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太陽の勇者、満月の騎士、そして天秤の守護者  作者: 星を数える
第2章 出会い
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20. 援軍

「死ねぇっ!」

 無法者の振り下ろすウォーハンマーを受け止め、強く押し返したクラレンスが反撃に転じようとした、その時、風を切る重々しい音が響き、無法者の胸を太い矢が貫いた。


 顔を上げたクラレンスの視界に、森の間を駆け抜ける騎馬の男の姿が映った。その間にも、次々と矢が飛んできては、無法者たちの体を撃ち抜き、空中に浮かせては地面に叩きつけていた。



 数本の矢を放った後、アレンは疾走する馬から前方に跳び降りた。

 場所が騎乗戦に向いていないと即座に判断したのだ。


 無法者たちの顔ぶれを見渡していたハミツは、群れの中にキャロウェイを見つけると表情を一変させ、即座に彼へと突進した。


「キャロウェイ~~ッ!」

 元はブルカス級の冒険者だったが、数々の悪行によってギルドを追放された悪名高き無法者。その彼が、第一皇子レオンと衝突するような事態は、なんとしても避けなければならない。


「我、ヴェルトゥガーの神官ハミツが、貴様の悪行を裁いてくれようぞ~~ッ!」

 大きく怒鳴りつつ、突っ込んでくるハミツを見たキャロウェイの顔に、露骨な動揺が浮かんだ。

「ハミツ!? なんで貴様がここにいやがる!?」


 ハミツの両手に嵌められたガントレットからは、長く鋭い刃が展開された。彼は勢いよくキャロウェイに跳びかかる。


 キャロウェイは慌てて攻撃を受け止めながら叫んだ。

「ちょっと待て! これは貴様とは関係ないだろ!? 俺たち、私怨なんてなかったじゃないか!」


「うるさいっ! 貴様の積み重ねた悪行、今日この場で終止符を打つ! 我が断罪を受けるがいい!」

「……は? なにその三流小説みたいなクサい台詞。いつからそんな英雄気取りになったんだ?」


「うるっさい! 黙れぇ!」

 ハミツは顔を真っ赤にして怒鳴った。自分の口からそんな恥ずかしいセリフが出たことに心底後悔していたが、アレンを介入させないためには、こうするしかなかった。



 セイドは指先にいくつもの黒いダーツを出現させ、シャルの近くにいる2人の無法者に向けて放った。ダーツは蛇のようにうねり、木々や障害物を器用に避けて、無法者たちの身体に突き刺さった。


「カイエン、あの聖騎士を援護してやれ。もう限界だ」

「了解」


 馬から飛び降りたカイエンは、即座にシャルの元へと走った。腰に差した刀を抜いた瞬間、短かい刃が一気に伸び、幅広の刀身に猛るような炎がまとわりついた。


 セイド自身は、視線を魔法使いたちへと向けていた。右手をかざすと、親指の周囲にいくつかの小さな金属リングが浮かび上がる。それを数回器用に回転させた後、セイドはそれを女魔法使いサミラに向けて投げつけた。


 5つの金属リングは宙に散らばり、それぞれ異なる角度からサミラを狙って飛来した。サミラは慌てて防御結界を展開したが、リングは結界にぶつかっても消えず、鋭い光を放ちながら彼女の周囲を旋回しつつ激しく衝突を繰り返した。


 サミラの顔は、見る間に青ざめた。リングは高速で回転しながら結界を徐々に削り、隙を突いては執拗に攻め立ててくる。水の球でも、風の刃でも、それらを払い除けることはできなかった。


 一方、セイドは他の魔法使いに標的を変えた。彼の指先に再び金属リングが浮かび上がる。セイドはそれをくるくると器用に指で回しながら、魔法使いに向かって駆け出した。その間にリングは直径1メートルほどにまで大きくなっていた。


 魔法使いは強烈な火炎魔法を放ったが、セイドは金属リングを手で掴んで振り回し、火炎を吹き飛ばすと、あっという間に魔法使いの懐に潜り込んだ。


 セイドはにやりと笑い、リングを男の頭にかぶせると、それを勢いよく引いた。バチンッという音とともに、男の首はリングに切り落とされた。


 魔法使いを仕留めたセイドは、悠然とサミラの方へと歩いていく。

 木の陰に潜んでいた無法者が奇襲をかけたが、セイドはもう一方の手に黒い光の球を作り出し、それを無法者の腹に突き刺して吹き飛ばした。


 すでにリングによって全身に傷を負っていたサミラは、恐怖に怯えながらセイドを見つめた。彼の美しい顔は、氷のように冷たかった。


「た、助けて……」

 命乞いの言葉が口からこぼれた瞬間、サミラを取り囲んでいた5つのリングが猛然と動き、一斉に彼女を襲った。


「他人の命を羽より軽く見た者が、自分の命だけは重いと思うとは」

 サミラの亡骸を冷ややかな視線で見下ろしたセイドは、踵を返しカイエンの元へと向かった。



 一方、アレンはクラレンスの側で無法者たちと激戦を繰り広げていた。

 シュイイイイン―! 彼が剣を振るたびに、鳴り響く不気味な音と共に、銀白色の剣身が深紅の光を帯びてうねり動く。その剣は、直線にも曲線にも自在に形を変え、無法者たちの身体を貫き、引き裂いていく。血と肉片が飛び散る中、刃には一切血が付着せず、むしろその血を貪るように吸い込んでいた。



 キャロウェイは、ハミツとの戦いに苦戦するも、無法者たちがほぼ壊滅していることに気づき、口を開いた。

「なあ、ハミツ。俺たちがここで殺し合う必要はないだろ? 見逃してくれれば、この件からきっぱり手を引くからさ」


 ハミツは、アレンの方に視線を送り、噛みつくように言い放った。

「今日、お前が俺たちの前に現れた時点で、運は尽きたんだ」


 ちょうど一人の敵を倒したアレンが、こちらに顔を向けた。彼の手にある〈クラッパハツの凶暴〉は、その不気味な刃を蛇の舌のように波打たせながら輝いていた。今にもこちらに来そうなその気配に、ハミツは内心焦りを感じた。


(くそっ、こうなったら……!)

 ハミツは闘気と神聖力を限界まで引き上げ、必殺の一撃をキャロウェイに叩き込んだ。目にも留まらぬ速さで、両手のブレードが猛烈な連撃を浴びせ、キャロウェイを一気に追い詰める。そして最後の瞬間、刃は奴の胸を深々と貫き、止めを刺した。


 ようやく息を整えて背筋を伸ばしたハミツの目に映ったのは、アレンと黄金の騎士が協力して、最後の一人を仕留める光景だった。


 黄金の騎士は、赤き大剣を軽く一振りした後、それを地面に突き立て、両手で柄を握ったまま静かに立ち尽くしていた。その後、ラリサと子どもたちを守っていた黄金の盾がふっと消えた。


「大丈夫ですか?」

 アレンが近づいて声をかけたが、黄金の騎士から返事はなかった。


 代わりに、後ろからふらふらと歩いてきたラリサが答えた。

「助けてくださって、本当にありがとうございます。クラレンスは……たぶん気を失っています。夜明けころからずっと、ここで戦っていたのです……」

 アレンは空を仰いだ。時刻はすでに正午を過ぎていた。


「子どもたちがいたのか」

 カイエンが驚いた様子で、盾の消えた場所に集まっている子どもたちを見つめた。その隣では、肩と太腿に傷を負いながらも、ザヴィクが子どもたちを優しく励ましていた。


 ラリサが事の経緯を語り始めた。

「子どもたちを囮にして、私たちを罠にかけたのです。もう限界で、私……クラレンスに、一人でも逃げてって言いましたけど……最後まで、私たちを守るって……」


 語る途中で、ラリサの目から涙が溢れ、言葉を継げなくなった。

 ようやく助かったという実感からか、子どもたちも声を上げて泣き始めた。


「騎士様は……ご無事ですか?」

「悪い奴らが……お父さんとお母さんを殺したんです……」

 悪党どもは、二つの家族の親を殺して子どもを誘拐し、囮として利用していたのだった。


「外道め……」

 無法者どもの死体を睨みつけ、アレンは低く呟いた。


 そして、ラリサに向き直って言った。

「ご安心を。安全都市まで、私たちがお連れします」


「ありがとうございます……」

 ラリサは緊張の糸が切れたように、その場にへたり込んだ。


 ハミツが駆け寄って回復ポーションを飲ませると、すぐにシャルの様子を見に向かった。シャルは、戦いが終わったと同時に意識を失い、倒れていた。


「シャルは……大丈夫でしょうか?」

「怪我はしていますが、幸い、命に別状はなさそうです。詳しく診るには鎧を外す必要がありますが、見た感じ致命傷ではありません」


「……よかった……」

 ハミツの言葉を聞いたラリサは、ほっとしたように呟き、ゆっくりと目を閉じた。


 応急処置を終えたハミツは、アレンの元へ戻ってこう言った。

「二人の騎士は、どうやら担架に乗せて馬に繋いで運ぶしかなさそうだな」


 どこからともなく数人が現れ、ハミツを手伝って担架を作り始めた。シャルは問題なかったが、クラレンスは重すぎて、普通の木製では持たず、金属のフレームで支える担架が必要だった。


 後処理と子どもたちの保護は、アレンの部下に任せ、4人の男はクラレンスたちを連れて安全都市へと出発した。


 ラリサはセイドと同じ馬に乗り、ザヴィクはカイエンの馬に同乗した。アレンの馬はクラレンスを乗せた担架を引き、ハミツの馬はシャルの担架を繋いでいた。


 ラリサは朦朧(もうろう)とした意識の中で夢を見ていた。夢の中で彼女は、青く澄んだ森の中、裸足で柔らかな草を踏みしめて立っていた。心地よい木々の香りの中に、かすかな花の香りが鼻先をくすぐり、爽やかな森の風が頬を撫でていた。


 体が揺れる感覚にふと目を覚ましたラリサは、思わず息を呑んだ。金色の美しい髪が彼女の頬をかすめ、彼女は美しい森のエルフの男性にもたれるような姿勢で、馬に乗っていたのだった。


 最初は夢か現実か分からなかった。だが、すぐに現実だと気づくと、ラリサはパニックに陥った。初めて見る男―いや、エルフの胸の中に抱かれているなんて。


(ど、どうしよう? どうしたら……?)

 ラリサが体をわずかにこわばらせたのを感じ取ったセイドが、優しく声をかけた。


「大丈夫。もう安全ですよ。ゆっくり休んでください」

 彼の口から、穏やかな呪文が紡がれた。


 ラリサは、それが眠りを誘う魔法であると気づいた。普段なら抗うべき場面だが、今はそれが自分のためであることを理解していた。ラリサは素直にその魔力を受け入れることにした。心が徐々に安らぎ、全身の緊張が解けていく。

(あたたかい……そして、いい匂い……)


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