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青薔薇の花泥棒 ~神隠しの街の怪盗と狙われた花嫁~  作者: 暁光翔
二章「手蔓への渇望、知ってしまった真実」
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青薔薇の花泥棒 六話「足で稼ぐ昼下がり」


 大学に行ったはいいが、欲しい答えは返ってこない。

 レオトポディウムさんについて質問しても、十年近く前に病で奥さんを亡くしたこと、前より研究にのめり込むようになったこと、黒い霧が発生し始めた辺りから新しく執事を雇ったことしか分からなかった。直接的な手掛かりになるようなものは無い。

 教授に尋ねるのが一番手っ取り早いが、あの人が関わっている研究室の教授は今不在らしい。

 いても忙しくて取り合ってくれないかもしれない。

 とりあえず手当たり次第やっていくしかない。

「アメティス、次はあの人に訊いてみようと思うんだけどどうかな?」

 リュビスが指した方には眼鏡で長身の男性。二十代後半くらいの見た目から多分博士課程の院生だろう。院生の方が学部生よりあの人と関わる機会も多い筈。

「いいんじゃないか」

 足早に男性の方に向かうリュビスを追おうとしたところで、後ろから肩を叩かれた。誰だ?

「こんにちは、アメティス君」

 金の巻き髪、水色の瞳の女性。エクマリーヌが俺に笑いかけていた。

 彼女が休日に大学にいるとは珍しい、今週の課題の資料を探しに来たのだろうか?

「あぁ、どうした急に」

「今暇かな? 課題で分からないところがあって一緒に図書室に来てほしいの」

 俺の答えを待たずに、俺の右手を引っ張り強引に連れて行こうとする。

 あの人について質問するのにちょうどいいと思ったが、これでは無理そうだ。

 リュビスと離れるのも調査を中断するのもまずい。適当な理由を付けて彼女から離れなければ。

 突然左腕が引っ張られる。

「アメティス」

 振り向くとリュビスがいた。紅い目がエクマリーヌを少し睨み付けているように見える。

「ごめんなさい、私達用事があるからアメティスを貸すことはできないの」

 睨んだ顔は笑顔になり、優しい声でリュビスは対応する。

「あ、そうなの。こっちこそごめんね」

 エクマリーヌは決まりが悪そうな顔でこの場から去って行った。

 リュビスは安堵の息を漏らした、理由は不明だが。

「そういえばさっきの人に質問したら、あの人の家の場所分かったよ」

「本当か」

「うん。高級住宅街のピヴォワーヌ通りにあるって。屋根も壁も全部が真っ白なお屋敷らしいよ」

 そこに住んでいるのか。人が歩いていればいいが。

「そうか、じゃあ行ってみるか」

「うん」

 サフィールに連絡をして場所を移した。


 ピヴォワーヌ通り周辺に着いた。上品さと豪華さが両立した大きな建物が軒並み揃っており、俺達のような学生には相応しくない場所じゃないかと思う。

 先程と同じように聞き込みをしていく。

 答えは、変わったとこは特に無い、またやつれてきたように見える、執事が優秀、といったことばかりだ。地道に続けていくしかない。

 紫のドレスを身に纏った御婦人に話し掛けてみる。

「失礼、少々お時間よろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

嫌な顔一つせずこちらに応じてくれる。

「お伺いしたいことがあるのですが、レオトポディウムさんに何か変わったことはありませんか?」

「変わったこと?」

「はい、些細なことでも構いません。教えていただけますか?」

 御婦人は少し考えた後口を再び開いた。

「そういえば、毎週日曜日の夜遅くに出歩いているわね。確かファレノプシス通りの方だったと思うわ。多分明日もそこに行くんじゃないかしら?」

 毎週か、そこやその先の場所に何かあるのか?

「今度は私が貴方達に質問してもいいかしら? 何故あの方のことを知りたいの?」

 こんなこと尋ねていたら少しは怪しまれるだろう。

 適当な理由で誤魔化すか。

「教授に頼まれたんです。レオトポディウムさんが最近何かで悩んでいる様子で、それをどうにかしたいと。しかし教授がわけを訊いても教えてもらえなかったので、こうして僕達に理由を探ってほしいと」

 リュビスに同調を求めるように視線を送る。彼女は一、二回縦に頷く。が、目が泳いでいる。

「あら、そうだったの。どうかあの方の力になってあげてくださいね」

「はい、ありがとうございました」

「それでは御機嫌よう」

 御婦人は微笑を浮かべた後、この場を立ち去った。

 肩の力が抜ける。上手く誤魔化せたようだ。

 次はファレノプシス通り、行ってみるか。


 ファレノプシス通りで調査をした後、各地でレオトポディウムさんの目撃情報を耳にした。

 証言を追っていくと、彼の自宅のあるピヴォワーヌ通りから始まり、ファレノプシス通り、アルシミムア通り、ラルノンキュル通り、そしてラヴァミーユ通りに辿り着いた。

 ラヴァミーユ通りの先は治安の悪い通りばかりだ。

 彼はそれらの何処かに向かっているのだろうか?

 引き続き聞き込みをしていく。

 何人かに尋ねて空振りした後、黄色い服の御婦人に話し掛けた

「失礼、少々お伺いしたいことがあるのですが」

「えぇ、いいわよ。ってあら、よく見なくてもいい男。側にいるお嬢さんは彼女かしら? 訊きたいことってなぁに? おすすめのデートスポットの行き方とかかしら? ごめんなさいね、おばさん今の若い子の流行には疎くて」

「い、いえ、違います」

 ここで止めないと一方的にマシンガントークを喰らうことになる。

「訊きたいことというのはレオトポディウムさんについてで、毎週日曜の夜遅くにこの辺りを歩いているみたいなのですが、何か知りませんか? 何処に向かっているかとか、誰と会っているかとか何でもいいので教えてください」

「あの人についてねぇ……、あ、あるわよ。おばさん一ヶ月くらい前に用事があってその時見たのよ、彼がリュカ通りに入っていくのを」

 リュカ通り、神隠しが起きてからそこは、指折りの治安の悪さだ。ガラの悪い奴らが跋扈し、そこに住む善人は奴らに怯えながら過ごしている。毎日のように傷害事件が起こり、警官が駆けつけている。この街全体の傷害事件数は神隠しが始まって以来増加し続けているが、ここは特に多い。

「あそこに何の用があるのかしら? 支援や寄付だったら大きな荷物がある筈だし、使用人ももっと連れてくるだろうし、不思議よねぇ……。おばさんが話せるのはこれくらいよ。役に立てれば嬉しいわ」

「はい、ありがとうございました」

「ふふっ、それじゃあね。デート楽しんで」

「いや、デートじゃないです……」

 御婦人は俺の言葉など何処吹く風といった感じで此処を去って行った。

 デート中に聞き込みする奴なんて普通はいない。そもそもこれはデートじゃない。

 リュビスの方に目をやると、彼女の頬がほんのり赤く染まっているように映った。

 これは、もしかして――。

 いや、俺の都合の良い妄想でしかない。彼女が俺のことをどう思っていようが今の俺じゃ彼女の手は取れない、取るべきじゃない。そんなもの、消してしまえ。

「どうしたの?」

「あ、いや、ある程度情報も集まったし、一度整理しに戻らないか? リュカ通りに無闇に入るのも危険だ」

「うん、分かった。お腹も空いたことだし戻ろっか」

 今まで通って来た道を引き返した。


 リュビスの家に戻り少し遅めの昼食を摂りながら、次にすべきことを相談する。

 サフィールにも来るように言ったが、アイツは衣装の隠し場所を探したいとのことで帰ってきていない。まぁそっちも必要なことだ、仕方ない。

「リュカ通りで聞き込みか。多分タダじゃ教えてもらえないよね……」

「それだけならまだいい。金や物を取られるだけ取られて何の情報も得られず損するだけの可能性もある」

 それにあそこの不良どもにリュビスが何をされるか分からない。集団で襲い掛かってきた場合、人数にもよるが守り切れる保障は無い。連れて行くべきじゃない。

 神隠しが起こる前なら問題なかったんだが。

「あと、あの辺りって道がかなり入り組んでるし、障害物も多いから、そもそもレオトポディウムさんを目撃している人はかなり少ないと思う。もしかしたら片手で数えられるくらいかもしれない」

 今までのように質問していくだけでは十分な情報は得られないのは確か、他の手段が必要だ。

 それならこれしかやれることは無いだろう。

「俺が明日直接あの人を尾行すれば何か分かるかもしれない」

「大丈夫なの?」

「心配するな、戦いに行くわけじゃない。見つかりそうになったら引き返す。大丈夫、ちゃんと戻る」

 リュビスは眉を顰めたままだ。今までいろいろあったしな。

「……分かった。危なくてもそれが必要なら仕方ないよね」

 渋々だが了承を得られた。

「何か私にできることはある? 一緒に行くのは駄目だよね、逆に足手まといになる」

「尾行する時複数人でいたら見つかりやすいからな。人がいる場所への潜入は基本俺一人でやる」

 無闇に彼女は連れ出せば危険に晒すことになる。他にできることといえば。

「そうだな。昨日の衣装があるだろ? あれの隠密・消音効果の機能を補強してほしい」

「分かった、君を守れるように最善を尽くすよ。ご飯の片付けが終わったら早速取り掛かるね」

「あぁ。頼む」

 明日の夜まで時間が無い。俺もできる限りのことをしよう。



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