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太陽の勇者、満月の騎士、そして天秤の守護者  作者: 星を数える
第1章 冒険の始まり
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4. 盗賊団との遭遇

 夜が明ける前の、まだ薄暗い早朝。クラレンスは鎧の強引な呼びかけにより無理やり目を覚ました。


 ― さあ、鍛錬を始めるぞ。

 そう言うや否や、鎧は勝手にクラレンスの身体を動かし、真紅の大剣を手に取り、舞うように軽やかな動作で振り始めた。


 鎧の中のクラレンスは、激しい筋肉痛と重苦しい圧迫感に、涙と鼻水を流し、苦痛を訴えた。

(ううう〜っ、痛いよ! 自分で運動するって言ってるのに、勝手に動かすなんてひどすぎる! この悪党〜!)


 ― うるさい。お前に任せていたら、百年経っても、地べたを這ってるだけだろう? いつまで待たせる気だ。


 一通りの強制鍛錬を終えると、敬虔な面持ちでその様子を見ていたザヴィクと目が合った。彼は昨日と同じように感激で目を潤ませていた。


「伝承で聞いた太陽の勇者様の威光を、こうして自らの目で拝めるとは。この栄誉のために、今日まで生き延びてきたのでしょう……」

(いや、そこまで感激することは……)

 過剰な感動を鎮めたくても、言葉にはならなかった。


 仕方なく無言で朝食を取り、二人は早々に出発した。朝の鍛錬では、蝶のように軽やかに動いていた身体は、それが嘘みたいにまた重くなっていた。とはいえ、気のせいか、あるいは少し慣れてきたためか、昨日よりは幾分歩きやすい感じがするのが救いだった。


「〈混沌の地〉まで徒歩で向かうとなると、かなりの時間がかかるでしょう。街に出れば、都市間を往復する馬車もあります。馬がいない場合は、あれに乗って境界都市まで行くのが、一番楽で早い方法ではあるのですが……料金が高くつくのが難点ですね」

 ザヴィクは心配した。


「大丈夫です。これも修行の一環ですから、歩いていきます」

 ザヴィクが手元の貯金を持ってきてくれているとはいえ、裕福とは言えないクラレンスの家の事情もあり、金額は限られていた。クラレンス自身が貯めてきたお小遣いもほんのわずか。境界都市に到着した後も、宿代や食費が必要になるため、交通費にすべて使ってしまうわけにはいかない。


 しばらく森道を歩いていると、向こうから馬に乗った男が近づいてきた。クラレンスの心臓がドクンと跳ね、思わず立ち止まった。クラレンスの叔父、ケイアムだった。彼はザヴィクの顔を見て馬を止めた。


「お久しぶりでございます、旦那様」

「ザヴィクではないか。クラレンスを探しているのかね?」


 ケイアムは挨拶を終えると、クラレンスの方に目を向けた。クラレンスがドキリとして黙っていると、ザヴィクが素早く答えた。

「どうやらお嬢さまは、混沌の地の方へ向かわれたようですので、境界都市まで行ってお探しするつもりです。ちょうどこの騎士殿も同じ目的地だとおっしゃっていたので、ご一緒させていただいております」


 ケイアムはクラレンスの鎧をじっと観察したが、その中にクラレンス本人がいるとは思いも寄らなかった。

「ご苦労なことだ。どうか気をつけて行ってくれ。クラレンスは我が家の近くには現れなかったようだ。私は他の道を探してみるよ」


 ケイアムはクラレンスに軽く会釈をして、馬を反対方向へと進めていった。


           ***     ***


 クラレンスとザヴィクの徒歩旅も、5日目に入っていた。二人は節約のため、夜は野宿か農家の納屋を借りて眠り、食べ物だけ購入した。


「混沌の地に行けば、バランおじさんに会えるでしょうか?」

 クラレンスの問いに、ザヴィクはうなずいた。


「冒険者ギルドに登録したという知らせは、以前受け取っております。たぶん会えるでしょう。冒険者同士の連絡は、基本的にギルド経由ですから。

 境界都市に行って、冒険者ギルドに連絡を入れておけば、少し時間はかかるかもしれませんが、伝わるはずです」


「連絡がつけば、迎えに来てくれるでしょうね?」

「もちろんです。言うまでもありません」


 バランは、ザヴィクの息子で、5年前に冒険者になると宣言して、混沌の地へ旅立った。クラレンスにとっては、幼い頃から兄のようでもあり、友人のようでもある頼もしい存在だった。クラレンスがこの旅に出た理由の一つには、どこかで彼と再会し、ともに冒険ができるかもしれないという淡い期待もあった。


「道を間違えたかもしれませんね。随分と深い森に入り込んでしまったようです」

 ザヴィクが不安げにあたりを見渡す。彼も若い頃に家を出て混沌の地を旅したが、故郷に戻ってからは、これほど遠くへ来たのは初めてだった。


「不気味な森ですね。気の流れが良くない」

 クラレンスがつぶやいた。聖なる木のある森とはまったく異なる、どこか禍々しい気配が漂っていた。


 その予感は的中する。突如、左右の木陰から武器を構えた賊たちが飛び出し、二人の行く手を塞いだのだ。


「おっ、ずいぶんと高そうな鎧だな。ピッカピカじゃねえかよ」

「大人しく脱いで差し出しゃ、命までは取らねえよ?」

 盗賊たちはいやらしい笑みを浮かべ、武器を振りかざしてじりじりと詰め寄ってくる。


 ザヴィクは緊張して、腰のクロスボウに手を伸ばした。

 そのとき、クラレンスが低い声で言った。

「ジイは、ここにいて」


 クラレンスが片手を横に伸ばすと、どこからともなく黄金色の巨大な盾が現れ、ザヴィクの前に立ちはだかった。


 そして、クラレンスは前へと駆け出し、大剣を勢いよく振るう。その刃は舞うように、しかし一瞬のうちに数人の盗賊を鮮やかに斬り伏せていた。


 混沌の地で長年、数多くの戦士や騎士を見てきたザヴィクの目から見ても、その動きは一切の無駄がなく、鋭く洗練されていた。それは、決してクラレンス自身の剣術ではない。


 幼いクラレンスに最初に剣を教えたのはザヴィク本人であり、その後は叔父のケイアムが師となった。今の戦いぶりは、その誰の流派でもない。間違いなく、〈太陽の勇者〉の剣なのだ。


「な、なんだ、コイツは!?」

「バケモンだ! 逃げろ!」

 あまりにも一瞬の出来事に、残った盗賊どもは顔を引きつらせ、慌てて森の奥へと逃げていった。


 クラレンスは大剣を構えたまま、彼らの背をじっと見送ると、十分な距離が取れたところで再び歩き出し、彼らの後を追った。


 ザヴィクは、クラレンスが賊たちを取り逃がしたのではなく、意図的に逃がしたのだと悟った。彼は、クロスボウを固く握りしめ、クラランスの背に従った。黄金の盾は、ザヴィクの前方に浮かび、彼を守るようにゆっくりと進み始めた。


 クラレンスの後を追って進んでいると、やがて何かが壊れる大きな音と、続く悲鳴が響いた。音の方へ急いで向かうと、木で作られた柵の門が粉々に破壊されていた。


 壊れた門の向こう、賊のアジトと思しき前庭には、既に十数人の盗賊が無残に倒れていた。クラレンスの前には、頭目らしき男と5、6人の手下が集まり、必死に防戦の構えを取っていた。


 頭目が慌てて叫んだ。

「先生っ! 早く来て、この野郎をなんとかしてくれ!」


 だが、誰も姿を現さない。

「どこに行ったんだ、先生! 早くしろよ、金なら2倍、いや3倍払うから!」


 頭目の必死の叫びにもかかわらず、何の反応もないまま時間が過ぎていく。後ろにいる部下が今にも泣き出しそうな顔でつぶやいた。

「せ、先生が……逃げちゃったみたいです……」


 黄金の騎士が一歩前に出た。

 その気配に、頭目はたまらず後ずさりし、必死に命乞いを始めた。

「ま、待ってくれ! 命だけは……命さえ助けてくれるなら、ここにある財宝は全部あんたに上げるから! だから、頼む、どうか……!」


 黄金の騎士は大剣をまっすぐに構え、冷ややかな口調で告げた。

「穢れた財で我と取引しようとは、身の程を知れ。この場で即座に斬り捨てぬのは、むしろ情けというもの。貴様の裁きは、貴様が赦しを乞うべき者たちに委ねられるべきだ」


 取引が通じないと悟った頭目は、狂ったように部下を前へ押し出した。

「何をしてる! あいつを止めろ!」


 だが、圧倒的な実力差を目の当たりにして、戦意を失っていた盗賊たちはためらい、頭目に乱暴に背中を押されて、仕方なく前に出た。やけくそで飛びかかってきた彼らだったが、すべては一瞬だった。黄金の騎士は、迷いもなくその全員を打ち倒した。


 戦いを終えた騎士は振り返り、ザヴィクに向かって言った。

「こやつらは、都市の衛兵に引き渡します。逃げないよう縛ってください」


 ザヴィクが近づいて確認すると、他の場所で血を流して倒れていた賊たちとは違い、頭目を含む6人は刺し傷はなく、気を失って倒れていた。どうやら大剣の刃ではなく、広い剣身で強く打ち据えて戦闘不能にしたようだった。


 ザヴィクが縄で彼らの手足を縛っている間、黄金の騎士は、賊のアジトの奥にある洞窟の入り口へと向かった。洞窟の入り口はそう大きくはなく、木の扉で閉ざされていた。太い木のかんぬきで厳重に閉められている。


 黄金の騎士は扉の前に立つと、ガントレットをはめた拳で思いきり扉を殴りつけた。分厚い扉は一撃で粉々に砕け散った。


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