5. 4人の男
一方、シャルは群青の神官服をまとった男と堂々と交渉を進めるラリサの姿に感嘆していた。相手の只者ではない雰囲気にも関わらず、ラリサは一切ひるむ様子を見せなかった。
シャルの背後では、案内役のコービンと騎士たちが、その男を見てひそひそと話し合っていた。
「ねえ、あの人って、もしかして〈群青のハミツ〉じゃない?」
「本当か? 絶対に倒せないって噂の、あのブルカス級冒険者のハミツ?」
「そうかもしれませんね……体格も、雰囲気も」
「間違いない。あの3つの紋章を全部持つのは、ハミツしかいない」
その言葉に、シャルは大きく目を見開き、男を改めて注意深く見つめた。
〈木・鉄・銅・銀・金〉と続く冒険者の等級の中で、最上位に位置するブルカス級は、〈神の金属〉を除けば、中界で得られる最高級の金属・ブルカスに由来する名前であった。
ブルカス級冒険者は、いかなる時代でも混沌の地の南北を通じて20人足らずしか存在しない、極めて希少な最強の戦士である。
シャルも聖騎士学校でハミツの名を耳にしたことがあった。『不屈のハミツ』と呼ばれるその理由は、彼の圧倒的な戦闘力に加え、戦闘神官として数々の加護をかけられるばかりか、強力な回復術師として自らと仲間を癒やしながら戦えるという、非常に珍しいタイプの戦士だからである。
そのハミツが、今、自分の目の前にいる―まさに伝説と相対している気分だった。
(あんな相手に対して、堂々と……すごいよ、ラリサ)
やがて交渉を終えたラリサがこちらへ戻ってきた。
「4対6。こっちは4ってことで決まりました。頭は向こう、足2本と胴体の皮はこっち。内臓は半分ずつ。肉は……」
ラリサはザヴィクに交渉の結果を伝え、解体作業のために彼と共に魔獣の方へ戻っていった。向こうでは、ハミツが袖をまくって解体の準備に取りかかっていた。
その時、赤髪の男が馬から降りて魔獣に近づき、矢を引き抜いて黒髪の男の元へ戻り、それを手渡した。その光景に、人々は再び驚きの声を上げた。
「ハミツさんが、自ら解体を始めるなんて……?」
馬に乗っている若い3人の男は、一切動く気配がなかった。
「ハミツさんを働かせるなんて、あの人たち……一体何者なの?」
騎士の一人が呆れたように呟いた。
ザヴィクとハミツが解体を始めるのを見た騎士らとコービンは、慌てて道具を手にその場へ駆け寄った。
「私たちも手伝います!」
「……ブルカス級冒険者のハミツさんですよね?」
「お目にかかれて光栄です!」
皆、緊張と興奮を隠しきれずに、ハミツに挨拶し、何とか会話しようと懸命だった。筆頭騎士であるタナンやオランド・クロダインも例外ではなかった。多くの人々が加わったことで、解体作業は思いのほか順調に進んでいった。
馬に乗った3人の男の視線は、魔獣ではなくクラレンスへと向けられていた。
赤髪の男が感嘆の声を漏らした。
「見事な腕前だ。本当に一太刀で奴の頭を両断していたよ。あれほど凶暴で巨大な魔獣が正面から突っ込んできたというのに、怯まず一撃で仕留めるとは……」
黒髪の男が問いかける。
「カイエン、お前なら、どうしていたと思う?」
「俺か? 正直、あそこまでの度胸はないな。ああいう状況で初撃を外したら命取りだろ? まずは横に転がって避けてから、反撃に出たと思う」
カイエンは苦笑しながら、飾り気のない口調で答えた。
黒髪の男はクラレンスの鎧をじっと観察しながら、静かに呟いた。
「腕もさることながら……あの鎧、継ぎ目が一切見えないな。人間の鍛冶ではあるまい。ドワーフの作か?」
エルフの男が口を挟む。
「あれは、神の武具だ。それも、大神級の存在が自ら鍛えたものに違いない」
それを聞き、2人の男は驚いたように目を見開き、さらに真剣な眼差しで、クラレンスを見つめた。
カイエンが言う。
「兜に太陽の紋章、胸甲には黄金の天秤。そして、逆三角形の赤き大剣……伝説に語られる〈太陽の勇者〉そのものだな」
「太陽の勇者? あれは西大陸に伝わるただの伝説ではなかったか?」
「まあ、最後の太陽の勇者が現れたのが400年前だと言われているから、そう思われても仕方ない。ただ、あれが巧妙な模造品でないとしたら、確かに伝えられている姿によく似ている」
再びエルフが言った。
「神の武具だと言っただろう? それに、〈太陽の勇者〉は伝説ではなく、実在の存在だ。我々の中には、かつて彼らと交誼を結んだ者もいて、その存在を知っている。我々エルフの記録では、古代の魔法帝国よりもさらに古くから存在していたとされている」
二人の男はさらに驚いた。
「そこまで古い存在だと?」
カイエンが信じられないという顔で問いかけた。
「遥か昔―人間の間にまだ秩序も道徳もなかった、混沌の時代から続く者だと言われている」
黒髪の男は、クラレンスの仮面をじっと見つめたまま、呟くように尋ねた。
「セイド、あの鎧の中にいる者がどのような人物か、分かるか?」
エルフのセイドは、首を横に振った。
「まったく分からない。あの鎧には、神の御意が宿っている」
「……実に興味深い」
男の灰色にかすかに緑を帯びた瞳が、微かに光を放った。
「少し、声をかけてみようか?」
カイエンの提案に、男は首を振った。
「今は人が多すぎる。それに、何か任務の途中のようにも見える。あの騎士の状況をもう少し調べて、適切な機会を設けよう。
それより、後で〈太陽の勇者〉について、詳しく聞かせてくれ。子供の頃に書物で読んだことはあるが、単なる伝説として受け流していたからな」