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青薔薇の花泥棒 二十七話「箱の中身は?」

 神殿から戻ってきて一晩休んだ。

 起きて朝食を終えた後すぐに持ち帰った箱や本を調べる。

 今回持ち帰った物で最も気になるのはやはり黒い箱だ。二人が本を解読している横で仕掛けを弄っていく。

 箱の面をずらしたり、ボタンを押したりして法則を探すこと数十分、ようやく蓋が動いた。

「二人とも、開いたぞ」

「おぉ! でかした! 中身は何なんだ?」

 箱の中から白い物が覗いているため、それを引っ張り出してみる。

 手紙のようだ。イニシャルやシンボルの刻まれていない封蝋で封印されている。

 ペーパーナイフで封筒を切り便箋を取り出す。

「これは」

 息を飲んだ。思わず強く握る、紙に皺ができてしまった。

「え、ちょ、何が書いてあったんだよ」

 二人も手紙に顔を近付ける。

「はぁ? マジかよこれ!」

「これ本物なの?」

 二人とも目を見開いている。

 この紙に記されているのは、黒い十字架の効果を打ち消す呪術の手順や使用する薬についてだ。

 また、これだけでは十字架の効果しか防げないことも書かれていた。他の道具や邪神が掛ける行動不能の呪いに完全な耐性を持つのは花嫁衣装と新郎の衣装だけだそうだ。

 それだけなら別に驚くようなことではない。

 問題はそれが公用語で、かつ見慣れた文字で書かれていたということだ。

 特に俺は何年も目にしている。

 だがこれは記憶と照らし合わせただけだ。本物と比較しなければそうであるとは断言できない。

 父さんの手記を手に取りページを捲る。何度も見比べる。

 あぁ、やっぱり。

「これは父さんの字だ。どう見ても一致している」

「ここまで似ていたら本物と信じるしかないね。でもそしたら、誰が隠したのかという疑問が生じる」

「埃の積もり具合から判断するにやったのは最近っぽいな。となると博士は組織に見張られてっから、まぁ無理だな。てなると博士の知り合い、それも博士からこの手紙を貰えるほど信頼されてる奴がやった可能性が高いな。アメティス、何か心当たりあるか?」

「俺が把握してる人物の殆どは既に神隠しに遭っている。残った人物も老人で、神殿まで移動できるほどの体力は無い」

「じゃあお前が知らねぇ誰かなのか。博士の知り合いならこの街周辺を探せば見つけられそうだな。何処かに隠されている博士の日記とか手記にソイツの情報が載ってるかもしれねぇ」

「その可能性はある。だが、何処にあるのかヒントすら無い。地中に埋められている場合だってある」

「うーん、総当たりは無理だな。封筒に何か入ってねぇかな」

 サフィールは封筒に手を突っ込んでひっくり返した。

 リュビスは手紙を見つめている。俺も一緒に目を通す、裏面も確かめる。

 お互い首を振る、何も得られなかった。

「その人は自身に危機が迫っていたからこの手紙を託したってことかな? 私達と連絡を取るつもりなら、何か手掛かりや暗号を残す筈」

「合流する気が無い可能性もあるが、その人物が味方なら今の状況から考えるにほぼ無いだろう。一部の花嫁衣装や宝具はヴォルール・ド・マリエの元にある。組織は花嫁、お前を探している。そのことやヴォルール・ド・マリエの正体を知っているのなら、俺達と協力するべきだと判断するだろう」

「そうだな、組織止める気があんならリュビスを守りにくるよな。そうしねぇってことは何かがあったってことだろ」

 最近、一ヶ月から三ヶ月前の内のどこかのタイミングで神隠しか奴らによる拉致の被害に遭ったのだろうか。

 ん? 父さんの知り合い、最近隠した、何か引っかかる。

「どうした? 

「いや、父さんの知り合いで、かつ花嫁衣装などの知識を教わっているのならもっと前に俺達に接触してくると思ってな。ヴォルール・ド・マリエの犯行は二年前から新聞の記事になっている。これだけの条件が揃っているなら、早い段階で正体が俺だと気付きそうだが」

「あーそう言われるとそんな気がすんな。じゃ、博士の資料を偶然見つけた奴がやったとかか?」

「博士がそんな簡単に発見できる場所に隠すかな? 他の可能性、組織が神殿に来た時博士が隙を見て隠したのも無さそう。監視が非常に厳しいだろうし、そもそも外に出してもらえないだろうし」

「うーん考えれば考えるほど分かんなくなってくなぁ。博士が組織の奴らにこの手紙無理矢理書かされたとかもありそうだしよ。そうなると手紙の情報鵜呑みにすんのはマズいよな」

 俺達を罠に嵌めようとしている可能性だって有り得る。

 でも俺達を排除するならそんなことせずにもっと確実な手段を選ぶだろう。

 しかし発見した場所は奴らが既に調査した場所だ、何があってもおかしくない。

 疑いだすとキリがない。

「兎に角、すぐにこれを試すのは止めた方がいいな。古文書を調べてこれと同じような記述が載っているのを確認してからだ」

「了解!」

「分かった。これだけ本があるんだし、真偽が分かるのは割と早いんじゃないかな?」

 山積みになった本に視線を移す。これだけあれば何かしらの情報は得られるだろう。

「だな! 早速片っ端から翻訳、っと思ったけど俺から共有しときたいことがあんだ」

「あ、私も。アメティス、いい?」

「あぁ、俺も知りたい」

「じゃ、情報共有といこうぜ! 俺が先でいいか?」

「うん、どうぞ」

「ありがとな。俺の読んでた本には宝具、ハイヒールの隠し場所について書いてあった。地図だとえーっと、此処だな。この街から西に六十五キロ離れた山の洞窟の地下にあるらしい。地下で試練を達成するとゲットできる」

「その試練って何だ?」

 少なくとも絡繰り錠の開錠では無さそうだ。

「魔法で作られたモンスターを全部ぶっ倒す、それが試練だ。内容は三つに分けられる。最初に大量の雑魚モンスターを全滅させる、次に人型を倒す、最後にドラゴン並の大型モンスターをボコボコにする、詳細はこんな感じだ」

「そのモンスターについての情報はあるか?」

「おう、一応な」

 そのページを捲りながら見せてくる。

 剣を装備している個体、防御が堅い個体、氷属性の魔法を得意としている個体、その他の個体もそれぞれ特徴を持っている。

「因みにこの本に載ってないヤツも出てくるらしい」

「つまり完全に対策を立てることは無理ということか」

「そういうことだな。まぁでも雑魚ラッシュは組織で一回経験してるし、黒十字みてぇな反則級の魔法とかが発動されねぇ限りは何とかなんだろ」

 奴らとはだいぶ違う気がするが。各モンスターの能力は奴らの能力を僅かだが上回っているようだ。また人型、大型については記されていない。あの時ほど簡単には突破できないだろう。

「俺から話しときたいことはこんくらいだな。リュビス、次いいぞ」

「了解。私から共有したいことは、新郎の衣装の一つ、ラペルピンの隠し場所について。地図だと此処、街から南に八十キロ離れた森の中に塔があって、そこの頂上に隠されているみたい。衣装は謎解きとモンスター、両方に守られているみたい。謎解きの半分くらいは古城のやつと似てるよ。もう半分は弓や剣とか、武器・道具を使った謎みたい。どっちも即死の罠は無いよ」

 安全が確保されていることに一先ず胸を撫で下ろす。

 道具がいるのか。リュビスが例に挙げたことから、弓と剣は必須なことは分かる。

 その謎が技術を求めてくる物なら少々厄介だな。剣なら俺、槍ならサフィールが対処できるため問題無い。得意武器以外を用いる謎がマズい。普段扱わないため技量は二人とも平均以下だ。複雑な技術を要求された所為で答えが分かっているのに次へ進めない、といったことが起こりうる。

 使用武器について調べて腕を磨いておいた方が良さそうだ。

「謎解きの方はある程度分かったから置いといて、モンスターの方はどうなんだ? 種類は一緒なのか?」

「少なくとも本に載ってたのは全部そっちの本にあったのと同じだよ。人型や大型については書いてないから分からないけど。あ、そうそう、最上階には衣装を守る大型モンスターがいるんだけど、ソイツと一対一で戦って勝たないといけないみたい」

「一対一ってそこそこしんどくね?」

「強さや弱点、モンスターの特徴についての情報が一切無いまま挑むのは確かに不安だな」

 三人ならまだ何とかなったかもしれない。三人のうち誰か一人でもモンスターに有利な攻撃手段を得意としていれば勝機はある。

 しかし一人でやるとなると不利だ。相手に効果的な攻撃手段を持っていなかった場合それだけで厳しい戦いになる。また、攻撃や回復などを全て一人でやらなければならないため負担が大きい。

「この本のタイトルを訳したら、『知勇弁力の塔・上巻』って書いてあったの。だから、下巻に大型モンスターの情報が載っているかも」

「成程な。もしかしたらこの中にあるかもしれねぇ、早速探してみようぜ!」

 三人で本の山を手分けして翻訳していく。

 十五分程で全て終わった。目的の本は見つからなかった。

「うーん、やっぱりそう都合良くいかねぇよな」

「そうだな。だが、教会や図書館の本はまだ調べていない」

「そっか、そこにあるかもしれないもんね。明日から探してみよう」

 次の日からの方針を立てた後、情報収集を再開した。

 これからは今までと違って一筋縄ではいかなそうだ。

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