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太陽の勇者、満月の騎士、そして天秤の守護者  作者: 星を数える
第1章 冒険の始まり
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13. 初冒険、薬草採集

 翌朝、夜明け前にクラレンス一行は宿を出て、城門の外へ向かう荷馬車に乗り込んだ。早く出発して日が暮れる前に戻るため、時間を節約する必要があったのだ。この時間帯に城外へ向かうのは、主に木級や鉄級の下級冒険者たちで、あどけない子供の姿も見られた。


 城門の外で荷馬車を降りた人々は、なぜかためらうように固まっていた。そして、クラレンスたちが歩き出すと、その後にぞろぞろとついてきた。


 十数人が後ろに続いてくる状況に、ラリサは不思議そうにザヴィクに小声で尋ねた。

「どうして、みんな私たちについてくるのでしょう?」


「クラレンス様の姿を見たからでしょう。薬草採集とはいえ、混沌の地ですからね。運が悪ければ、魔獣に遭遇することもあります。少しでも強そうな人の近くにいれば、安心ですから」


 ザヴィクの説明に、ラリサも納得した。クラレンスの輝く鎧を見れば、誰だって彼を相当な実力者と考えるだろう。


(実際、クラレンスはとんでもなく強いしね。でも、こんなに人が集まって、ちゃんと薬草なんて採れるのかな……?)


 そう思ったとたん、黄金の天秤が不機嫌そうに顔をしかめて、ラリサのこめかみ横の髪を皿でパシンと叩いた。ラリサは原因不明の偏頭痛にこめかみを押さえた。


「ラリサ、大丈夫? どこか痛いの?」

 シャルが心配そうに聞いた。


「ううん、なんでもないよ」

 ラリサは首を振った。クラレンスと出会ってから、時々こうして頭にビリッと痛みを感じることがあった。でも、自分で診断しても異常は見つからなかった。


 シャルは、ラリサの顔を見ながら小首をかしげた。ここ数日の間に、ラリサの雰囲気がどこか以前と違う気がしてならなかった。しかも、これまで見たことのないような、神妙で深い苦悩を抱えたような表情まで浮かべることがあった。


(やっぱり、神意に触れたからだろうな。私も聖騎士として、もっと精進しなきゃ)

 ラリサの頭痛の正体を知る由もないシャルは、ひとり敬虔に心を引き締めた。


 ラリサの現実的な心配を知ってか知らずか、クラレンスは後ろをついてくる人々を振り払おうとはせず、むしろ彼らのペースに合わせて途中で何度も歩を緩め、休憩まで挟んだ。


 軽く朝食をとった後も、クラレンスは先頭に立って歩き続けた。最初は案内役だったザヴィクも、いつの間にか彼の後ろについていた。


「ねえ、クラレンス。どこに薬草があるのか知ってて行ってるの?」

 まさかとは思いつつ聞いてみると、クラレンスは平然と答えた。


「ううん、そうじゃないけど、もう少し行けばあると思うよ」

 なんて行き当たりばったりな返事……。ラリサは呆れたが、ザヴィクもシャルも、文句ひとつ言わなかった。



 後ろをついてくる人々の間では、次第に不安の声が上がり始めた。混沌の地の境界では、脅威となる魔獣がほとんど出ないため、下級の冒険者たちは普通その周辺をうろうろするだけだった。今のように奥へ入っていくのは、非常に稀なことだった。


「ちょっと奥まで来すぎじゃない? 魔獣なんか出てきたらどうするの?」

「でも、あの騎士様がいるし、大丈夫じゃない? 私たちを嫌がってる様子もないし」


「私はあの人について行くわよ」

「僕も!」

 結局、誰一人として離脱することなく、全員がクラレンスの後について行った。



 しばらく歩いた後、ゆるやかな丘の上にたどり着いたクラレンスが、ふと足を止めて後ろを振り返った。


「この下に薬草がたくさんあります。皆さん、どうぞ採ってください」

 丘の下には、薬草の群生地が広がっていた。


「ほんとに、僕たちも採っていいんですか?」

 一人の少年が遠慮がちに尋ねると、クラレンスはうなずいた。

「もちろん。あんなにたくさんあるんだ。さあ、早く行ってごらん」


「ありがとうございます!」

 少年をはじめ、人々は嬉しそうに丘を駆け下り、夢中で薬草を採集し始めた。


「シャル、私たちも早く行こう!」

 シャルの手を引いて丘を駆け下りたラリサは、見張りのように丘の上に堂々と立っているクラレンスを見上げてため息をついた。


「まったく、つい昨日まで旅費を貯めようって言ってた人と同一人物とは思えないわね」

「ふふっ、もともとそういう人だから、仕方ないでしょ?」

 声だけでなく、シャルの仮面までもが笑っているものだった。


 ラリサは何も言わないことにして、薬草採集に集中した。ふと横を見ると、ザヴィクが熟練の手つきで薬草を摘んでいるのが見え、ラリサはぽつりとつぶやいた。

「うちのパーティーでまともな生活人って、私とザヴィクさんくらいしかいないのよね」


 しばらく夢中で薬草を採っていたラリサは、シャルの採ったものを見て思わず、ため息をついた。薬草よりも雑草の方が圧倒的に多かったのだ。


「シャル、これとこれは全部雑草だよ。この薬草を採らなきゃ」

「そうなの? 私には全部同じに見えるけど……」


「よく見て。この薬草はね、葉っぱの裏にこういう白い綿毛みたいなのがあるの」

 ラリサはシャルに丁寧に薬草の見分け方を教え、その場を離れて歩き出した。そしてふと、大きな岩のそばに生えている草を見つけて、興奮してシャルを呼んだ。


「シャル、ちょっと来て!」

 シャルが近づくと、ラリサは手招きして彼女を隣に座らせた。


「これ、すごく貴重な薬草なの。こんなところで見つかるなんて、本当にラッキーだよ。シャル、これ一緒に採ろう。これはね、根っこが大事だから、引っこ抜いたりしちゃ、ダメなの」


 ラリサが見つけた薬草は、薬に使う部分が根で、地中深くに細長い根がびっしりと伸びていた。細い根まできれいに掘り出せば出すほど価値があるため、手間をかけて慎重に採らなければならなかった。


 ラリサが手で薬草の周囲の土を丁寧に掘っているのを見たシャルは、どこからともなく、小さな木箱を取り出した。中には、キリや彫刻用ナイフ、筆のような道具が入っていた。


「これ、使ってみよう」

「えっ、どこからそんなのが出てきたの?」

 ラリサは驚きながらも、さっそくそれを受け取った。二人はそこから慎重に薬草の根を掘り始めた。


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