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太陽の勇者、満月の騎士、そして天秤の守護者  作者: 星を数える
第2章 出会い
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2. 初依頼(1)

 4人は満足そうな気分で、近くに野営の準備を始めていた。片目鳥の記念映像を撮れただけでも、この地まで旅してきた甲斐があったと、誰もが思っていた。


 簡易テントを張り、火を起こして囲み、夕食の支度をしていると、シャルがクラレンスとラリサに提案した。


「安全都市に着いたら、ドワーフの鍛冶屋か宝石店に行って、この魔石を4つに分けて、一人一つずつ持つのはどう? そうすれば、遠い未来にまた集まった時、今日撮った映像を一緒に見られるから」


 クラレンスは別の案を出した。

「それより、片目鳥を捕まえて、今日の映像をコピーして、みんなで一つずつ持つことにしましょう」


「そのほうがいいかもね。でも、ほんとに捕まえるつもり?」

「挑戦してみたい。レオン大王の冒険譚にも出てくるものだし」


 クラレンスの言葉に、ラリサが笑った。

「本当にレオン大王のガチ信者なんだね」


 その時、誰かが一行に近づいてきて声をかけた。

「すみません、少しお話よろしいでしょうか?」


 先ほど〈片目鳥の目〉を撮ってくれた男性だった。一行が視線を向けると、彼は軽く会釈し、少し離れた場所にいる人々を指さした。


「私は、コービンと申します。あちらにいらっしゃる方々をお連れして、混沌の地の旅を案内しています」


 コービンの用件は、クラレンスたちを近くの安全都市アルカセンまでの護衛として雇いたい、という依頼だった。元々護衛をしていた冒険者パーティーがいたのだが、ここへ来る途中で魔獣との戦闘に巻き込まれ、何人かが毒にひどく冒され、旅を続けるのが難しくなったという。


 コービンの雇い主は、アルカセンで別の一団と合流する約束があり、あまり足止めされるわけにはいかない事情があった。そこで、アルカセンまで同行しつつ護衛を務めてくれる者を探しているのだった。


「話は分かりましたが、どうして私たちに声をかけてくださったのですか?」

 クラレンスが不思議そうに尋ねると、コービンは照れくさそうに頭をかいた。


「実は、私がお願いしたのです。なんとなくですが、騎士様は信頼できる方だと思いまして」


 クラレンスたちもアルカセン方面に向かう予定だったため、問題はなかった。むしろ道中で報酬が得られるなら、歓迎すべき話だった。最終的には雇い主の判断にかかっているが、とりあえず話を聞いてみようということで、一行はコービンについて、彼らのキャンプへと向かった。


 コービンの依頼主は、東大陸の大国・ブレイツリー帝国の貴族だった。結婚して間もない若い夫妻と、その護衛騎士たちが一堂に集まっていた。


「ちょうど、この方々もアルカセンへ向かう途中とのことです」

 とコービンが説明すると、貴族の男性は、クラレンスをじっと見つめた。


「見事な武具ですね。コービンさんの推薦もありましたし、遠目からでも只者ではないと感じさせる鎧ゆえ、お願いさせていただいた次第です」


 護衛の騎士の中で隊長格と思しき男が口を開いた。

「冒険者とお見受けしますが、失礼ながら、等級は何でしょうか?」


「銅級であります」

 クラレンスが率直に答えると、貴族と騎士たちの間に微妙な落胆の空気が漂いかけた。


 ラリサがすかさず言葉を添えた。

「今回が初めての混沌の地なので、そのような等級なのです。ですが、等級査定の際には、銀級の冒険者に勝利しましたし、つい先日もバイソン型の魔獣の群れを討伐しました」


 ラリサの説明に、空気が一変した。貴族の男が興味を示す。

「バイソン型魔獣の群れを、ですか? いったい、何頭討ったのです?」


「全部で34頭です」

 皆が驚きの表情を浮かべた。


 コービンが慎重に尋ねた。

「いくつのパーティーの連携だったのですか?」


「私たち以外は、すべて鉄級と木級でした。クラレンスが前線を受け持ち、私たちが後方支援と止めを担当しました」


 人々の驚きは、さらに大きくなった。説明通りなら、実質的にはクラレンスたちのパーティー単独での討伐に等しい。


 先ほどクラレンスに質問した騎士が、貴族の男に小声で告げた。

「もしあの話が事実であれば、実質的には金級と見なして差し支えないでしょう」


 貴族の男は信じがたいといった面持ちで首をかしげた。

「一般の人ならいざ知らず、エオネスの神官が嘘をつくとも思えぬな……」


 騎士は、さらに貴族の耳元で何やら囁いた。貴族がうなずくと、騎士はクラレンスに向き直って丁重に言った。

「もしご無礼でなければ、私と模擬戦をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 クラレンスは横目でラリサを見た。ラリサは目を輝かせ、信頼に満ちた視線を送っていた。


 さらに、鎧も、同意を促した。

 ― こういうのは避けられないよな。今回は我に任せておけ。


(私の実力じゃ、まだ足りないってことなの?)

 ― お前の腕も心配だが、それより周りの目だ。〈神意を継ぐ者〉は畏れられる存在でなければならない。人前でみっともない姿を晒すわけにはいかん。


(……何それ? 見栄を張るわけ?)

 ― は? 見栄だと? イメージ戦略だ、このバカものが。


 ここは観光地も兼ねた遺跡地帯であったため、野営地には他にも多くの旅人がいた。突如始まる模擬戦に、人々の注目が一斉に集まっていた。


 距離を取って、二人の男が対峙した。模擬戦に入る前、騎士が名乗りを上げた。

「ブレイツリー帝国、クロダイン伯爵家の筆頭騎士、タナン・プレヒトと申します」


「カシアム王国のクラレンス・リーベンフロインです」

 タナンが剣を抜き放ち、黄金の騎士は真紅の大剣を片手で握り、前方へと構えを取った。


 目の前の黄金の騎士を見据え、タナンは内心で戸惑いを覚えていた。少し前までは、見事な武具を持ちながらも経験の浅い若者と見なしていた。だが、こうして対峙してみると、その佇まいには一切の隙がなかった。ただ剣を構えているだけなのに、迫り来る威圧感と重厚な気配は圧倒的だった。


(下手に踏み込めば即座に反撃を受ける……小手先の技では通用せん相手か)


 タナン自身、かつて混沌の地で銀級冒険者として活動しており、実戦経験も豊富だった。直感的に「勝てない」と悟っていた。とはいえ、主君の目前で筆頭騎士として無様な敗北を晒すわけにはいかない。


 しばし思案した末、タナンは声高に提案した。

「これはあくまで模擬戦。ならば、こうしてはいかがでしょうか? 私の一撃を受け止められた時点で、勝負を終えるということで」


(ん? このセリフ、前にも聞いたような……ギルドの査定官と同じじゃない?)

 クラレンスが訝しむと、鎧が口を開いた。


 ― なかなか老練で判断も早い。筆頭騎士の名は伊達ではないな。長引かせることもあるまい。受け入れよう。


 黄金の騎士が頷くと、タナンは構えを取り、全身から闘気を高めていく。彼の手元から淡い光が生まれ、それが剣身を伝って流れた。


 彼の姿を見て、周囲の騎士たちは緊張して囁き合った。

「ちょっと、あれは危ないんじゃないか? 下手すりゃ相手が死ぬぞ」

「本気だな、完全に」


 仲間の言葉どおり、タナンは自身が放てる最大の一撃を選んだ。力、速度、機動力のすべてを限界まで引き上げてから、彼は走り出した。


 剣を横に構え、ジグザグに走って黄金の騎士へと迫る。間合いに入った瞬間、タナンは身を低く落とし、片膝を地に着ける姿勢から、渾身の力で剣を斜め上へと振り上げた。


 一瞬の加速と強烈な力を同時に乗せたこの一撃は、敵の胴を狙う高難度の技であり、一対一の戦闘では致命打となるものだった。


 しかし、黄金の騎士はこれを避けず、右手に握った大剣を振り下ろし、タナンの剣を打ち据えた。


 重い衝撃でタナンの腕が内側に捻じ曲げられた。次の瞬間、騎士のもう一方の手が、彼の首筋の目前で止まった。


 タナンの背中に冷や汗が流れた。あの大剣にもう少し力がこもっていれば、あるいは騎士の左手が突き刺さっていたら─これが模擬戦ではなく、命を賭けた真剣勝負だったら─彼は確実に死んでいた。


 あの重厚な鎧をまといながら、この巨剣を片手で振るい、なおかつあれほどの速度を出せるとは……タナンは呆然とした。


「見事なお手前、まさに一学ばせていただきました」

 タナンは、きちんと礼を正して頭を下げた。捻じられた腕は激しく痛んでいたが、顔には出さず、あくまで冷静を装った。


 貴族の男、オルランド・クロダインは、深く感銘を受けたようだった。

「これは……思いのほかの強者でしたな。プレヒト殿の一撃を受け止めるとは」


 彼は、クラレンスたちのパーティに喜んで護衛を依頼したいと申し出、銀級パーティに相応する報酬を提示し、夕食まで提案してきた。


 ラリサはタナンの怪我を治療しながら、彼の忍耐力に内心で舌を巻いていた。

(これ、すごく痛いはずなのに……このおじさん、我慢強すぎでしょ。私だったら、号泣レベルだわ。体面を守るって、本当に大変なことだね)


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