、アレンはクラレンスの意思を尊重してくれた。

「急ぐ必要はない。ゆっくり、お互いを知っていこう」


 カイエンも同意して、新たに提案した。

「それはそうと、仲間になったし、そろそろ言葉も砕けた感じにしませんか? ハミツさんとザヴィクさん以外、年齢も近いですし」


「ちょっと早すぎないか?」

 アレンが軽く制したが、カイエンはにこにこした。

「早く打ち解けるほうがいいじゃないか」


「私もそうしたほうがいいと思います」

 クラレンスは少し勇気を出して答えた。仲間になると決めた以上、カイエンの言うように、早く気楽な関係になった方がいいかもしれない。もしかしたら、素顔を見せる前に、気楽に話せる仲になったほうがいいかもしれない。


 早朝の運動が終わった後、皆で集まった朝食の席で、クラレンスの決断を聞いたラリサ、シャル、ザヴィクは、笑顔でそれを受け入れた。クラレンスと同じく、ラリサとシャルも、アレン、カイエン、セイドと気さくな関係で過ごすことにした。


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