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太陽の勇者、満月の騎士、そして天秤の守護者  作者: 星を数える
第2章 出会い
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7. 湿地の探索依頼

 宿を決めて一日休んだクラレンス一行は、冒険者ギルドを訪れた。

 今後しばらくは、アルカセンを拠点として活動する予定のため、ギルドにその旨を伝え、銅級の冒険者向け依頼を確認するためだった。


 ちょうどギルドの館内に入ったところ、5人組の冒険者パーティーが、こちらに聞こえるような大声で話しながら、すれ違っていった。


「まったく、金にもならねえし、時間ばっか食う、そんな依頼誰が受けるってんだよ」

「ほんとにな。あの報酬で銀級のパーティーを使おうなんて、虫が良すぎるぜ」

 クラレンスたちは何事かと少し気になったが、どうせ銀級向けの依頼だろうと考え、すぐに忘れた。


「境界都市キヘンナにて、冒険者登録を済ませております。当分アルカセンで活動する予定です」

 クラレンスは、ギルドの受付に登録メダルを見せ、さらにキヘンナのギルド長が書いてくれた紹介状を、ギルド長へ渡してほしいと頼んだ。


 その後、みんなで掲示板に向かい、銅級に見合った依頼を確認した。そこには、主に中型の魔獣である狼型や猪型、あるいは鳥型魔獣の討伐や、ゴブリンの掃討依頼などが並んでいた。


「等級を上げるには、ギルド依頼の実績を積むことも重要な条件です。当面はこういった任務を中心にこなしていけば良いでしょう」

 ザヴィクが魔獣関連の依頼を指しながら言った。


 クラレンスらはいくつかの依頼を選んだ後、広場の見物へと向かった。

「これが、安全都市の魔塔か!」

 クラレンスは心を躍らせ、塔に近づいた。


 シャルも、感動したような声で呟いた。

「魔塔を目の当たりにすると、ようやく本当に安全都市へと辿り着いたのだと実感がわくね」


 安全都市には、いずれも中心に魔塔が存在し、都市ごとに異なる色彩の塔が建てられていることで知られていた。


 アルカセンの魔塔は、緑と黄色が混じり合った鮮やかな光を放つタイルで装飾された、高さ30メートルほどの円形の建物だった。蔦が絡みつくように塔を這い上がる姿から、〈アルカセンの蔦塔(つたとう)〉とも呼ばれていた。


 魔塔には出入口がなく、最上層を除いては、窓すら存在しないことから、誰も出入りできないと言われている。それでいて、安全都市を守る結界の中心とも考えられている重要な施設である。


 塔の周りを見て回る中で、ラリサが提案した。

「私たちも、これから本格的に冒険者として活動することだし、メンバーを増やすのはどうかな? 特に魔法使い。うちのパーティーには魔法使いがいないでしょ」


 シャルも頷いた。

「確かに、魔法使いの存在は不可欠だね」


「どうやって探した方がいいかな? ギルドに頼むとか?」

「うーん、簡単じゃないと思う。魔法使いって、戦士より希少だし。腕の立つ魔法使いが、銅級のパーティーに入ってくれるとは、思えないね」


 二人のやり取りを聞いていたクラレンスが口を挟んだ。

「とりあえず、銀級に昇格してから考えよう」


 クラレンス自身も、今の編成で足りないものは、魔法使いだと感じていた。

(魔法使いが加われば、ようやく本物の冒険者パーティーが完成するってことだね。どんな人と出会えるのだろう……)

 クラレンスは魔塔を見上げて、胸を高鳴らせ、新たな仲間の姿を想像した。


         ***     ***


 それからしばらくの間、クラレンス一行は、銅級の冒険者向け依頼をこなして過ごした。2、3日ほど〈混沌の地〉へ赴いて狩猟した狼型の魔獣をギルドに引き渡したところで、ギルドマスターから面談の申し出があった。


 アルカセン冒険者ギルドのギルド長、エトモンは礼儀正しくクラレンスたちを迎えた。

「キヘンナのギルド長からの紹介状は、確かに拝見いたしました。皆様のことを非常に高く評価していまして、特に信頼に足る方々だと強く記されてありました。それで、実はお願いがございまして……」


 エトモンが彼らを呼んだのは、ある依頼を託したいからであった。

 〈混沌の地〉は、安全都市を除けば、植生や地形が不規則に変動する土地であるが、例外的に安定した地域も安全都市の周辺には存在していた。


 アルカセンの北に広がる湿地もその一つである。環境は比較的一定で、大型の危険魔獣が出現することも稀なことから、主に下級冒険者や都市の貧しい者が薬草や薬用ヒル、魚類などを採取しながら生計を立てる土地だった。


 だが、最近になって、その地域で失踪する者が急増していた。〈混沌の地〉である以上、多少の事故は珍しくはないが、今回はその頻度と規模が明らかに異なっていた。


 ギルドは当該地域を危険区域に指定し、立ち入りを控えるよう警告したものの、生計のために向かう者は後を絶たない。状況を重く見たギルドは、銅級のパーティーに調査を依頼した。しかし、二組は帰還せず、もう二組からは「特に異常なし」との報告が届いたものの、その内容には信憑性が乏しかった。


 そこで、銀級パーティーに依頼しようとしたが、「報酬が見合わない」と何度も断られていたのだった。木級や鉄級といった下級冒険者が活動するような地域であり、大型魔獣の狩猟もほぼ期待できない。そのため、ギルドとしても、探索だけのために高額の報酬を用意するのは、難しい状況であった。


 ギルド長の話を聞いていたラリサは、内心ですぐに状況を整理した。

(要するに、金にもならず、時間ばっかり食って、死ぬほど大変なクエストってわけね。そんな面倒ごとを引き受けるお人好しがどこに……)


「困っている人たちがいるのなら、当然助けるべきでしょう」

 クラレンスの凛とした声が響いた瞬間、ラリサは唇を噛みしめた。

(……いたわ。そんなお人好しが……すぐ隣に……!)


 クラレンスが快く依頼を引き受けると、エトモンは大いに喜び、今回の探索で成果を挙げれば、なるべく早く銀級への昇格を取り計らうと約束し、前金も渡してくれた。


 ギルド長との話を終えて館を出たクラレンスは、ザヴィクに向かって言った。

「今回は少し時間がかかりそうですから、食料と水を20日分ほど準備しましょう」


「えっ、湿地で20日もいるつもり!?」

 ラリサが目を剥いて叫んだ。


「探索じゃない? ちゃんと調べようと思ったら、それくらいはかかるよ」

 平然と答えるクラレンスを見て、ラリサは肩をがっくり落とした。


 クラランスの異様なまでに冴える直感を知っている彼女には、〈本当に20日間も沼地を彷徨う羽目になる〉という暗い予感が押し寄せてきた。


 誰か一人でも反対してくれないかと、淡い希望を込めて、ザヴィクとシャルをちらりと見たが、クラレンスの判断には無条件で従うザヴィクは言うまでもなく、シャルまでもが当然といった様子で頷いていた。


「20日分となれば、入念に支度せねばね」

 シャルの言葉を聞いたラリサは、しょんぼりと地面を見つめた。


(……やっぱり、うちのパーティーに入りたがる魔法使いなんていないわよね。魔法使いって、ポーションだの護符だの、何かとお金がかかるって聞くし。

 こんな、金儲けとは無縁のパーティーに、誰が好き好んで入るっていうのよ……。

 はあ、それにしても、どうやって沼地で20日も耐えろっていうの……)


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