13.闇組織の壊滅
夜は更け、ついに犯罪組織の壊滅作戦が開始された。
治安隊の騎士らとともに、犯罪者の根城である酒場の建物前に着くと、すでに治安隊の兵たちが建物をぐるりと取り囲み、バリケードを設置して封鎖していた。
「行きましょう!」
治安隊の副隊長が先頭に立った。クラレンスがその隣に並び、ラリサとシャルがすぐ後ろについた。治安隊の騎士たちも共に動いた。
副隊長が扉を蹴破り、中に踏み込むと大声で叫んだ。
「全員動くな! 今からこの場にいる者を全員逮捕する! 両手を頭の後ろで組んで、ひざまずけ!」
騒がしかった酒場の中が、一瞬にして静まり返った。いかにも荒くれ者といった風体の男が前に出てきて、鼻で笑って叫んだ。
「なんの冗談だ? 俺たちはちゃんと許可を受けて、合法的に商売してるっての!」
副隊長は、逮捕状の書かれた巻物を広げ、突きつけた。
「正式に討伐許可を得ている! 無駄な抵抗はやめて、大人しく降伏しろ!」
男はあざけるように笑った。
「てめえらごときに俺たちを止められると思ってんのか? おい、やっちまえ!」
その言葉を合図に、武装した者たちが一斉に飛び出してきた。クラレンスが前に出て、真紅の大剣を大きく薙ぎ払った。一太刀で4人の体が裂かれ、倒れ伏した。
他の悪党は驚愕して動けず、人々は悲鳴を上げて壁際に逃げた。
ラリサが高らかに宣言した。
「汝らに告ぐ。
この悪の巣を、いま浄め給え。
人の道を踏み外したる者どもに、神の罰を与え給え。
神の御心はこの地にあり、汝らの背には神の御手が添われり。
進みて臨め、悪を打ち払え!」
ラリサの頭上に黄金の天秤が浮かび、彼女の身より放たれた光が、シャルと治安隊の騎士をはじめ、戦いに加わる者のもとへと広がっていった。その光は心に潜む不安を鎮め、確信と高揚を満たしていった。
聖騎士であるシャルのみならず、治安隊員や冒険者らも大いに鼓舞され、一斉に力強い鬨の声を上げた。この戦いは、今や正義の執行であり、神意に従う神聖なる戦いであった。
続けてラリサは、〈精神強化〉〈攻撃力強化〉〈痛覚鈍化〉などの加護を施した。それは先の宣託と同様、この作戦に参加した全ての者に等しく与えられた。
治安隊の副隊長は、ラリサを敬意のこもったまなざしで見つめた。
(これほど多くの者に加護を与えるとは……この御方はいったい……)
クラレンスが先頭に立って戦闘が始まった。悪党どもは、クラレンスの最初の一撃にすっかり気圧され、後退する者、逃げ出す者が相次いだ。治安隊はその場にいる者すべてを、拘束していった。悪党と一般人の区別は、戦いが終わった後に改めて行われる予定だった。
一階がある程度制圧されたのを見て、クラレンスは上階へと向かった。普段とはまるで違う、俊敏で鋭い動きだった。あまりの速さに、ついていく者たちは息を切らすほどだった。
7階まで一気に駆け上がると、すぐさま制圧が開始された。クラレンスが廊下へ出ると、前方に立ちはだかった悪党がニヤつきながら口を開いた。
「こんな狭い場所で、そんな大剣を振るうつもりか? バカか素人に違いねえ。俺の剣、受けてみな!」
そう言って、短い剣を構え、一直線に突きを狙って突進してきた。
クラレンスは真紅の大剣を下から斜めに振り上げた。大剣は相手の剣を真っ二つに断ち切り、その勢いで相手の胴体を大きく裂き、さらに背後の壁までも切り裂いていった。
その光景を目の当たりにした他の悪党どもは、青ざめて後ずさった。
「な、なんだと……?壁まで裂けたぞ……」
「逃げろっ!」
それから、クラレンスは廊下の両側の部屋を一つずつ開けて、犯罪者の捜索を始めた。
最初の部屋を開けたとき、クラレンスは思わず動きを止めた。そこには裸の男女が、なんとも言えぬ格好で身を寄せ合っていたのだ。
「きゃああっ!」
男女の悲鳴と同時に、クラレンスも甲冑の中で思わず叫び声をあげた。
鎧が舌打ちした。
― 何を驚いてやがる。こんな場所で男女がジャンケンでもしてるとでも思ったか? しっかりしろ!
鎧のおかげで、クラレンスの動揺はまったく表に出ることはなかった。
途中、不意打ちを仕掛けてくる者を片付けながら、クラレンスは7階をすばやく制圧し、続けて6階、5階へと降りていった。1階に戻ったときには、すでにかなりの掃討が完了していた。
本戦ともいえるのは、地下空間であった。秘密の通路を通って降りた地下は、石でできており、狭い廊下の両脇に部屋が並ぶ構造だった。悪党どもはこの場所へ逃げ込み、灯りをすべて消して真っ暗にしていた。クラレンスが持つ真紅の大剣が明るく輝き、黄金の甲冑もまた光を放ち、闇を照らした。
地下の廊下に足を踏み入れた瞬間、クロスボウの矢がクラレンスに向かって放たれた。クラランスはガントレットをはめた手でそれらを軽く払い、無言でゆっくりと前進した。
狭い空間では大剣は振るえないと判断した敵は、メイスやモーニングスターなどを手に突進してきた。だが、黄金の騎士は躊躇なく大剣を振り抜き、壁をも切り裂いた。石の壁があっさりと割れる光景に、悪党どもは目を見開き、凍りついた。
「バ、バカな……石壁が……」
「お、お化けだっ!」
パニックに陥った悪党たちはおたおたと後退し、逃げ出した。廊下のあちこちで扉をわずかに開き、様子を伺っていた者たちも、恐怖に顔を歪めて扉を閉めたり、慌てて逃げ去ったりした。
クラレンスは、あえて奴らを追いはしなかった。全ての秘密通路は、すでに治安隊によって封鎖されているのだから。
治安隊の副隊長は、石壁を見て言葉を失った。そこに刻まれた痕跡は、刃物で切られたというよりも、高熱によって一瞬で溶けたように見えた。
黄金の騎士は、廊下脇の重い扉を蹴り飛ばし、扉ごと地面に叩き倒した。扉の前で待ち伏せしていた2人の悪党がその下敷きになって倒れる。さらに、扉の脇に潜んでいた敵が斬りかかってきたが、大剣の一撃を受け、壁に叩きつけられた。残る者たちは、恐怖に震えて武器を落とし、次々と降伏した。
クラレンスは廊下を進み、部屋の扉を一つずつ破壊し、順に制圧していった。その後方では、治安隊と別の冒険者パーティーが残敵を処理しながら、混乱の収拾にあたっていた。
地下空間には、人身売買のために誘拐・監禁されていた人々も少なからず存在していた。地上階の時と同様に、犯罪者と被害者を即座に見分けることは困難なため、原則として一時的に全員を拘束し、その後に選別が行われる予定であった。
「騎士さま、本当にありがとうございます……」
涙を浮かべ、懇願するような表情で黄金の騎士に近づく一人の女性。だが、次の瞬間、黄金の騎士は無言でガントレットをはめた手を振り下ろし、彼女を気絶させた。
そして冷然と一言、
「罪人です。拘束しなさい」
困惑した治安隊の兵が女性の身を改めると、腿をはじめ、体のあちこちに毒を塗った短剣を隠し持っているのが発覚した。彼女は殺し屋だったのだ。
それ以外にも、助けを求めるふりをして近づいた子どもが、すれ違いざまに短剣を太腿に突き立てようとし、即座に取り押さえられるといった事例もあった。
治安隊の隊長が警告していた通り、敵と被害者を見極めるのは極めて困難な状況だった。だが、その混沌とした中でも、クラレンスは寸分の迷いもなく、武器を隠し持つ殺し屋や悪党たちを瞬時に見抜いては制圧していった。
彼の行動を目の当たりにした人々は、ただただ驚嘆し、そして畏敬の眼差しを向けた。