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青薔薇の花泥棒 二十四話「銀の双剣と新郎の衣装」

 いつものように、リュビスの家に戻る前に俺の家へ寄る。

 箱と俺に巻き付けていたロープを解いた後、衣装を脱いで片付ける。

 流石に今の姿でこの箱を外に持ち出すわけにはいかないな、何かでカモフラージュしよう。

 家の中に使えそうな物があるか探してみる。

 確か母さんの仕事部屋に薬の材料を運ぶ用の袋があった筈、ちょっと見てくるか。

 キャビネットの扉を開ける。折り畳まれた黒い布が下段に置いてある。

 取り出して広げてみると、縦幅と横幅共に一メートル程の大きな袋であることが分かった。

 よし、これなら箱を十分隠せるだろう。

 念の為、箱の輪郭が分からないよう他の物も詰めておくか。

 俺の部屋で収納を漁る。リュビスの家に置ききれなかった物が腐るほど出てくるだろう。

 授業で作った魔法石やら、余った薬草やらがある。これらの中には宝具を清める薬の材料も含まれている。状態は良いし使っても問題無いだろう。失敗した時用の予備として持っていくか。

 種類ごとに分けて梱包した後袋に入れ、最後に中身が飛び出さないように袋の口を紐で縛る。

 これだけあれば中に宝具の箱があるなんて分からないだろう。

 袋を背負って外に出る。駆け足でリュビスの家に向かう。

 何事も無く辿り着いた。

 手洗いうがいを済ませてリビングの扉を開ける。

「ただいま」

「おかえり」

「おかえりー」

 二人は古文書や薬のレシピから目を離した。

「その袋、なんかパンパンに詰まってっけど宝具はあるんだな?」

「勿論だ。待ってろ、今から出す」

 紐を解いて袋の上の方にあった薬草をテーブルの上に並べる。袋に隙間ができたところで箱を引っ張り出す。

「かなり大きいね、此処まで持ってくるの大変だったでしょ」

「こんなん背負ってたらメッチャ目立つな。お前、よく逃げ切れたな」

 二人は箱をまじまじと見つめている」。

「リュビス、この前みたいに開けてくれないか?」

「うん、勿論」

 彼女が箱に触れると古城の時と同じように箱が強い光を放った。

 光が落ち着くと宝具が姿を現わした。一つの白い鞘に二つの刀身が収められている。これらの鍔は半円で、二つの剣がピッタリと合わさることで一つの円になるよう造られている。

 今回得られた宝具は双剣のようだ。

「形的にサーベルか? 反りはそこまで深くねぇから半曲刀か、リーチは長めみてぇだな。中はどうなってんだろうな。アメティス、ちょっと見てみてくれよ」

「分かった、が、その前に場所を変えよう。此処じゃ物を傷付ける可能性がある」

「なら、お父さんの工房に行こう。あそこなら開けたスペースがあるから」

 中庭を抜けて工房の中に入る。

 机や道具、大量の材料がしまわれた収納などの側を通って左隣の部屋に続く扉を開ける。

 広いが物が何一つ置かれていない空間だ。元は大型の魔法機械を作る為の部屋だったが今は使われていない。主がいない部屋は寂しそうだ。

「此処なら大丈夫だろ? さ、早く早く」

「そんなに急かすな。少し落ち着け」

 言われたとおり鞘から剣を抜いてみる。

 片刃が銀色に輝いている。裏刃も含めて刃こぼれなどは一切無い、新品同然だ。

 鍔の近くには狼の模様が彫られている。

 刃先は通常のサーベルより鋭い。刃が薄すぎて少し扱いを間違えただけでも簡単に欠けてしまいそうだ。

「パッと見ただけでも切れ味凄そうなのが伝わってくるね、普段武器を持たない私でも分かる。こう、勢いよく振り下ろしたら何でも真っ二つにできそう」

「その代わり、耐久性は少々低そうだが……」

「それはあれだよ、女神の力である程度補強してあんだよ。詳しい理屈は分かんねぇけど、女神とあの文明の人間達ならそれくらいできそうじゃね?」

 確かに、言われたらそうかもしれない。邪神の力の一部を封じている道具だ、多少の攻撃は物ともしないだろう。

「うーん、そういえば宝具ってなんで鏡とか剣とかの形してんだろうな。封印に使うだけなら、形は宝石でも石像でも何でも良いだろ? 用途が他にも――もしかして邪神を倒すのに必要なのかもしれねぇな。例えば、そのサーベルなら邪神に大打撃をぶち込めるとか」

「どうだろうな。古文書に宝具の強化を行ったと書いてあったからその可能性も考えられる。邪神への対抗策が花嫁衣装と対になる衣装、つまり防具だけだとは思えない。だがしかし、その強化の詳細が不明だからな。攻撃できるようにしたのではなく、より多くの邪神の力を吸収できるようにした可能性もあり得るからな」

「うーん。それ以上は古文書調べねぇと駄目か」

 サフィールの言うとおり、このサーベルを武器として用いることができるとした有利になるな。普段装備している剣より、女神の力が込められており、かつサクトゥリヒ・シュテラ文明の民達による強化を施された物の方が邪神に通用するだろう。

 ただ、これで戦うには一つ問題がある。俺がサーベルを扱うのに慣れていないということだ。

 剣術の授業で定期的に技のおさらいや模擬試合は一応している。しかし、命の危険が伴う戦闘をサーベルでやったことは無い。

 普段使用している剣はナイトリーソード、サーベルとは形状が異なる。いつもの感覚で振るだけでは到底邪神を倒すことなどできない。

 実際に使うとしたら、普段の剣と併用するのがベストだろう。

 まぁ、このサーベルの情報が不足している以上、今は考えても仕方が無いが。

「さて、サーベルの刀身も見終わったことだし、リビングに戻るか。俺らもちょっとだけど報告することあるしな」

 再び中庭を通ってリビングの椅子に腰掛ける。

「報告することは主に二つだな。一つは宝具の櫛がある神殿について。何か神殿の中は仕掛けだらけの迷路で、それを全部解かないと辿り着けねぇようになってる。扉の鍵をパズルで開けたり、その辺に置いてあるガラクタで道を作ったり、内容はいろいろだ。そしてここで朗報だ、女神像とか古城の謎解きみてぇに死んだり、怪我したりするような罠は一切無い! 時間制限も無しだ! ついでに入口付近に衣装の薬の材料もある!」

「今までと比べたらまだ楽だな」

「まぁその代わり、ヒントとかは書かれていなかったけどな。こんだけ甘々条件なんだから自力でやれってことか」

「そうだろうな。古城の時のように地道にやっていくだけだ」

 聞いた感じだと謎の数は古城よりも多そうだ。肉体労働もそこそこある。

 だが精神的なゆとりは結構ある。手を動かしていればいつかは宝具のある部屋に行けるだろう。

「で、二つ目の報告な。花嫁衣装の対になる衣装についてちょっとだけ分かったぞ。これは新郎の衣装と呼ばれていて、花嫁衣装と同じく幾つかの服と装飾品で構成されている。確か、ベスト、ワイシャツ、フロックコート、ズボン、手袋、革靴、えっと、あと何だっけ?」

「懐中時計、ポケットチーフ、アスコットタイ、そしてラペルピンだね。何処に隠されているかとかはまだ調べられてない。でも見た目の特徴とか共通点は記されてたよ」

 リュビスはある一冊の古文書を開いてそのページを俺に見せた。

 これらの衣装の共通点は青く光る蝶の模様が刻まれていることらしい。蝶は狼と同じく、女神ウェラモ・ヴァルファト・リベの使いだ。女神を示す模様と青い光があることから、この衣装に邪神を倒す力が込められていることを改めて理解する。

 殆どの衣装はこの模様以外特に変わったところは無い。が、ラペルピンだけは違った。

「色が変化する宝石か」

「うん、身に着ける人間によって変わるみたい。ラペルピンには、その人の戦闘スタイルとか魔力に合うよう衣装の性質を調節する機能が備わってるみたい。どう調節するかを色で判断してるとか」

 なんというか、便利すぎる機能だな。どんな人物が着ても十分な力を発揮できるようにしたと言うことか。それだけ邪神を滅ぼすことを強く望んでいるということか。

「兎に角、邪神を滅ぼす希望もちょっとは見えてきた感じだな。滅ぼすって方針に変更するにはまだ情報が足りてねぇけど、衣装が無えとどうにもなんねぇからな。方針変えんなら少なくとも何処にあるかの情報が手に入ってからだな」

「あぁ」

「そうだね」

「お、もうこんな時間か。今日はそろそろ休むか、明日は宝具清める薬作らねぇとだしな。俺はもう寝るな、おやすみー」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 材料を軽く片付けた後、風呂と寝支度を済ませる。

 新郎の衣装、見つかりさえすれば邪神を倒せるかもしれない。リュビスも二度とこんな目に遭わずに済む。

 だが肝心の身に着けられる人物の条件が分からない。ラペルピンの話から身体能力は関係無いと考えられるが。

 それも不明な今、邪神を滅ぼすことが夢のまた夢であることは変わらない。

 俺がその条件に当てはまる人物であれば。

 そんなことを思いながらベッドで目を閉じた。

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