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太陽の勇者、満月の騎士、そして天秤の守護者  作者: 星を数える
第2章 出会い
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18. 陰謀

 数日後、治安隊長からの招待を受けて、クレランス一行は街へと出かけた。その姿を、遠く建物の陰からじっと見つめている一団がいた。その中の一人は、先日犯罪組織の巣窟から逃げ出した用心棒エミソンだった。逃げる際にかなりの怪我を負ったらしく、体のあちこちに包帯を巻き、頭巾と服で身を隠していた。


「アレが〈黄金の騎士〉か? 見た目はなかなかだな」

「昔っから語り継がれてる人気の英雄譚さ。今は300年前の〈英雄の時代〉の話が流行りだけど、庶民の間じゃまだまだ語られてるらしいぜ」

「本当に400年ぶりに現れたってのか?」


 エミソンが答えた。

「間違いねえよ。暗がりの中でも赤く輝いててな。カミチとやり合った時は、真昼の太陽みてぇに眩しかった。壁だの何だの、まとめてぶった切ってやがったからな」


 通りすがりの人が不審げな目で彼らを一瞥すると、彼らはその場を離れて別の場所へ移動した。


 部屋の中に集まったのは、エミソンを含めて5人。一人の男が仲間を見回して言った。

「それが本物の〈太陽の勇者〉の武具なら、いくらで売れるかな?」


 エミソンが答える。

「想像するだけ無駄だ。いくらを想像したって、その何倍はするぞ。太陽の勇者の末裔だと名乗るリーベンフロイン家だけでも何家ある? 奴らじゃなくても、欲しがる者は山ほどいる。闇オークションに出しゃ、群がってくるだろうよ。

 ……いつまでこんなセコい暮らししてんだよ? この際、一発当ててでかくいこうぜ」


 黒髪の女魔法使いサミラが、冷静な声で口を挟んだ。

「カミチを難なく潰せたってことは、並の実力者じゃないわ。数はそれなりに揃える必要があるのでは?」


「化け物だった。石の壁を水でも割るみたいに、あの大剣でガンガン斬ってきやがった」

 エミソンはぶるりと身を震わせて言った。


「とはいえ、今がチャンスだ。ジジイを除きゃ、実働戦力は3人だけだろ? これ以上仲間が増えりゃ、やりにくくなる」


「金にもならん仕事ばっかしてるのに、あのパーティーに入りたがる馬鹿がいるか?」

 頬に切り傷のある男バクンがせせら笑うように言うと、サミラが静かに反論した。

「太陽の勇者には、常に忠実な仲間が付き従うものよ。今は3人だけでも、いずれもっと増えるわ」


 エミソンも頷いた。

「世の中、変わった奴なんていくらでもいるからな。今の連中みたいなのが、他にも現れるかもしれねぇ」


 それまで黙って話を聞いていた、角ばった顔の男が口を開いた。

「使える奴らを中心に、さっさとかき集めろ。中途半端にやって失敗するくらいなら、一度で確実に仕留めるぞ」


 エミソンは媚びた笑いを浮かべて、ご機嫌を取った。

「承知しました。ブルカス級の強者であられるキャルロウェイ兄貴が動いてくだされば、誰だって仲間に入りたがりますよ」


 キャロウェイはサミラに尋ねた。

「それで、奴らをどうやって〈混沌の地〉におびき寄せる? 偽の依頼でも出すか?」


「偽の依頼はダメよ。太陽の勇者には、嘘が通じないって言われている。依頼そのものは本物にして、その中に嘘を混ぜるの。

 それと、現場では、罠だと気づいても、足を踏み入れざるを得ないように仕掛ける必要があるわ」


 キャロウェイの口元が冷笑で歪んだ。

「太陽の勇者ってのを、本気で信じてるのか。なのに、こんなことやってていいのかよ?」


 サミラは乾いた目で、皮肉な笑みを浮かべた。

「神は遠くにいて、金は手の届くところにあるじゃない」


       ***    ***


 クラレンス一行は、再び日常へと戻っていた。変わった点があるとすれば、銀級へと昇格したことで、大型魔獣に関する依頼を受けられるようになったことだった。


 今回クラレンスたちが受けたのは、大型魔獣〈クリーズル〉の討伐依頼だった。準備を整えた一行は、安全都市アルカセンを後にした。


 クリーズルは、うっ蒼とした森林地帯に主に出没する魔獣で、〈凶暴なる灰の悪魔〉とも呼ばれる熊型の大型魔獣だった。魔法攻撃が一切通じず、物理攻撃でしか倒すことができないうえ、ダメージを与えるほどに狂暴性と強さを増していく、極めて厄介な相手だった。


 依頼主は、クラレンス一行を名指しで指名しており、条件として「できるだけ胴体に傷をつけず、きれいな状態の皮を手に入れてほしい」と望んでいた。多少の傷があっても買い取るとのことだが、条件を満たせば、破格の報酬を支払うという約束だった。


 地形や植生がランダムに変化する〈混沌の地〉だけあって、地形が変わってしまう前に、なるべく早く森林地帯へ到達する必要があった。


 2日間、混沌の地をひたすら進み、ようやく深い森にたどり着いたクラレンスたちは、3日目の夜明けに野営地をたたみ、クリーズルの痕跡を求めて出発した。


 森の中を歩いていると、突然、10代前半の少女が木々の間から彼らの方へと駆け寄ってきた。涙でぐしゃぐしゃになった顔で、少女はすすり泣きながら途切れ途切れに言った。

「助けてください……。弟と妹が……あそこに縛られてて……。早く行かないと……魔獣に殺されちゃう……」


 クラレンスたちは顔を見合わせた。人の住むはずのない混沌の地で、このような事態が起きているというのは、明らかに不自然だ。


「クラレンス、これ……罠よ……」

 ラリサが困惑気味に呟いた。


 クラレンスが静かに答えた。

「分かっている。でも、自分の安全のために、人を見捨てるわけにはいかない」


 クラレンスは少女が来た方向へと動き出した。罠であることは明らかだが、この少女の切迫した様子は紛れもなく本物だった。


 間もなく、叫び声が聞こえてきた。子どもたちの悲鳴と魔獣の唸り声が入り混じっていた。危機的な状況が迫っている気がした。クラレンスは足を速めた。


 5人の子どもが太い木に縛られ囚われており、その前では、狼型の魔獣たちが、同じく縄につながれた状態で唸り声を上げ、子どもを威嚇していた。魔獣を繋ぐ縄は緩く、じりじりと子どもに近づいていた。恐怖に震える子どもらは泣き叫んでいた。


「シャル、あの子たちを解放して」

 クラレンスが魔獣を蹴散らしている間に、シャルは木に駆け寄って縄を解きにかかった。


 そのとき、彼らの正面、木々の奥から一団の無法者が姿を現した。犯罪組織の用心棒だったエミソンが、パチパチと音を立てて拍手して嘲るように言った。

「さすがは正義の味方様。罠だと分かっていながら、勇敢にも飛び込むとはな」


 別の男がいやらしい笑みを浮かべ、大げさにお辞儀の真似をした。

「伝説の〈太陽の勇者〉殿にこうしてお目にかかれるとは、光栄の極みでございます」


 彼らが〈太陽の神器〉を狙っていることが明白になった。

 クラレンスはすぐさま周囲を見渡した。敵の数はざっと30名ほど。並の盗賊や犯罪者とは比べものにならない、凶暴で危険な連中だった。


 少し離れた場所に大きな岩があるのが、クラレンスの目に留まった。少なくとも片側が塞がっている場所で戦ったほうがいいと判断した彼女は、仲間に叫んだ。

「みんな、あの岩の前へ!」


 突っ込んでくる無法者どもをクラレンスとシャルが食い止めている間に、ラリサとザヴィクは、急いで子どもたちを連れて岩の前へと移動した。子どもたちを岩のすぐそばに立たせ、クラレンスは2枚の黄金の盾を召喚して、その前に展開した。盾はいつもより大きく展開されていた。


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