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第25話 幼馴染と久々の放課後

 峰岸の告白から、数日。


 あれ以来、俺は六華と一言も会話していない。

 こっちから話しかけようとすると猛烈な勢いで逃げられて、その察知能力と逃げ足はさながら野生の猫の如しって感じだ。


 高校入学以来ずっと続いていた、六華との校門での待ち合わせの習慣もすっかり消滅しており……なんて思いながら、帰路についた時のことだった。


「ちょっともうテルくん、遅いですよっ! 美少女待たせ罪で投獄されても文句は言えませんからねっ!」


 たった数日前までは当たり前だったその光景が、なんだかひどく懐かしく感じられる。


「ははっ、悪い」


 元々、この待ち合わせは示し合わせたものってわけでもない。


 だから文句を言われる筋合いもないっちゃないんだが……ま、美少女を待たせてしまった罪は確かにあるようだからな。


「あー……っと」


 六華と話せたら……と、色々と考えてはいたんだけど。


「そのキャラで、いくことにしたのか?」


 とりあえず、真っ先に気になったのはそれだった。


「……はい」


 恥ずかしそうに俯く六華は、かつてを彷彿させる姿。


「結局、これもまた今の私なのだと受け入れることにしました!」


 かと思えば、再会してからはお馴染みのテンションに戻った。


「あとは、なんかもうアレなんですよねっ! テルくんと会うと、半ば以上自動的にスイッチが入ってしまうといいますかっ! こんな身体にした責任、取っていただきたいですねぇ!」


「お前、あんま大声でそういうこと言うなよ……」


 聞き様によっては、なんかヤバい性癖カミングアウトしてる感じになってない?


「とりあえず、場所を変えるか」


 何を話すにせよ、人の目がある校門前じゃやりづらいだろう。


「はいっ、いつものように大人のオモチャ屋さんにですねっ!」


「自らそっちに寄せていくのやめてもらえる!? ていうか、せめてもうちょっとソフトな表現なかったの!?」


「いつもはあんなにハードなのに、ですか……?」


「いつの何の話をしてんだよ!?」


「何って、ツッコミの話に決まってるじゃないですか……えっ、テルくん何の話だと思っちゃったんですかぁ? ヒュゥ、このムッツリぃ!」


「それはお前だけには言われたくないんだよねぇ……!」


「いやいや、何言ってんですか。かつての私ならいざ知らず、六華ちゃんVer.2たる私はエロにオープンなのでムッツリではありませんよ?」


「んんっ、過去も今も余さず的確に自らヨゴしていくスタイルぅ……!」


「あっ……もしかして、テルくんは自らの手でヨゴしていきたいタイプでしたか……? では、貴女の手によってヨゴされた清純なオトメを演じてみせますが?」


「今から演じたところで完全に手遅れだよな!? つーかお前、なんか今日ボケが長くない!?」


「いやぁ、久々だから溜まっちゃってまして……色々と?」


「止まんねぇな!?」


 俺たちの会話に周囲が若干ザワッとしており、何やらヒソヒソと噂されている様子なのが誠に遺憾……では、あるんだけど。


 これまでと同じように六華と会話出来たことに、ホッとした自分がいるのもまた事実なのだった。



   ♠   ♠   ♠



 結局あの後校門前でしばらくウダウダとやり取りを交わした後、俺たちは近くの公園へと移動してベンチに座っていた。


「さて、テルくん」


 若干テンション抑えめ(当社比)で、六華からそう切り出してくる。


「わざわざ衆目に晒されての羞恥プレイを覚悟してまで校門前で待っていたのには、深い理由があります」


「せめて最初の会話で止まっとけば、無駄に衆目に晒されることも無かったはずなんだけどな……」


「テルくん、これから真面目な話をしようって時にプレイの話とは何事ですかっ」


「俺はプレイのプの字も口にしてなかったわけなんだが」


「ハッ……!? つまり、私の口から『プレイ』と言わせるための深謀遠慮だったと!?」


「だとしてたらあまりに浅くて近い策だよ……」


 駄目だ、しばらく間が空いたせいか早くも若干疲れてきた……。


 ……まぁ、とはいえ。


「……ふぅっ」


 なんだか疲労しているのは、六華も同様みたいで。


 恐らくこれも、必要なプロセスなんだろう。


「テルくん」


 本題を、切り出すための。


「バスケ部に、入ってください」


 真面目な顔になった六華は、これまでと一転した静かな声でそう言った。


「本当は、入りたいと思ってますよね?」


「それは……」


 実のところ。

 峰岸のこれまでの説得は、結構効いて(・・・)いた。


 中学時代の俺にとって、バスケはダイエットのための手段でしかなかった……少なくとも、入部時点では。


 だけど、引退する頃には。

 あぁ、もっと続けたいって思い始めてた。


 峰岸の言う通り、ようやく本当に面白さがわかってきたところだったんだ。


 とはいえ。


「入部するにしても……今じゃ、ない」


 この状態で入部するというのは……あまりに、峰岸に近すぎる。

 傍から見れば、俺が峰岸の告白を受け入れた結果だと思われかねないだろう。


 俺自身の心が変わることはないと自負はしてるけど……今、峰岸との時間を増やすっていうのはあまりに六華に……。


「今だからこそ、ですよ」


「……お前は、それでいいのか?」


 正直、六華の考えが読めない。


 まさか、峰岸の告白を受けて身を引こうってのか……?

 って、六華に好かれてる前提で語るのも随分と傲慢な話だが……。


「はい」


 六華は、小さく微笑む。


「月本六華Ver.2は、重さとは無縁の女! むしろこの上なく軽い女です! は!? 誰が尻軽女ですかっ! 私は、十年も一人の男性を思い続ける健気な女ですよ! ってしまった、今の発言は重い!」


「お前、人格三つくらい有してるの?」


 ご機嫌に笑ったかと思えば憤り、最後に嘆く六華。


 ちょっとテンションの寒暖差で風邪を引いてしまいそうである。


「でも……本当に」


 それから、また平静モードに戻ってきた。


「私の存在がテルくんの足枷になっているだなんて、耐えられないから」


「それは違う」


 半ば以上反射的に、否定する。


「俺は俺の意思で選択している。六華のせいとか、六華のためとかってわけでは断じてない」


「でも、私がいなければ入部してましたよね?」


「そんなの、わかんねーよ。中学時代のゲロ吐く程の練習なんかもうやりたくねーな、って思ってたのも事実だ」


 これも、本心からの言葉である。


「テルくんは、相変わらずテルくんですね」


 六華は、どこか嬉しそうにクスリと笑った。


「ご安心を! これは、間違ってもテルくんと峰岸さんにくっついて欲しいとかそう思っての提案ではございません!」


 それから、自信満々に胸を張る。


「むしろ、その逆ぅ!」


「逆……?」


 意味がよくわからず、俺は首を捻った。


「各々が別フィールドでアプローチするというのも、効率が悪いというもの! 古今東西、ライバルは直接対決すると決まっているのです!」


「すまん、話が見えん」


「つまりですねぇ」


 イタズラを目論む子供のように、六華はニンマリと笑う。


「私も、バスケ部に入るということです!」


 そして、ドーン! という効果音でも入りそうなくらい堂々とそう宣言した。


 が、しかし。


「……どういうこと?」


 字面上の意味は理解したと思うが、やっぱりその真意がわからず困惑する俺だった。

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