18. 魔獣からの救出
腹痛から回復し、冒険者としての生活に戻ったクラレンスたちは、夜明けとともに城門を出て、日が暮れる前に戻るという薬草採取の日々を続けていた。クラレンスのパーティーに同行する初心者冒険者や子供たちの数は、最初よりもかなり増えていた。
それでもクラレンスは、彼らを拒むことなく、薬草でも果実でも、小型魔獣の狩りでも、皆で分け合えるように常に十分な量を用意していた。そうしてキヘンナでの生活も、いつの間にか20日あまりが過ぎていた。
ある日、いつものように先頭に立って混沌の地の奥へと進んでいたクラレンスが、ふいに足を止めた。黙って立ち尽くす彼に、シャルが問いかけた。
「どうしたの? 何かあるの?」
「誰かが助けを求めている。先に行くから、ゆっくりついてきて」
そう言い残すと、クラレンスはどこかへ向かって走り出した。
シャルとラリスたちがその後を追っていると、本当に助けを求める女性の声が聞こえてきた。
「助けてください! お願い……誰か……助けて!」
切羽詰まった叫びと嗚咽が入り混じった、悲痛な声だった。
クラレンスがたどり着いた先には、大きな岩を背にして蹲る一人の女性がいた。そしてその周囲を、ハイエナのような姿をした魔獣たちが取り囲み、今にも襲いかからんとしていた。
女性の身体の周りには防御結界が張られており、辛うじて魔獣の攻撃を防いでいた。だが、その女性はもう限界に達した様子で、結界も今にも破れそうなほど不安定に揺らいでいた。
「シャル、ここでラリサと他の人たちを守って」
クラレンスは黄金の盾を召喚し、ザヴィクや初心者の冒険者らの前に立ち塞がるように展開すると、前へと駆け出した。
― もう、これくらいの奴らはお前一人で対処できるだろ? 実戦を通して鍛えるのが一番だ。
(人を救わなきゃいけない戦いなんだ。もし失敗したら……)
― だからこそだ。人を守り、救う戦いこそ、神意を継ぐ者の本懐であろう。
クラレンスの脳裏に、パノラマのように状況が浮かび上がった。魔獣の数は12体。前には窮地に陥った女性が、後ろには仲間と守るべき初心者冒険者と子どもたちがいる。
(レオン大王のような立派な騎士になるって誓ったんだ! これは私の戦いだ!)
決意を固めたクラレンスは魔獣の群れへと飛び込むと、大きく足を踏み鳴らして彼らの注意を引いた。魔獣を自分の方へと誘導し、仲間や人々の方へ行かせないつもりだった。
「おおおっ!」
クラレンスから、低く唸るような雄叫びが響き渡った。その声に、魔獣の様子が一変した。12体すべてが鼻面に皺を寄せ、激昂した眼差しでクラレンスを睨みつけ、彼を中心にして包囲してきた。
(こいつら、なんで急に……?)
注意を引こうとしたのは事実だが、あまりに明確な効果にクラレンスは驚いた。得意げな様子で鎧が口を開いた。
― フッ、挑発してやったのさ。さっきのお前の声が、奴らにはこう聞こえたんだろうな。「雑魚ども、この俺様の相手にもならん!」
(はぁ!? なんでそんな挑発まで……!? ただでさえ物騒な連中なのに!)
― だからこそだ。奴らの注意をすべてこちらに向けねばな。でなければ、何体かは後ろの方へ行こうとするかもしれんだろ?
(……わかったよ。それはそうだけどさ。このオッサンみたいな声、なに!? 私はれっきとした少女だっての!)
― なら、そのか細い声で、間抜けに挑発するつもりだったか? いいから黙って魔獣どもを相手しろ。来るぞ!
それから、クラレンスは自分に襲いかかる魔獣たちとの激しい戦闘に突入した。ラリスはシャルや周囲の人々に向けて、広域で〈精神力強化〉〈防御力強化〉〈体力強化〉の加護を施した。
何体もの魔獣が一斉に襲いかかる中、クラレンスは一体ずつ集中して打撃を加え、弱った個体を後方へ強く蹴り飛ばすか、あるいは投げ飛ばした。
シャルはラリスの近くを守りつつ、クラレンスの攻撃で体勢を崩した魔獣を確実に仕留めていった。
「僕たちも戦うんだ!」
「騎士さまを助けよう!」
武器を持った初心者の冒険者たちも加勢し、クラレンスが後方へ追いやった魔獣を力を合わせて討ち取った。
クラレンスはなおも魔獣たちを挑発し続け、自分へと注意を集めながら、一体また一体と着実に倒していった。そして最後に残ったのは、ほかよりもひときわ大きな隊長格の魔獣だった。そいつが大きく口を開けて飛びかかってきた瞬間、クラレンスは大剣でその口を塞ぎ、同時にもう一方の手で鋭い手刀を首元へ叩き込んだ。
「ギャウッ!」
悲鳴一閃。長の魔獣は首の骨を折られて、地面に崩れ落ちた。
「わあ〜っ、かっこいい!」
「魔獣を全部やっつけたぞ!」
12体の中型魔獣をすべて討伐したという事実に、初心者冒険者たちは歓喜し、感激に打ち震えた。